5★キャットファイトと異世界初調理と色々
本日初投稿につき5話アップ!
コレは5話目です。
状況を見てもう少しアップするかもしれません。
「あたいが先だ! どきな小娘!」
「マグノリアが先だもん! 引っ掻いてやるーッ!」
血を流し、骨を折っていたはずの2人が、床の上で転がり回りながら髪を引っ張り合ってギャーギャー喚いている。
ラヴァーに至ってはいつの間にか拘束が解けている。
さっきまでの命をかけた殺し合いはどこへやら、完全に低レベルな泥沼キャットファイトだ。
「……なぁディー」
『はい、主』
「女の喧嘩ってのは、犬も食わないって言うよな」
『地球の日本のことわざですね。極めて愚か、かつ無意味な争いのため、誰も仲裁しようとしない様を指します』
「だよな。放っとこうぜ」
マグノリアには超回復の再生スキルがあるから死ぬ心配はないし、元はといえば野盗の頭目だったラヴァーの方は……まあ、万が一くたばったところで元々自業自得だ。痛い目を見るくらいがちょうどいい。
「ティーを迎えに行ってからお宝でも探そうぜ。」
『主、お宝は地下室に保管されてます。』
「それは言っちゃダメなやつ!お宝探しは自分で探すのが楽しいんだからさ!」
『……人間の非効率なロマンティシズムを感知。以後は沈黙を保ちます』
「それでいいんだよ。空気の読める相棒になれ」
背後から響く「噛み千切ってやる!」「誰のケツを噛んでんだババア!」という耳障りな罵声を置き去りにして、俺は洋館の重い扉を押し開けて外へ出た。
ひんやりとした夜風のなか、前庭へと視線を向ける。
そこには、俺が待たせておいた馬のティーの姿があった。
……が、ただ立って待っていたわけではなかった。
ティーは、巨大なボア――自分の何倍もの巨躯を誇るイノシシの毛皮の上で、完全にリラックスして横たわっていたのだ。
肉厚でフカフカしたイノシシの毛並みを天然の高級ベッド代わりに使い、足を投げ出してスヤスヤとくつろいでいる。大物すぎるだろ、こいつ。
俺が近づいて足音を立てると、ピクンと耳を動かしたティーがぱちりと目を開けた。
俺の顔を認めるなり、パッと表情を明るくしてのっそりと起き上がってくる。
「ブルルッ!」
嬉しそうな短いいななきを上げ、ティーは甘えるように大きな鼻面を俺の胸元へとすり寄せてきた。
巨大なイノシシの上で堂々と寝そべっていたとは思えないほどの無邪気さだ。
「ははっ、待たせて悪かったな。……というかお前、そのボアの上で寝てたのかよ。いい度胸してるな」
逞しい首筋をポンポンと叩いてやると、ティーは満足そうに目を細めて鼻息を吹きかけてきた。街道で瀕死だったとは思えないほど毛艶も良く、落ち着き払っている。本当に賢くて愛嬌のある相棒だ。
とはいえ、改めて見るとこのボア、山のようにデカい。
これをティーが単騎で返り討ちにしたのだから大したものだが、血の匂いもするし、こんな巨大な獲物を夜の森の前に放置しておくのは危険すぎる。他の肉食獣や魔物を呼び寄せかねない。
「なぁディー、お前のその亜空間ストレージってやつ、この山みたいなボアも丸ごとしまえたりすんのか?」
『問題ありません。対象の質量および体積を計測完了。個体の収納許容量の約0.3%に過ぎません。即時格納可能です』
「0.3%って……お前の腹の中どうなってんだよ。頼もしいな、頼むわ」
『了解』
ディーの体から黒銀の流体が触手のようにスルスルと伸び、巨大なボアの巨体を覆い尽くしていく。
次の瞬間、まるで水面に沈むかのように、山のようなイノシシが跡形もなく影の中へと吸い込まれて消えた。血痕ひとつ残さない見事な仕事ぶりだ。これで解体と保存の手間も省けたし、最高の肉のストックが手に入った。
「よし、すっきりしたな。ティー、外に置いとくのは危ないから、お前も屋敷の中に入るぞ。エントランスなら広さも十分だ」
