第1話 Fランク《波魔法》
新連載です!
Fランクと判定された《波魔法》を、前世のうろ覚え知識でひたすら研究していく物語です。
主人公だけでなく、今後は一癖も二癖もある仲間たちも増えていきます。
ぜひレインと一緒に、《波魔法》の可能性を見届けていただければ嬉しいです!
「《波魔法》。適性ランク――F」
神官の声が、広い儀式堂にやけに大きく響いた。
十五歳になった俺――レイン・アークライトは、祭壇の上に置かれた水晶へ手を触れたまま固まっていた。
目の前の薄い光板には、確かにそう表示されている。
【固有魔法:《波魔法》】
【適性ランク:F】
「……F?」
思わず声が漏れた。
周囲からも、小さなどよめきが広がる。
「波魔法って何だ?」
「アークライト家なのにF?」
「兄二人は高位魔法だったよな」
別に笑い声が上がったわけではない。むしろ反応に困っている、という方が近かった。
それが妙にきつかった。
アークライト家は代々、優秀な魔法使いを輩出してきた家だ。長兄はAランク、次兄もBランク。俺も当然、それなりの魔法が出るものだと思われていた。
父も少し離れた場所で腕を組み、何とも言えない顔をしている。
「……そうか。Fか」
責めるような声ではなかった。
だからこそ、余計に申し訳なくなる。
「まあ、まだ実際の性能を見てみないと分からないだろ」
俺がそう言うと、父は一瞬だけ目を見開き、それから小さく頷いた。
「そうだな。試してみるといい」
儀式堂の奥には、覚醒した魔法を簡単に測定するための訓練設備がある。
俺は指定された位置へ立ち、十メートルほど先の丸い木製標的へ手を向けた。
魔法の使い方そのものは、不思議と分かる。
体の内側にある魔力へ意識を向け、《波魔法》を発動する。
「……いけ」
空気がぶるりと揺れた。
次の瞬間、標的がほんの少し震える。
終わり。
「……え?」
何かもっとあるのかと待ったが、ない。
隣の測定器に数字が浮かぶ。
【威力:2】
「弱っ」
思わず口から出た。
神官が咳払いする。
「ええと……Fランクとしては、珍しくない数値です」
「フォローになってないですよね、それ」
父は黙って額へ手を当てていた。
火球なら標的を焦がし、風刃なら表面へ傷を残す。兄たちの覚醒時には、もっと派手な結果が出たと聞いている。
それに比べて俺は、標的を少し揺らしただけ。
なるほど。Fランク。
納得しかけて、ふと止まった。
「……あれ?」
体の内側を確認する。
魔力が、思っていたより減っている。
俺はもう一度、同じくらいの魔力を込めて波を放った。
標的が揺れる。
【威力:2】
やっぱりだ。
「どうした?」
父に聞かれて、俺は自分の手を見る。
「いや……こんなに魔力を使ってるのに、威力が2しか出ないのが変だなって」
「魔力効率が悪い魔法なのだろう」
「……そうなのかな」
普通なら、それで終わる話なのかもしれない。
けれど、俺は妙に気になった。
弱いなら弱いでいい。
ただ、どうして弱いのか分からないままなのが、気持ち悪い。
その日の夜。
自室に戻った俺は、机の上に水を張った浅い皿を置いていた。
Fランクだったことより、昼間の違和感の方が頭から離れなかった。
「魔力はちゃんと減ってる。なのに威力はほとんど出ない……」
指先で水面を軽く叩く。
中心から、小さな波紋が広がった。
それを見ていると、ずっと昔の記憶がふいに蘇る。
日本。
学校。
黒板。
教師が何か説明していた。
そう。俺には前世の記憶がある。
別に天才だったわけじゃない。物理が得意だった記憶もない。テスト前に慌てて覚えて、終わればだいたい忘れるような普通の高校生だった。
だから公式なんてほとんど覚えていない。
けれど、現象くらいなら何となく残っている。
「波って……広がるよな」
水面の波紋は、中心から周囲へどんどん広がっていく。
もし《波魔法》も同じなら。
俺は昼間、標的へ向けて撃ったつもりだった。
でも実際には、魔力の大半が周囲へ広がっていたんじゃないか。
「だったら、弱いんじゃなくて――散ってるだけ?」
口にした瞬間、確かめたくて仕方がなくなった。
俺は部屋の隅から、使っていない薄い木板を持ってきた。家具を壊したら怒られるので、一応そのくらいの理性はある。
壁に立てかけ、その少し後ろに紙を一枚吊るした。
「同じくらいの魔力で、広がり方だけ変える……」
昼間と同じように魔力を練る。
ただし今度は、広がっていく波を押さえる。
一点へ。
できるだけ細く。
木板の中央だけを狙う。
「……こうか?」
放つ。
ぶわっと空気が揺れ、机の上の紙が派手に舞った。
肝心の木板は無傷。
「違うか」
二回目。
今度は右へ逸れ、カーテンが揺れた。
三回目。
なぜか足元の絨毯がめくれた。
「……これ、思ったより難しいな」
でも、そこで止める気にはならなかった。
むしろ少し面白くなってきた。
何が違った?
