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第四話 戦慄! 瓜二つの蒼き挑戦(Aパート)

「なぁ少年よ」


 銀杏の木前に敷いたゴザの上に座って、その幹に寄りかかって遠くを見ていた大吾が隣の少年に聞いた。


「なんでしょう?」


 体育座りになって図書館で借りてきた戦車操縦教本なる書籍を読んでいた少年が応えた。相変わらずの学生服姿なので本日も土曜日である。


 少年はこの公園へ始めて来てからなんやかんやあって、大吾が銀杏の幹に寄りかかって半分空いたゴザのスペースに座らせてもらえるくらいの仲にはなった。その間には大吾=レッドが全く登場しないエピソードなどもあったが(前回とか)まぁそういうことだ。ちなみにリンカーンもこの公園を定宿にすることに決めたようで、大吾と少年の間で丸くなっている。


 少年の将来の夢は陸上自衛隊の戦車乗りになることだが、元戦車戦隊の大吾に戦車の乗り方を教えてくれる先生になってもらうことは半ば諦めていた。しかし、生きるにおいて大切なことを教えてくれる人生の師匠としては着いていくことにした。だから今週もこの公園へとやって来ている。


 というわけで戦車の乗り方に関しては自己学習にすることにしたのだが、少年が分らないことがあると隣の大吾が教えてくれるようにはなっていた。


 大吾としても、それだけ一生懸命未来を目指そうと頑張っている者を無碍にもできず、少年が読んでいて意味の分らない用語などは教えてあげたりしているのだ。


 戦車戦隊の面々は戦車の操縦に関しては本物の戦車乗りには敵わないだろうが、戦車を取り扱う知識に関しては絶対的なものを持っている。「車内のどのレバーを引けばこうなる」等の知識は豊富にある。その知識量は多分世界一だろう。


 そんな一応は指導者となってくれた者が、少年へと尋ねた。


「世界は平和になったと思うか?」


 遠くを見ているまま大吾は言う。


「……」


 藪から棒に物凄く重過ぎる質問を少年はされてしまった。


「……大吾さんたち、ダイセンシャーのみなさんが平和にしてくれたんじゃないんですか」


 そう返すのが少年には精一杯であった。


「いや、俺の訊きかたが間違っていたな、もう一度言葉を変えて質問をしよう」


 しかしその少年の言葉は彼にとっての欲しかった解答ではなかったようだ。彼は質問自体を変えた。


「世界は変わったかと思うか?」


 それは先ほどの質問より更に抽象的で、中学生という時間軸で生きている少年には答えるのはほぼ不可能な質問に思えた。


「……わかりません」


 だから少年は、自分の素直な気持ちで答えた。


「そう、わからないんだよ。俺にもわからん」


 しかしそれが一番の解答だったのだろう。わからない、という答え。「平和になったか?」と言う問いに対してもわからないという答えが欲しかったに違いない。


「鉄車帝国デスクロウラーが現れる前の世界と、それが崩壊して消え去った後の世界を比べてみて『どこか変わったのか?』と言われりゃ、ほとんど変わっていない」


 今この瞬間を生きている時間であっても、途上国の貧困は続いているし、地域紛争も無くなってはいない。先進国での犯罪が増加するのだって止まってなどいない。


 そんな世界だから、その視野からすればデスクロウラーとダイセンシャーの戦闘も、この国で一年間続いた地域紛争程度の認識しかないのだろう。紛争の最中に流れ弾の一発でも他国へ飛んでいったら大被害となるが、砂漠地帯でずっと続いている紛争にしても他国にとってはそんな認識である。


 誤射された大量破壊兵器が他国に飛んでいく危険はずっと続くが、飛んでこなければ対岸の火事がずっと続くのも変わらない。


「鉄車帝国デスクロウラーを俺たちが滅ぼしたのは、本当に良かったことなのか」


 大吾が言う。


「あいつらこそこの腐った世の中を変えて、永遠に平和な世界を作れるヤツらだったんじゃないかって。だから俺たちは取り返しの付かないことをしてしまったんじゃないかって」