「ブルルッ」
ティーは物わかりよく頷くように鼻を鳴らすと、俺の後について大人しく屋敷の中へと足を踏み入れた。
広間では、先ほどまで激闘を繰り広げていたラヴァーとマグノリアが、完全にスタミナ切れを起こして床で折り重なるように爆睡している。
ティーはその2人をチラリと一瞥したものの、特に気にする様子もなく、広間の隅の安全そうなスペースに落ち着いて座り込んだ。
「さて……相棒の安全確保もボアの回収も終わった」
俺は両手の指をパキパキと鳴らし、薄暗い廊下の奥へと視線を向けた。
「ディー、案内しろ。ネタバレされた地下室へお宝探しだ! ついでにティーの美味い干し草と、俺たちの夕飯の食材もガッツリ確保するぞ!」
『了解。地下保管庫への最短ルートを網膜HUDに表示します』
「お……あるじゃねえか!」
地下倉庫の中に踏み込むと、そこには盗賊たちが街道で略奪してきたと思しき物資が山積みになっていた。
革袋に入った大量の硬貨(金貨、銀貨、銅貨がぎっしり)
燻製肉や干し魚、塩漬けの樽、小麦粉の袋などの保存食糧
ワインや蒸留酒の入った木樽
そこそこ手入れされた調理器具と鉄鍋。
「よしよし! 金も食い物もある! これなら当面の生活費にも困らないし、今夜のメシも何とかなりそうだな」
調理師としての血が騒ぎ、樽の香りを嗅いだり小麦粉の質を確かめていると、足元のディーがぷるんと揺れた。
「ディー頼む!」
『お任せください。』
因みに盗賊が貯めた財宝は、討伐者⋯⋯全て俺の物になるそうだ。
報告して税を払わないとバレたら盗賊扱いされるらしい。
「さて……金と食材が手に入った。次は厨房の確認と、今夜の夕飯だな。」
厨房へ足を踏み入れると、思わず目を見張った。
血生臭いアジトの雰囲気とは打って変わって、調理場は驚くほど綺麗に片付いており、清潔そのものだったのだ。
使い込まれた鉄鍋やフライパンは油を引いて丁寧に手入れされ、作業台となる分厚い木のまな板もきっちり削られて磨かれている。
(……へぇ、盗賊のねぐらにしちゃ上出来すぎるな。元料理人でもいたのか?)
荒くれ者揃いの野盗の中に、几帳面に厨房を守っていた奴がいたのかもしれない。料理人として、こういう手入れが行き届いた調理場を見るのは素直に気持ちがいいものだ。
棚の調味料を検分してみる。
置いてあるのは、粗い岩塩、茶色い砂糖、それに乾燥させた黒コショウの実くらいで、数はかなり少ない。
木箱の中には、異世界転生モノの定番とも言えるカチコチに硬い黒パンと、地球でいうタマネギやニンジンによく似た根菜類。それに地下倉庫から運んできたカチコチの燻製肉や干し肉がある。
ティーが仕留めてディーに丸呑みさせた巨大ボアは、さすがにこのデカさじゃ室内で解体なんてできないし、夜の外で解体なんてしたら血の匂いで他の魔物を呼び寄せて危険すぎる。あれは後回しだ。
「さて……この硬いパンと野菜、それにカチコチの干し肉で何を作るか……」
腕組みをして今夜の献立を組み立てようと思案していると、足元のディーが無機質な声で語りかけてきた。
『主、ステータスの確認を忘れていませんか?』
「あ……」
俺は思わずポンと手を打った。
「そういやそうだった! 安全な場所で確認する目的で来たんだもんな。色々ありすぎてすっかり忘れていたわ」
調理台に手をつき、俺はふうと息を吐いた。
「よし、メシを作る前にまずは自分の手札の確認だな。ディー、ステータス画面ってやつを出せるか?」
【レベル】24
【個体名】 ヒビノ・エンマ(日比野 閻魔)(24)
【種 族】 人間(異世界転移者)
【メイン職業】 剣鬼
【サブ職業】 料理人
【状 態】 良好/空腹(軽度)
【能力値】
体 力(HP):B(長時間の立ち仕事・肉体労働に適応)
筋 力(STR):B+(寸胴鍋や重量物の運搬で鍛えられた基礎筋力)
