国試
いよいよ最後の1年間が始まる。
花は、大学附属病院の面接を受け、入社試験を受けていた。
合格率は高く、国試に合格する前提での見込み合格をもらった。国試に落ちたら、就職はできない。
2月に行われる国家試験に向けて勉強する。
卒業試験、国家試験、卒業式での卒業研究に対してもう勉強する一年になるだろう。
隼人は、就活にも追われていた。
スーツ姿で大学に来て、自己分析や企業研究をしている姿もよく目についた。
ヒラマサも大学院での最後の一年になり忙しさに拍車がかかってきた。月に2回か3回やってくるものの、終電でやってきて朝まで寝て始発で出て行く。という生活を送っていた。
来なくていいと言っていても気になるようで花の家にくるのをやめなかった。
その時に手を繋いで寝ると、疲れが一気に充電できるようで、それ目的らしい‥。
相変わらず手を繋ぐ以上のことはできていない。それを以上を求めてくることもないし、我慢している様子もないのでそれでいいと思っていた。忙しさでお互い体も疲れているのでそうなる雰囲気では到底なかった。
そんなこんなであっという間に半年が過ぎた。
10月。
紫翠大学キャンパス内で、花、由奈ちゃん、和紗、隼人の4人で話している。
『え!隼人、就職先決まったんだ!』
『まあね‥やっとね‥』
『すごいすごい!おめでとう!』
『お疲れ様。あんたほんとよく頑張ってたもんね。』
『よーがんばったな!北川くんにも報告せなあかんな!』
『ああ、北川には1番に報告したよ。あいつなんやかんやでめちゃくちゃ世話になったしな。』
『男同士の友情激アツやん』
『どこに決まったの?』
『‥製薬会社のMRだよ。』
『あー!MRね!』
『MRって大変らしいね。頑張ってね。』
『営業するんか?けど、西岡くんの明るくて男前やから向いてそうやな。』
『お世辞どーも』
『そうだ、花と由奈ちゃんは?決まったの?』
『うちらは2人とも附属病院での薬剤師勤務が決まってるから〜。病棟薬剤師やな?』
『うん。元々それが目的だしね。』
『一緒に頑張ろうな〜』
『後は国試受かるだけだね』
『うっ‥花ちゃん、その話はなしやろ』
『いやいや、由奈ちゃん!頑張りどきだよ
私たちからで国試落ちたら無職だよ!』
『ハッ!!やめてーー!!』
由奈ちゃんは耳を塞いで嘆いていた。
そして、全てが落ち着いたらみんなでまたご飯に行くことを話していた。
花のPTSDは、少しずつ治療やリハビリを繰り返しマシになってきた。
包丁などみるとドキドキするも、少しずつ使えるようになってきた。
人混みは苦手だが、深呼吸しながらゆっくり歩くと少しずつ自分の足で進めるように、公共交通機関もドアのそばや通路側の椅子などすぐ逃げられる場所であれば、乗ることもできるようになった。看護師さんに肩を触れられても平気になった。
抗不安薬も半分に減量され、少しずつ回復の兆しがきていた。希死念慮などもほとんどなくなった。
一度だけ自宅にいる時に発作が起きたことがあった。1人でシャワーを浴びている時に傷が染みて、鏡に映った自分の姿を見て息苦しくなり、立てなくなった。自己嫌悪と希死念慮が一気に湧き上がり動悸や過呼吸、めまいなどの症状が出てきた。その時にたまたま家にいたヒラマサが違和感に気づき、お風呂場にやってきた。びしょ濡れになのも気にせずシャワーを止めてバスタオルをかけて発作が落ち着くまで背中をさすってくれた。
自らの皮膚を爪で引き裂きたくなった。
その様子を見て手も握ってくれた。
涙が止まらず、ヒラマサに抱きついた。
ヒラマサはただ優しい声で『大丈夫』と耳元でつぶやいてずっと抱きしめてくれてきた。
そのあとからヒラマサの心配性が加速し、1人で買い物に行こうとすると、必ず一緒に着いてくると言うようになり、週3回で終電で家に来ては始発に帰るを繰り返していた。
しかし、そんな発作ももう半年以上出ておらず薬の量も減ったことを伝えて、家にくる頻度を抑えて欲しいと伝えると月に2回、3回になった。その代わり毎日電話がかかってくる。