 それは誰に向けての言葉なのか。少年に向けての言葉ではないだろう。やはり自分自身に対する自戒なのか。


 なにが正しくてなにが悪いのか。事後になってから問われる意味。


 自分の全てを懸けて戦っていたあの日々はなんだったのか。


「世界を本当に変えたければ、一年に一回ペースで悪の組織が現れて、それに対抗するための正義の戦隊が現れて、その戦いが一年ほど続いて悪の組織は打ち倒されるが、次の年にはまた新しい組織が現れて新しい戦隊もやってくる――そういう繰り返しを延々と続けていくぐらいのことをしなければ変わらないんじゃないか……そんな風に思う」


 新しい侵略組織の創生、それへの対抗組織の育成。しかもそれを年に一回ごと。


 それはとてつもない力がが投入され続けることになると言うことだが、世界を揺るがした戦いの中心にいた人物は、それぐらいのことをしなければこの世界は変わらないと言う。それだけの循環を強いらなければ変わらないもの。


「あの……新しい悪の組織が現れたらまた大吾さんたちが戦えばいいんじゃないんですか? 大吾さんたち凄い強いんですし?」


 だがせめて、正義の対抗組織だけは現状で十分なのではと少年も考える。


「俺たちも強いが、戦うべき敵組織も恐ろしく強かった。毎回の戦いでお互いギリギリのせめぎ合いで力を徐々にすり減らし、最後の戦いではなんとか俺たちが勝てた。それだけだ」


 大吾の言葉。戦いの中心にいた人間だからこその言葉。


「それに次もまた戦おうっていうなら一番の問題がある」

「一番の問題?」

「ロボだ」


 少年の疑問に大吾は即答で返した。


「一年通してダイセンシャオーを使ってきたからな。最終決戦間際ではあちこち相当ガタがきてた。あれを翌年以降も使おうってんなら完全なオーバーホールを施すか、新たに二号機を作った方が良い。そしてロボを丸ごと作り変えるんなら戦隊だって、最初から新ロボの操縦を学ばせた人員で再構成の新しい組織を用意したほうが良いだろうって話だよ」


 戦車戦隊は巨大化戦車怪人に対抗するスーパーロボットも含めての組織だ。その円滑な運用を考えれば、新たな侵略組織が現れたのなら、第二の戦隊を用意した方が良いのはわかる。戦艦などの軍艦にしても常に単艦で行動しているわけではなく、ほぼ同じ能力の第二第三の同型艦が必ず存在し、複数の艦によって遊弋・訓練・保養を使い分けている。


 ダイセンシャオーを現状の他の戦闘兵器に例えるならそれは艦艇であろうし、艦艇が修理の名目で入渠した場合は、半年から一年くらいの時間は必要となる。つまりその間、戦えない。


「ブルーが死んだ話はおまえにはしたっけか?」

「いえ。……でも、ピンクさんのてももさんが話してくれました、この間」

「そうか、あいつ余計なことを」


 大吾はそう愚痴るが「憎まれ役は俺一人でイイっつうのに」と、小さく囁くのが少年には聞こえた。


「まぁ聞いているなら話は早い」


 隣で丸くなっているリンカーンの頭を軽くなでながら大吾が言う。


「ブルーが死んだ時、一番喜んだのは誰だと思う?」


 ブルーセンシャーが戦死していた事実。それは今まで少年が聞いていた話の中では一番のショッキングな出来事だった。


 そしてそれを一番喜ばしいと思う者。


 誰だろう。生き残りのデスクロウラー戦闘員だろうか。しかし今まで三回遭遇してきた元戦闘員達の戦いぶりから見ていると、どうもそんな雰囲気は感じられない。


 彼らもまた一般兵であろうけれど戦士であろうし、例え敵であったとしても同じ戦士が死んだとして、弔う気持ちはあろうけど、嬉しさを出す気持ちがあるだろうかと少年は考える。