敏 捷(AGI):A(神速の刃物捌きおよび間合いの支配)
魔 力(MP):C(平均的だが、スキル発動の燃費は極めて良好)
耐久力(VIT):B(油ハネ・刃傷・軽度の打撃に対する高い耐性)
【保有スキル】
ユニークスキル【調味料】
使用者がこれまでの人生において「味覚として記憶・認知・使用」したことのあるあらゆる調味料、下処理剤、風味付け物質を、微量の魔力を消費して無尽蔵に具現化・生成する。
職業特性・コモンスキル
【刃の極致(対象の精密解体・絶対的切断補正)】【食材鑑定(直感)】【火加減把握】【下拵えの極致】【言語完全理解】
【契約・使役ユニット】
生体ナノマシン・スライム『ディー』(防衛・亜空間ストレージ・情報分析・加工変形)
使役獣『ティー』(品種:強魔馬/高い知性・突進力・警戒能力)
「……おいおい、ずいぶんと物騒な肩書きだな」
思わず画面を凝視しながら苦笑いが漏れた。
メイン職業が【剣鬼】で、サブが【料理人】。どう考えても人をスパッと両断するための戦闘職が表に出てしまっている。だが、今の俺にとってはメインもサブも関係ない。
「料理人がサブについてるなら上等だ。それに……このユニークスキル、本当に俺が使ったことのあるやつなら何でも出せるのか?」
『肯定です。塩、砂糖、醤油、味噌などの基本調味料から、複合スパイス、各種ソース、さらには下処理や隠し味に用いる発酵調味料や飲料に至るまで、主が「調理・加工用」として認識している物質であれば、微小な魔力消費のみで生成可能です』
「マジかよ……! ってことは、カレー粉も、コンソメも、ウスターソースも、肉を柔らかくするための炭酸水も出せるってことじゃねえか!」
さっきまでの疲労が吹き飛ぶくらい、胸の奥から料理人としての熱い血が沸き上がってくるのを感じた。
メイン職がどれだけ血生臭い【剣鬼】だろうと、俺が握るのは包丁であり、やりたいのは美味いメシを食わせる屋台だ。
厨房を見渡す。
あるのは、カチコチに硬い干し肉に、泥付きのタマネギとニンジン、そして石のように締まった黒パン。
「よーし……手札は揃った。ディー、薪に火をつけて鍋に湯を沸かせ。今夜は手に入ったカチコチの保存肉を、極上の『カレースープ』に化けさせてやる!」
『了解。コンロ部の予熱および調理支援モードへ移行します』
俺は腕まくりをして、使い込まれた分厚いまな板の前に立った。異世界での記念すべき最初の調理の始まりだ。
まずはカマドの支度だ。
ディーの分体が器用に薪をくべ、ナノマシンによる微細な摩擦熱であっという間に理想的な種火を起こす。火加減を【火加減把握】のスキルで確認すると、まるで長年連れ添ったガスコンロのように熱の揺らぎが直感で伝わってきた。
「よし、いい火力だ。まずは肉の下処理からいくぞ」
まな板の上に、地下倉庫から持ってきたカチコチの干し肉をドンと置く。
木の棒で叩けばカンカンと硬質な音が響くほどの代物だ。普通の人間ならスープで何時間も煮込んでようやく繊維がほどけるかどうか、というレベルの硬さである。
「普通に戻してたんじゃ夜が明けちまう。……試してみるか、【調味料】」
意識を集中し、頭の中に「ある飲み物」を思い浮かべる。
肉の繊維を素早くほぐし、酸味と甘みでコクを深めるための、下処理用炭酸水――。
「出ろ、無糖の強炭酸水」
手のひらの空間がわずかに歪んだかと思うと、シュワシュワと心地よい気泡を立てる冷たい炭酸水が、ボウルを満たすようにドッと溢れ出した。魔力の抜け感は指先がほんの少し温かくなった程度。燃費は抜群だ。
「うおっ、本当に出た……! よし、これを一口大に切った干し肉にぶっかける!」
ここでメイン職業【剣鬼】と【刃の極致】が火を吹いた。
厨房にあった錆ひとつない牛刀を握った瞬間、指先から刃の先端までが完全に自分の神経と直結する。
――トトトトトトトッ!