私が寝るまで通話を繋いでおかないと何度も何度も電話をかけてくる。
心配性すぎて、逆に心配になるレベルだ。
ヒラマサはこんなに何度も家に泊まり、一緒のベッドで寝るようになっても抱きしめる、手を繋ぐ以上のことは何もしてこなかった。
逆に少し寂しいくらい‥。
でも仕方ないだろう。日々研究と就活で忙しく花の家にくる時点で疲れ切っている。そんな元気ないのだろう。
そして、2月になり国試が終わり、3月になり大学を無事卒業。その後、国試の合格発表が行われ、花、隼人、和紗、由奈ちゃんは無事合格した。
ヒラマサが花の国試合格発表の日に花の家にくる予定だ。
花はWEBで合格発表を知ったので、そのままルンルンで食事の支度をしていた。
お祝いだから美味しいもの作っちゃお♪
ピンポーン。
インターホンがなりドアを開けるとヒラマサが立っていた。
『ヒラマサ!』
『その様子だと受かったみたいだな。おめでとう』
『‥!!ありがとう!!』
『これ、お祝いに買ってきた』
ヒラマサは、手土産に持ってきたケーキを花に渡した。
『わあ!ありがとう!』
ヒラマサも無事大学院を卒業した。
そういえば‥ヒラマサに就活のことを聞いても聞いても濁して答えてくれなかった。
どうなったんだろう‥。
3月だから流石にもう‥決まってるよね?
『ねえ、ひらまさ。ヒラマサって決勝就活はどうなったの?どこかに決まったの?』
『あーうん。一応、自動車会社でサーマルエンジニアとして働くことになったよ。』
『へー!すごいね!頑張ってね!』
『‥うん』
なんだか、あまり嬉しくなさそう。
本当はまだ宇宙飛行士になりたいのかな‥。
2人でチーズフォンデュを作るために具材
を切ったり、白ワインでチーズを煮込んだり、買ってきたバゲットを焼いたりした。
『あ、そうだ。今度ね、またみんなでご飯食べに行こうって話になってたよ』
『圭吾から聞いてるよ。花と和紗と西岡と俺と圭吾みんなやっとひと段落だもんな。』
『ほんとだ。そう考えると北川くんだけもう2年も社会人してるんだもんね。すごいね。』
『確かに、北川のやつ大丈夫かな。』
『え?なんで?』
『この前、北川を街中で見かけたんだけど、かなり疲れてたよ。深夜一時前に1人で公園のベンチで寝てたぞ。』
『ええ!?大丈夫なの!?それ!』
『声かけたら起きて、いつも通りヘラヘラ笑いながらふらふらで家に帰ろうとするから家まで送って行った。』
『ええ‥そ、そんなことが‥』
『会社の上司に大量に酒を飲まされたとか言ってたな。確か、レコーディング会社だよな。芸能とか大変そうだもんな。』
『大丈夫かな。北川くん。隼人と仲良しでね、よくふたりでご飯行くって言ってたけど、ゆっくり休んでストレス発散できてるといいね。』
『うん。今度会った時にでも様子聞いてみよう』
『そうだね。』
食事ができたので、そのまま乾杯して食事をとる。久しぶりにできた優雅な時間なので映画を見たりしてゆっくり過ごした。
『あ、今年のクリスマスね。忙しかったからほとんど何もできなかったし来年はイルミネーションとか見に行こうね』
『そうだな。楽しみにしてるよ。』
『私、電車もバスも乗れるようなったし、旅行とか行かない?』
『そうだな。どこか行きたいところある?』
『うーん‥今月行く?』
『そうだね。4月までに行きたいしね。』
『一泊2日で‥ヒラマサ行きたいところある?』
『うーん‥近場が良いな。』
‥ヒラマサと付き合って1年と2ヶ月が経った。
お互い忙しかったこともあるが、まだ手を繋ぐ。抱きしめる以外のことをしていない。
正直、私の方が限界が来そうだ。
もっとキスして欲しいとか、それ以上のことをしたいなど考えてしまう。
けど、ヒラマサは顔色ひとつ変えずに何もしてこない。
ベッドで抱き合って眠っているのに、すやすやと寝息を立ててしまう。
‥私に女性としての魅力を感じていないから欲情もしないのかな。
寂しい。ちょっとというか、かなり寂しい。
かと言って今更自分から誘う勇気もなくダラダラこんな時期までなってしまった。
今日こそ誘ってみせる‥!!
