家出
花が出ていって3日が経った。
暗い気持ちや考えを打ち消すためにとにかく仕事に熱中している。
『平井くん大丈夫?今詰めすぎないようにしなよー!』
『はい。ありがとうございます。』
黙々と仕事に打ち込む。
『ねえ、平井くん♪私、ここが上手くできなくて‥同期だよね?よかったら教えてくれない?』
ニコニコしながら女性がヒラマサに近づいてくる。
周りがまたやってるよ‥と言わんばかりにコソコソと噂話をしている。
『‥鈴木さん。さっきその資料のことは北川さんに指導されてましたよね?』
『え』
『真面目に仕事してもらってもいいですか?』
『‥なっ!!』
そのままヒラマサはプイッとそっぽを向いてスタスタと歩いて去ってしまった。
そのまままた自分のデスクに戻って書類を整理して、仕事に打ち込む。
‥花。元気なのかな。
ちゃんとご飯食べれてるのか?心配だ。
連絡しても返事が一切返ってこない。
生きてるのかどうかもわからない‥。
どうしたらいいんだろう。クソ‥。
またヒラマサは仕事に打ち込むことにした。
花が出ていって1週間経った。
‥返信が来ない。
《頼むから、生きてるかどうかだけでも教えてほしい。何も話したくないなら『あ』だけでもいい。心配で仕方ない。》
送信と‥。
もう10件ほどメールを送っているけど、全て無視されている。‥花に会いたい。
花不足で体の調子も悪い‥。
ピロロン♪
は、花!!
メールを開くと‥花じゃなかった。
《今夜飲みに行かない?佑々木さんのことで言いたいことがあるんだ。》
‥!!。絶対和紗たちから何かを聞いてる。
花と仲直りできるチャンスかもしれない。
すぐに行くと連絡した。
仕事を終えて、寺倉の勤めている病院の前で寺倉を待つ。
日が落ちてどんどん暗くなってきた。
定時ぴったりで上がり、寺倉の病院の前で待ち続ける。2時間ほど外で待った。
『将生‥!!ごめん!お待たせ!』
『全然いいよ。仕事お疲れ。』
『ごめんね。わざわざ、仕事場まで来てもらって申し訳ないよ。』
『いやいいよ。早く行こう。』
『あ、うん‥』
『花から色々聞いてるんだろ?』
『‥まあね。』
『俺も寺倉に相談したいことがあるんだ。』
『うん。んじゃさ、僕の家に来る?そっちの方がゆっくり話せるでしょ?』
『いいのか?』
『いいよ。出前でもとろーよ!』
『そうだな。お邪魔するよ。』
そのまま寺倉の家まで行った。寺倉の家は、病院の真横にあるマンションだった。
『職場の真横だ』
『ここなら連絡が来てもすぐに対応して病院に行けるからね。この病院にいる間はここに住むつもりだよ。』
『‥大変だな。』
『まあねー』
寺倉は慣れた手つきで出前の一覧を見せてきた。
『どれにする?ここはピザも美味しいし、ここは丼が美味しいよ。ここは、サラダボウル専門店で‥』
『詳しいな。よく出前取るのか?』
『んー週7とかかな?』
『お前、1週間が何日か知ってるか‥?』
『自炊する余裕ないんだよねー!冷蔵庫にはお茶と水とエナジードリンクとゼリー飲料だけ入ってるよ!キッチンのIHもほぼ使ってないかも。棚にはカップ麺とインスタントレトルトまみれだし‥』
『医者の食生活じゃないな』
『いやー忙しくてね。家に帰ったら寝るか勉強するかしかしてないよ。』
『‥壮絶だな。なんか悪いな。時間作ってもらって。』
『全然!みんなと話す時間が気分転換なんだよね!楽しくて好きだよ!』
『そうか、ならよかった。』
『んじゃ適当に出前取るよー』
『うん。せっかく時間作ってもらったから奢るよ。』
『まじで!?やったー!高いやつ頼むね!』
『好きにしろ』
色々注文し終わってホクホク顔で戻ってきた寺倉。床に座ると、ヒラマサの方をみて一息吸ってから真顔になった。
『1週間前に佑々木さんに会ったよ。ほら、ヒラマサに電話したけど出なかったろ?あのときみんなで飲んでたんだよ。和紗が電話したら佑々木ちゃんすぐきてくれて、西岡と和紗と僕と佑々木さんの4人で飲んでたんだ。』
『そうだったのか‥』
『うん。その時に色々聞いたよ。』
『‥そっか』
『‥家に帰ったらソファで将生と菜月ちゃんがその‥き、きすしてたって』
『うん。』
『本当なの?』
『うん。本当だよ。』
『なんでそんなことしたんだよ?』
『‥菜月が、キスしたら諦めてくれるって言ったんだ。キスしたらもう家にも来ないし、花に迷惑かけることもしないって。だから一度だけキスしたんだ。』