まるで豆腐でも刻むかのような軽やかさで、岩のように硬かった干し肉が一瞬にして美しい一口大のサイコロ状へと切り分けられていく。
「すげぇなこの切れ味……! 刃物が吸い付くようだ」
切り分けた干し肉を炭酸水に浸し、ついでに【調味料】で呼び出したすりおろし生姜とニンニクを揉み込む。炭酸の気泡が肉の硬い筋組織をグイグイと押し広げ、あっという間に瑞々しさを取り戻していく。
「次は野菜だ!」
泥付きのタマネギとニンジンを水で洗い流し、神速のリズムで薄切りと乱切りに仕立てる。
熱した大鍋に【調味料】で出したサラダ油を引き、まずはタマネギを投入。
ジュワアアアッ! と心地よい爆音とともに、甘やかな蒸気が立ち上る。
「しっかり炒めて飴色の一歩手前まで甘みを引き出す。そこにニンジンと、炭酸水で下処理した肉を汁ごとぶち込む!」
鍋肌から立ち上る肉と香味野菜の香ばしい匂い。
そこへ、本日の主役を呼び出す。
「【調味料】――S&Bのカレー粉、それに顆粒のチキンコンソメ!」
手のひらから黄金色のスパイスの粉末と、深い琥珀色のコンソメが鍋の中へと舞い散った。
クミン、コリアンダー、カルダモン、ターメリック……数十種類のスパイスが油と熱に出会った瞬間、厨房の空気が一変した。
――バチィッ! と弾けるような、圧倒的なスパイスの香り。
それはこの異世界には絶対に存在しない、人間の食欲の根源を力ずくで揺さぶる「日本のカレー」の芳香だった。
「仕上げの隠し味だ。……ほんの少しのウスターソースと、ビターチョコレートをひとかけら」
トロリと溶け込むチョコがスープに深みと艶やかなコクを与え、酸味の効いたソースが全体の輪郭をキリッと引き締める。
煮込み始めてからわずか十数分。
本来なら半日以上煮込まなければならないはずの干し肉は、炭酸水とスパイスの魔法によって、木べらで押せばホロリと崩れるほど柔らかく煮上がっていた。
「……完璧だ。カレースープの完成!」
黄金色に輝くスープから立ち上る湯気を吸い込み、俺が会心の笑みを浮かべた、その時だった。
――ピクッ。
廊下の向こう、広間の床で倒れていたはずの2つの影が、まるで操り人形のように同時にピクピクと痙攣した。
「……ん……? な、なんじゃ……この暴力的なまでに美味そうな匂いは……?」
「ふにゃ……? お肉……? すっごくいい匂いがするにゃ……」
床を這いずるような不穏な物音が、猛烈な勢いで厨房の扉へと近づいてきた――。
ズルズル、ズルズルと、床を這う湿った音。
厨房の頑丈な木製ドアの隙間から、二組のギラついた目がヌッと現れた。
「め、飯……肉の匂い……!」
「お腹すいたにゃ……死んじゃうにゃ……!」
さっきまで髪を引っ張り合って血で血を洗うキャットファイトを演じていた大女と猫耳少女が、今やゾンビのように肩を並べて這いつくばっている。
ボロボロの衣服、泥だらけの顔、乱れた髪。だが、その鼻先だけは寸分の狂いもなく、俺の目の前で湯気を立てる大鍋へと向けられていた。
「おいおい、さっきまでくたばりかけてた連中が、匂い一発で蘇るんじゃねえよ」
俺が苦笑いしながら木べらを置くと、ラヴァーが鼻の穴をこれでもかと膨らませながら、よだれを垂らさんばかりに喉を鳴らした。
「な、なんじゃあこの匂いは……! スパイス……? いや、こんな刺激的で脳天を揺さぶるような香草の香り、王都の高級料理屋でも嗅いだことがないぞ……!」
「お肉が……トロトロのいい匂いがするにゃ……! おじちゃん、それちょうだい! マグノリアに食べさせてにゃ!」
すがりつくように調理台の端に手をかける二人に、俺はピシャリと牛刀の背をまな板に打ち鳴らした。
――コォン! と硬質な音が厨房に響く。
「待て。ウチの飯を食うなら、まず顔と手を洗ってこい。泥だらけの手で料理に触るんじゃねえ」
「ひっ……!」
「うぐっ……」
冷徹な【剣鬼】の眼光をチラリと利かせると、二人は本能的な恐怖を思い出したのか、ピシッと背筋を伸ばした。