今日のために、真緒と一緒に良い感じの下着を選んだんだ。可愛い下着も買ったし、‥完璧!
いつでも準備はできている‥!!
大学と院を卒業し、国試に受かり、就職先も見つかり、もう何も縛られることのない解放感に溢れたこの時期!
今せずして、いつするのか!!
『ひ、ひらまさ!』
『‥ん?なに?』
『‥今日は泊まっていくの?』
『うん。そのつもりだけど。』
『そ、そうだよね!んじゃさ、もう夜遅いし、先お風呂はいる?』
『あ、うん。そうしようかな。』
『うん!先入っておいで!』
『‥花先に入ってきなよ。』
『え?』
『その間に洗い物終わらせておくから。』
『え、いや、良いよ。そんなの私するよ。』
『良いって、今日はお疲れだろ。シャワー浴びておいでよ。』
『‥んじゃあお言葉に甘えて』
そのままヒラマサに言われるがまま、シャワーを浴びた。
体を洗っているとふと、左腕と背中の傷痕が目に入った。
こんな体見たら、ヒラマサひくかな‥。
背中の隠れるキャミソールランジェリーを買っておいてよかった。腕はどうにかボディーファンデーションで隠せそうだ。
ランジェリーの上にいつもより可愛い部屋着を着てお風呂を出た。
甘い香料のついたボディークリームも塗ってみた。これでやってみせる‥!!
お風呂から上がると食器を洗い終えたヒラマサがクッションに座ってテレビを見ていた。
『ヒラマサ、上がったよ。ありがと。』
『うん。んじゃあ、俺もシャワー浴びてくるよ。』
『う、うん!』
『‥?』
『どうしたの?』
『いや‥なんかいつもと違う匂いがするなってシャンプー変えたの?』
『え!?あー‥まあ、ヘアオイルを新しくして見て‥』
『へー良い匂いだね。』
『ありがとう‥』
そういうとヒラマサはお風呂を入りに行った。
匂いに気づかれた‥すごい。
軽くつけただけなのに、とっさに嘘ついてしまった。ヘアオイルはいつもと同じやつなんだけどな‥まあ、いいよね。
ヒラマサがお風呂から上がってきた。
‥何もつけてないはずなのに、なぜヒラマサからはいつも良い匂いがするのでしょうか。
そしてなぜいつも髪がサラサラなのか‥。
ヒラマサは、布団に入っていつも通り本を読んでいる。‥隣に入ってみる。
『‥一緒に寝る?』
『うん。だめ?』
『良いよ』
もぞもぞと布団に入り、ヒラマサと同じ布団に入った。
するとヒラマサは、本を閉じてヒラマサが海沿いに行きたいと言ってきた。
水族館に行って、海の見える街で美味しい魚でも食べてゆっくりしようと‥。
2人で旅行の計画を立てるのに夢中になり、いつのまにか眠くなってきた。
‥どうしよう。めちゃくちゃイチャイチャするつもりで同じ布団に入ったのにめっちゃ眠い。
今にも寝そう。でもせっかく可愛い下着つけてるのに‥。
うとうとしてる花をニヤニヤしながら見ている。
『‥何笑ってるの?』
『いや、寝るのを我慢してる子どもみたいだなと思って。』
『なっ!別に眠くない!』
『いいって寝ようよ。』
『ええ‥』
『明日は、昼から新しいとこで説明会があるだけでそれ以外用事もないし昼までゴロゴロしよ。』
『‥分かった。』
そう言うと、花は布団を肩までかぶって、目を瞑った。そしてそのまま朝まで爆睡してしまった。