『‥そうだったんだ。でも、将生が悪いよ。他にもキス以上のことしそうな勢いだったって佑々木ちゃん言ってたよ。』
『‥そうだな。でもそれはちゃんと断ったよ。』
『‥本当に佑々木さんが帰って来なくても、鉢合わせにならなくても止められてた?』
『当たり前だろ。』
『‥僕なら止められないよ!あんな可愛いこにそんな誘惑の仕方をされたら彼女がいても絶対止められない!なぜなら男だから!』
『何を言ってるんだ?』
『将生は、理性で抑え込めたのか!?』
『理性も何も‥菜月はただの従姉妹だよ』
『菜月ちゃんはそうじゃなかっただろ』
『‥それはそうだった。思わせぶりなことしてたよ。申し訳ないと思ってる。』
『まだ菜月ちゃんと連絡とってるのか?』
『もうとってない。あの日から家にも来なくなったよ。もう二度と来るなって言ったから。』
『そっか‥佑々木ちゃんとは?』
『連絡取れてない。心配で仕方ないんだ。どこにいるかもわからなくて‥、何度かメールしてるけど返信もこないし。電話も出てくれない。』
『‥』
『圭吾は知ってるんだろ?どこにいるのか』
『‥和紗に言うなって言われてるんだ』
『‥頼むよ。』
『押しかけたりしない?』
『しない。元気かどうかだけ知りたいんだ。』
『‥一人暮らししてる和紗のマンションにいるよ。』
『そうなんだ。んじゃちゃんとご飯も食べられて元気にしてるんだな。』
『うん。ただ西岡も‥和紗の家によく行ってるみたいなんだ。二人とも同じ会社に勤めてるから、佑々木さんと3人でよくご飯食べてる。』
『‥西岡も』
『うん。和紗が好きな僕としても今の状況は好ましくないんだ。例え、西岡の目的が佑々木しんとよりを戻すことだったとしても!!』
『‥西岡は花とよりを戻したがってるのか?』
『そうだよ。ここがチャンスと言わんばかりに佑々木さんに近づいてるよ。相談に乗るとか、俺の家にも来て良いよとか言ってた。』
『‥!!』
『佑々木さんは断ってたけどね』
『‥良かった。』
‥そりゃそうだよな。西岡が花のことをまだ好きなのなんて寺倉が見ても分かるんだ。
今、花は俺への信頼は地に落ちてる。
ここぞとばかりにアピールすれば、このままフラれても西岡に取られるかもしれない。
『‥どうしたらいいんだ』
『謝った方がいいと思うよ』
『謝りたいけど、会ってくれないんだ。』
『うーん‥やっぱり謝罪は無駄かもしれない。』
『無駄‥?』
『かなり怒ってたでしょ?』
『かなり‥』
『怒りを通り越して、冷酷な感情に支配されてる状態だと思うんだよ。一見冷静に見えるけど、全くの逆で完全に頭に血が昇ってる状態だと思うんだ。だからどれだけ謝っても意味がない。』
『んじゃどうすればいいんだ?』
『うーん‥て、手紙を書くのは?』
『手紙か‥謝罪か?』
『謝罪とどれだけ佑々木さんを愛してるか書くんだよ!!』
『なるほど‥書いてみるよ。でもどうやって渡せばいいんだ?』
『うーん。やっぱり直接渡すのがいいと思うけど、会ってくれなきゃ渡せないもんね。』
『‥とりあえず手紙は書く。』
『僕も和紗に掛け合って、ヒラマサと会ってくれないか頼んでみるよ。』
『ほ、本当なのか?』
『うん。僕的には西岡には一刻も早く和紗の家から出ていってもらいたい。』
『俺もそうだ。頼む。』
ピンポーン
『あ!出前だ!ヒラマサ!6800円!』
『‥クレジット使える?』
『使えるよ!ありがとうー!』
そのまま特上握り寿司を食べながら花に書く手紙の内容を考えた。
『雲丹美味しい!久しぶりだあ!』
『‥俺のも食っていいぞ』
『え?いいの?』
『いいよ。雲丹だけな』
『うわあ!ありがとう!持つべきものは将生だね!』
『‥こっちのセリフだよ。ありがとう。圭吾。
圭吾がいてくれて良かった。』
『将生‥』
『本当に‥本当に花に会いたいんだ。帰ってきて欲しい。』
将生は、ポロポロと涙を流し始めた。
『はぁ‥そんなになるなら最初から菜月ちゃんをちゃんと突き放せば良かったのに』
『本当にその通りだよ‥』
『たっくもう』
『西岡に取られたらどうしよう‥』
『‥女々しいなぁ』
『‥ごめん』
『とにかく、謝る機会を作るから』
『うん。ありがとう‥』
ピロロン♪
将生のスマホが鳴った。
画面を見ると花から連絡が来ていた。
『花からだ‥!!』
『え!?ほんと!?』
『週末に家に帰るって‥その時に話したいことがあるって書いてある。』
『‥別れ話?』
『分からない、けど、謝るチャンスだ。』
『そ、そうだな!頑張ろう!』
花に向けて手紙を書くことを決意した。