 少年がそんな考えに至るのは少年が未熟ながらも戦士として目覚め始めているからだろう。何しろ戦車に乗って故郷を守る陸兵の一人になろうと夢見ているのだ。


 しかし大吾はそんな未来の戦士候補に向けて、辛辣な言葉を告げる。


「この国の政府だよ」

「……え?」


 少年の体がその言葉を受けて硬直する。


「俺たちは、現有戦力じゃ世界中の軍隊の力を合わせてようやく同じかってくらいの強さの鉄車帝国と代わりに戦ってやってたんだ、本来はこの国が保有する戦力である自衛隊が戦うべき相手と。そしてその自衛隊じゃ相手にできない相手と。だが、鉄車帝国という戦うべき相手が消えてしまった時、後にはとんでもないぐらいの戦力が残ってしまう。しかも個人戦力という形で」


 遠くを見ながら大吾が言う。


「俺たちは強い力を持ったまま、心も体も疲弊してしまった。他人から見たら一番取り扱うのに困る状態だ」


 その視線の先には整地作業がいまだに続く最終決戦の地、火力発電所跡がある。


「まぁ自国民を守るという大前提があるわけだからな、政府には。それもわからんでもないけど」

「……」

「やっと見つけたわよ」

「――む?」


 大吾と少年が話し込んでいると、それを遮るように女性の声が聞こえた。二人が声のした方に顔を向けると、三人の人物が立っている。覆面に全身タイツと言う怪しすぎる格好の男二名と、その間に女性が一人。


 その女性は露出の激しいバトルスーツに身を包み、身体の各部に機械内臓のプロテクターや怪しい動力パイプの繋がった部分鎧などを身に着けている。左半身にはマントを羽織っていて、右手には当たると良い感じに痛そうな鞭を持っている。


 その姿は正に悪の組織の女性幹部そのものの格好であり、両脇に従えるのもデスクロウラーのはぐれ戦闘員であった。


(え? 新しい鉄車帝国の幹部!?)


 その女性の姿を見た少年が驚愕の表情になるが、隣の大吾は落ち着き払った声を出した。


「――おまえは、疾風弾」

「え!? しっぷうだん!?」


 その名前を聞いて少年が更に驚く。


「疾風弾って、ブルーセンシャーの疾風弾火雪(しっぷうだんひゆき)さん!?」


 疾風弾火雪。ブルーセンシャーとして戦った戦車戦隊の一人。そして最後の戦いで少女を守るため消えてしまった戦士の名。


「でもブルーセンシャーって男の人だったと思いますが!?」


 しかし少年は戦死したはずの人間が現れた事実よりも、そっちの方に違和感を覚えてしまった。一般人の動画撮影によって残された記録には、ブルーは男性隊員の一人として映っている、が?


「ふふふふふ、あはははは! やっと気づいたか、我が名は疾風弾雪火(しっぷうだんせつか)! 火雪の双子の姉さ!」

「お姉ちゃんいたんですか!? しかも双子って!?」


 相手の発した事実に少年は驚愕する。それにしても気づいたというよりも、雪火の方が説明してあげたような気もするが。


「……と言うか前から思ってたんですけど、疾風弾ってこの国の財閥の中にも同じような名前があるような気もするんですけど、双子のお二人はそこの関係者かなんかなんですか」


