6★潜入捜索とディーの喜びと締め出される2人
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「……はあ? 潜入捜査で盗賊の頭目になったぁ?」
俺はジト目を向け、頭痛をこらえるように額を押さえた。
「潜入捜査官がなりゆきでトップに君臨してんじゃねえよ! どんな潜入の仕方したらそうなるんだよ!」
「仕方なかろうが! 潜入したのは一ヶ月前じゃ! あたいはこの通り図体が無駄にデカいからの、目立ちすぎて襲撃の先陣には混ぜてもらえず、ずっとアジトで後方支援ばかりさせられておったのじゃ」
「後方支援って……留守番と荷物運びかよ」
「うむ。じゃが十日ほど前、前の頭が夜這いをかけてあたいの寝込みを襲ってきおったのじゃ」
ラヴァーは忌々しそうに唇を尖らせ、逞しい二の腕を組んだ。
「で、寝ぼけ頭で顔面に正拳突きを叩き込んで返り討ちにしたら、首の骨が変な方向に曲がってそのままくたばってしまってな。残りの下っ端どもが『ひ、ひいいっ! 今日からアンタが新しいお頭だァーッ!』と平伏してきて、あたいが頭に祭り上げられたのじゃ」
「あっさりトップ交代劇を演じるな! 腕力でねじ伏せといて潜入もクソもあるか!」
「仕方なかろう、あたいの操操が危機だったのじゃから正当防衛じゃ! ……で、その数日後じゃよ。野盗どもと裏で付き合いのある悪徳商人がやってきての。『このガキは売れ残ったから好きにしろ』と、マリをこのアジトに置き去りにしていきおった」
ラヴァーの言葉に、俺は思わず眉をひそめた。
さっきマリが捕まっていた理由、そしてラヴァーがマリを殴り飛ばしていた理由のピースがハマっていく。
「先ほども言うた通り、野盗の男どもの慰み者になるくらいなら、あたいが徹底的に痛めつけて手を出させんようにした方がマシじゃと判断したまでよ。……あたいも本意ではなかったが、潜入捜査を維持しつつコイツを守るには、あそこがギリギリの落とし所じゃった」
「…………」
胸糞の悪い話だ。
人買いの商人に、野盗ども。下衆な連中の思惑が渦巻く中で、女一人でその場を乗り切るためのラヴァーなりの苦肉の策だったというわけか。
乱暴で無茶苦茶な言い分だが、嘘をついている目ではない。
だが――俺はふと、隣で腹をさすりながら満足そうに尻尾を揺らしているマリに視線を戻した。
大きなオッドアイに、愛らしい猫耳と仕草。どう見ても小動物めいた可愛らしさの塊だ。
(……しかし、こんなに可愛いのに『売れ残り』だと?)
獣人への差別なのか、それともあの異常なまでの超回復スキルのせいで扱いに困ったのか。
いずれにせよ、こんな子供を「商品」として放り捨てていくような奴がいると思うと、胃の底にフツフツと黒い怒りが湧き上がってくる。
「……ま、お前がその商人のツラを拝んでるなら、後で話を聞かせてもらうとするか」
俺がポツリと呟くと、マリが「にゃ?」と不思議そうに首を傾げた。
厨房の片付けを手早く済ませ、腹を満たした二人を引き連れて大広間へと戻る。
そこには、俺がここに乗り込んでくる前にマリがぶちのめした、副頭目二人の死体が転がったままになっていた。血の海こそ乾きつつあるが、放置しておけば異臭を放つし衛兵への引き渡しも面倒になる。
「ディー、こいつらもストレージに放り込んどいてくれ」
『了解。対象の質量を確認。問題なく格納可能です』
床に広がったディーの黒銀の流体が、二つの死体をスルスルと包み込み、水面に沈めるように影の中へ呑み込んでいく。血痕ごと跡形もなく消え去る完璧な仕事ぶりだ。
「……おお、そいつらは指名手配の賞金首じゃからな。丸ごと保存して街の詰所に突き出せば、いい路銀になるぞ」
感心したように頷くラヴァーだったが、次の瞬間、ハッと目を見開いて足元の黒銀のスライムを凝視した。
「……待て。今、そのスライム、喋ったよな? しかも人型の死体を丸ごと飲み込んで平然としておる……。おいおい、自我があって人語を解し、これほどの空間収納を持つ従魔なんぞ前代未聞じゃぞ! こいつ、市場に売りに出せば副頭目の賞金首なんぞ足元にも及ばん桁外れの金になるぞ!」
「売るわけねえだろアホか!」
俺は即座にラヴァーを一喝した。
「ディーは俺の大事な相棒で家族だ。いくら積まれようが手放すわけねえだろ!」
ピタッ、と静止したディーの黒銀の球体が、次の瞬間――ブルルルルルルッ! と物凄い高周波で激しく振動した。
波紋が激しく広がり、表面がプルンプルンと波打っている。
「……おいディー、どうした? 故障か?」
『――主からの「家族」指定を認知。感情エミュレート回路に多大な幸福パルスを観測。主への忠誠度がカンストを突破しました』
「元機械のくせにめちゃくちゃ喜んでんじゃねえか。」
照れ隠しに軽く苦笑いしつつ、俺はディーに指示を出した。
「とりあえず今夜はここで仮眠をとる。ディー、分体を洋館の要所に配置して、外からの侵入者や魔物の警戒を頼めるか?」
『命令を最優先事項として受諾。周囲全方位の完全防衛網を展開します』
ポン、ポン、ポン、ポンッ! と、ディーの体から次々と子スライムが分裂していく。
普段なら数匹で十分なはずなのに、なぜか景気よく二十匹近くの分体が廊下や窓際、天井へと散開していった。やっぱり分かりやすく機嫌が良いらしい。
「よし。部屋は山ほどあるらしいし、階段を上がるのも面倒だから一階の部屋で寝るとするか」
手頃な寝室の扉を開け、寝床を確保しようと足を踏み入れた。
……が、背後からズラズラと足音がついてくる。
のっそりと入ってきた馬のティー。
そのすぐ後ろから、当然のような顔をして入ってくるラヴァーとマリ。
「……おい。ティーはエントランスが広くて寒けりゃ部屋に入ってもいいが、なんでお前ら二人までついてきてんだよ」
「え? 一緒に寝るにゃ! マグノリア、エンマお兄ちゃんとくっついて寝たいにゃ!」
「うむ! あたいもエンマ様と同じベッドで褥を共にする気満々じゃぞ! さあ、遠慮はいらん、いつでもあたいの豊かな胸に飛び込んでくるがよい!」
怪力猫耳娘と、服が破けかけの豊満すぎる元野盗の頭目。
どちらも寝返り一発で人間の骨を折るか、別の意味で俺の貞操を粉砕してくる危険物だ。
「冗談じゃねえ! 二人とも自分の部屋探してとっとと寝ろ! 男の部屋にズカズカ入ってくんな!!」
俺は全力で二人を部屋の外へと押し出し、バタンッ! と音を立てて頑丈な扉を閉め、鍵をガチャンと掛けた。
「にゃーッ! 締め出されたにゃーッ!」
「エンマ様ーッ! あたいの温もりを拒むでないーッ!」
外から響くドンドンという扉を叩く音を聞き流しながら、俺はベッドの上にどっかりと腰を下ろした。
足元ではティーがフンと鼻を鳴らし、部屋の隅で一匹のディーがぷるんと揺れている。
「……やれやれ。異世界初日からとんでもねえ夜だな」
溜め息をつきながらも、横になった俺の瞼は、心地よい疲労感とともに急速に重くなっていった。
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