さっきは広がった。今度は右へ逸れた。
じゃあ、どこを変えれば前に集まる?
学校で『波は広がります』と習った記憶があるだけで、魔法の操作方法まで習ったわけじゃない。
それなら、試すしかない。
四回目。
五回目。
六回目。
失敗するたびに、手の向きと魔力を押し出す感覚を少しずつ変える。
十回目を越えた頃、ようやく感覚が変わった。
今まで手のひらから膨らむように出ていた魔力が、細い筋になって前へ伸びる。
「……今のか?」
俺は木板へ駆け寄った。
傷はない。
でも、さっきまで机やカーテンまで揺らしていたのに、今の一発では周囲がほとんど動かなかった。
「広がってない……?」
胸が高鳴る。
もう一度、同じ感覚を探す。
木板の中央へ狙いを定めた。
「そこだ」
波を放つ。
バキッ。
乾いた音がした。
「……え?」
木板の中央に、一本の亀裂が走っていた。
俺はしばらく固まってから、慌てて板へ近づく。
見間違いじゃない。
本当に割れている。
「同じくらいの魔力だよな……?」
昼間より大量に込めたわけじゃない。
ただ、散っていたものを集めただけ。
普通なら、ここで喜ぶところなんだと思う。
でも俺の頭に最初に浮かんだのは、別のことだった。
「一回成功しただけじゃ分からないな」
偶然かもしれない。
再現できなければ意味がない。
俺は新しい木板を立てる。
同じ距離。
同じくらいの魔力。
同じ場所を狙う。
もう一度。
波を広げず、一点へ。
放つ。
バキンッ!
木板が真ん中から折れた。
「……再現できた」
今度こそ、口元が緩んだ。
だが、そこでまた一つ気づく。
折れた木板のすぐ後ろ。
さっき吊るしておいた紙が、ほとんど揺れていない。
「……あれ?」
昼間の波は、標的だけでなく周囲の空気まで広く揺らしていた。
最初の失敗でも、机やカーテンや絨毯まで動いた。
なのに今は、狙った木板だけが壊れ、その後ろはほとんど無傷だ。
俺は折れた板を拾い上げながら、もう一度水を張った皿を見る。
広がる波。
集めた波。
同じ《波魔法》なのに、使い方を変えるだけで結果がまるで違う。
「じゃあ……どこまで変えられる?」
強くするだけじゃない。
広げたり、狭めたりできるなら。
他にも何かあるんじゃないか。
さっきまでFランクの文字が少しだけ重かった。
今はむしろ、試したいことの方が多い。
「……これ、本当に弱い魔法なのか?」
《波魔法》が弱いんじゃない。
俺たちが、まだ何も知らないだけなのかもしれない。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「《波魔法》、思ったより面白そう」
「この先どんな使い方をするのか気になる」
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次回は――
《波は、壁に当たるとどうなるのか?》
レインの実験は、まだ始まったばかりです。