野盗の巨魁だろうが、再生能力持ちの獣人だろうが、厨房において料理長の指示は絶対だ。
「ディー、水を出してやれ。適当に汚れを落とさせたら、あそこのテーブルに座らせろ」
『了解。簡易洗浄用ナノ水流を展開します』
ディーがスルスルと二人の手元と顔の汚れを器用に吸い取ると、二人は大人しく厨房脇の丸テーブルへと腰を下ろした。
座った瞬間から、首を長くして鍋を凝視している。その視線の圧がすごい。
「よし、待たせたな。カチコチの干し肉と根菜で作った、特製カレースープだ。……あそこの硬い黒パンも、このスープに浸して食えばいくらでも入るぞ」
深めの木皿に、黄金色に煮上がったスープをたっぷりと注ぐ。
サイコロ状の肉は炭酸とスパイスの力で繊維の奥まで煮崩れかけ、飴色に溶けかけたタマネギと鮮やかなニンジンが彩りを添えている。
皿を二人の前にコトッと置いた瞬間、凄まじい湯気が立ち上った。
「「……いただきます!!」」
教えたわけでもないのに、二人の声が綺麗にハモった。
木のスプーンを握りしめた二人が、まるで飢えた獣のように同時にスープへと飛びついた。
まずは、熱々のスープをたっぷり含んだ木のスプーンを口へと運ぶ。
その瞬間、二人の動きがピタリと硬直した。
「――っ!?」
「にゃっ……!?」
目を見開き、全身を雷に打たれたように震わせる。
最初に口を開いたのは、巨躯を震わせたラヴァーだった。荒くれ者の頭目とは思えないほど真剣な眼差しで、己の舌の上で広がる風味を確かめるように目を細める。
「な、なんという重層的な味わいじゃ……! 幾重にも重なり合う香草の刺激が鼻腔を突き抜けたかと思えば、その直後にタマネギの芳醇な甘みと、肉の濃密な出汁が怒涛のように押し寄せてくる……。しかも、この肉は何じゃ!? あたいらが街道で略奪した、あのカチカチで煮込みに半日かかる古びた干し肉のはず……! それがどうして、噛む必要すらないほどホロホロと繊維がほどけるのじゃ!?」
驚愕のあまり、まるで王都の一流料理評論家のような饒舌さで熱弁を振るい始めるラヴァー。
一方のマグノリアは、スプーンを放り出しそうになりながら器に顔を近づけ、ピクピクと鼻をひくつかせていた。オッドアイの瞳をらんらんと輝かせている。
「お肉やわらかい! すっごく美味しいにゃ! ……でも、それだけじゃないにゃ……! このスープの奥のほう、すっごく甘くて、ちょっとだけ苦くて、舌がとろけそうになる不思議な『いい匂い』が混ざってるにゃ!」
「ほう、よく分かったな。隠し味に入れたチョコレートだ」
俺が言うと、マグノリアは猫耳をピンと立て、身を乗り出してきた。
「チョコ……れーと? 何それ知らないにゃ! でも絶対それ単体でもめちゃくちゃ美味しいやつにゃ! ねえおじちゃん、それちょうだい! そのチョコなんとかってやつ、そのままマグノリアに食べさせてにゃーッ!」
「駄目に決まってんだろ。飯の前に菓子食うガキがいるか。まずはスープとパンを綺麗に平らげろ」
「うにゃーッ! ケチーッ! でもこのスープも止まらないにゃ!」
文句を言いながらも、マグノリアは石のように硬かったはずの黒パンをスープにドボンと浸し、ジュワッと吸わせて口いっぱいに頬張った。
スープを吸って柔らかくなったパンを噛み締め、蕩けそうな至福の表情を浮かべる。
「あたいにもそのパンを寄越せ! ……ぬおおっ、この滋味あふれる黒パンの酸味が、スパイシーなスープと合わさることで完璧な調和を奏でておる……! 止まらぬ、スプーンが止まらぬぞ……! お前さん、一体何者なんじゃ……!?」
「がつがつ食うのはいいが、喉詰まらせんなよ」
先ほどまでの殺伐とした空気はどこへやら。
綺麗に洗わせたテーブルの上で、二匹の飢えた獣が夢中で皿を空にしようと競い合っていた。
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感想頂けると有頂天になるかも(笑)