 少年が隣の大吾に訊くと


「疾風弾財団の前総帥の実の子供だ」


 と、さらりと言ってのける。


「……前の総帥の子供ってことは、今は……」


 少年は物凄い怖い考えになって口ごもってしまったが、大吾がその先を代わって告げた。


「あいつが疾風弾財団の現総帥だ」


「……なんか株主総会的な映像で見たことあるような気もします、あの女性(ひと)」


 今から思うとその映像の真ん中に「戦車戦隊のブルーに良く似た人がいるなー」とも思っていたが、双子の姉だったわけだ。


「というか一番偉い人がそんな格好してて良いんですか」

「うるさいわね! 悪の幹部っていったらこうでしょ!」


 少年の口から思わず出た言葉に雪火が強く反論する。両脇のデスクロウラー戦闘員が賛成するようにうんうんと頷いている。デスクロウラー総帥も一般の目からしたらかなり奇抜な格好をしていたので、悪の組織にとってはこういう格好が正装なのかもしれない。なんだかプロレスラーみたいですね。


「雪火さんは火雪さんの双子のお姉さんなんですよね。じゃあなんでそんな戦闘服でこの場所に?」


 穏やかな雰囲気での登場とはとても思えない雪火に対して少年が訊く。


「我が目的は戦車戦隊の完全壊滅」

「完全壊滅……」


 少年がその言葉に思わず息を呑む。


「我が弟をむざむざ戦死させた弱き組織など、もはやこの世界には不要。我が手で痕跡残さず消し去ってくれる」


 それは戦死した弟の怨みを晴らす私怨によるものなのだろうかと少年は思ったが、何か少し違うようにも思う。第一、まずは怨むべきは直接手を下した鉄車帝国であろうし、しかも雪火はそこに属した元戦闘員と徒党を組んでここに現れている。


「このデスクロウラー戦闘員は?」

「外人部隊として招いているのよ」


 雪火の言葉に元戦闘員が「クロウラー」と答えている。目的は同じなので共闘も容易いのかもしれないが、なんだか他の目的もあるような気も少年にはしてきた。


「……」


 そんな第三勢力として現れた雪火と少年の掛け合いの間、大吾は静かにしていたのだが、その大吾がなんだか自分のこと(特に体)を注視しているのに、雪火は気づいた。


「なによジロジロ見て。あたしがあまりにもセクシーすぎて見惚れちゃうのかしら?」

「いや、あんたが美人でスゲェ良いプロポーションなのも認めるんだが」

「なによ、おだてても容赦しないわよ?」


 といいつつも、そんな風にいわれて悪い気はしない雪火だが


「でもなんかイケメンが女装してるみたいでなんか変だな、おっぱいデカイけど」


 大吾が今までずっと見ていた感想を述べると雪火はふらっとよろめき、四つんばいになって倒れてしまった。「クロウラー!?」と両脇の戦闘員が心配になって声をかける。


 ダイセンシャーのブルーといえば、当時からかなりのイケメンであると噂されており実際にもイケメンである。その双子の姉なのだからやっぱりイケメンである。そんじょそこらの男よりよっぽど男前だ。


「ええそうよ……自分だってわかってるわよ。いっくら化粧しても似合わないから今日だってスッピンよ!」


 俯いたまま怨み節のように、呪いの言葉が地面から上ってくる。コスチュームから半分ぐらいはみ出している形の良いお尻が、怒りでぷるぷる震えている。


「中高と2月14日には最低百個はチョコレートもらってたわよ毎年! こんちくしょう!」


 多分彼女の場合、学生時代はその立場上お嬢様学校に行っていたはずであり、そんな閉鎖空間にいる女子たちにとってはこんな男性っぽい顔の美人がいれば、歪んだ恋愛対象とされても仕方の無い処である。


「いいじゃんモテモテで」

「同姓にいくらモテたって嬉しくないわ! って、そうじゃない!」


 雪火はその叫ぶ勢いのまま再び立ち上がった。


「もう容赦しないわ、絶対あなたは倒す! デスクロウラー戦闘員よ、このウスラトンカチに鉄槌を下してやりなさい!」

「クロウラー!」


 雪火の言葉に二人の元戦闘員が待ってましたとばかりに声を合わせて、前に出る。


「やれやれ、本日もバトルの時間か」

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