告白
救急車とパトカーが大学にやってきた。
教室に血飛沫が舞い、狂乱している女の子は教室にいた男子生徒が取り押さえた。
同じ講義室の最前列にいた隼人は、もの音を聞いた瞬間走ってやってきて床に横たわる花に駆け寄ったが、血を流して倒れている姿を見て呆然としている。
由奈と和紗が花の身体を抱き寄せて教室の隅っこまで連れて行き、刃物で切られたとこをハンカチで抑えている。
床や椅子、テーブルに血がついている。
『救急車ー!救急車呼べ!!!』
『警察もだろ!!』
『きゃああ!!!なになに!?』
『血出てるじゃん!』
『生きてるの?死んでるの?』
叫び声と共に生徒が何人か救急に電話をかけていた。
夕方。
病院へ駆けつける足音。
花の入院している病棟まで行くと、廊下の椅子に和紗と由奈ちゃん、隼人がいた。
『あ、ヒラマサ。きた。』
『‥連絡ありがとう。和紗。』
『あんた、走ってきたの?大丈夫?』
『今日しなきゃいけないことは最低限終わらせてきたから大丈夫。‥佑々木は?』
『傷の処置してもらって。ある程度検査も終わったよ.さっき、花のお母さんが帰ったとこ。今日2人でご飯行くって聞いてたから、連絡できてよかった。』
『‥ああ、』
ヒラマサは、由奈ちゃんの横に座っている隼人を見た。
かなり憔悴している様子で、ヒラマサが入ってきても俯いたままで一言も話さずぴくりとも動かない。
大体和紗から事となりを聞いていた。
隼人の元カノを名乗る女の子が花に刃物で襲いかかってきて、怪我をして救急車で運ばれたと
『西岡』
『‥殴ってもいいよ』
『‥ばかか。』
その様子を見た和紗が声をかける.
『西岡もさっき警察の事情聴取が終わって、病院に着いたとこなのよ。だから、疲れてるし‥』
『‥あ、そう。佑々木は大丈夫なのか?どこを怪我したんだ?』
『側頭部と背中と左腕を刃物で切られたの。真上からそのまま刃物を振り下ろしてきたから、その後倒れた上から何回か蹴られたり踏みつけられたりして、全身殴打って感じかな‥横にいる私も殴られたし』
『‥そうか。災難だったな‥木村の怪我は大丈夫なのか?佑々木の出血はそこまでなかったのか?』
『うん。ありがとう.私は全然大丈夫。かすり傷程度だよ。花のは‥出血はまあまあ出てたけど、輸血するほどじゃないって。ただ傷は一生残ると思うって説明受けたみたいだよ.私たちも今から面会するのよ。』
『そうか一緒に行くよ。‥西岡は?』
『来たは良いものの花に合わせる顔がなくて、ここでずっとうなだれてるのよ。困ったやつでしょ?』
『‥西岡。一緒に会いに行こう.』
『‥』
『一緒になんでこんなことになったのか説明しに行こう。俺もついてるから。』
『‥ごめん』
そういうと西岡はゆっくり立ち上がって花の病室に向かった。
部屋は個室で、扉を開けるとベッドに座っている花がいた。看護師の女性が点滴を見ている最中だった。
『あ、みんな!来てくれたの?』
『あら?お友達?んじゃもう出るね。何かあったらナースコールを押して呼んでください.』
『はい。ありがとうございます。』
そういうと看護師の女性は部屋を出て行った。
『ヒラマサ、ごめんね。せっかく時間作ってくれたのにご飯行けなくて』
『いやそれどころじゃないだろ。大丈夫‥ではないよな。またいつでもいけるから気にしないでいいよ。』
『割と大丈夫だよ。ちょっと傷が痛むだけで、何針か塗ったし、綺麗に治ると良いなぁ』
『‥花.本当にごめん。』
そういうと西岡はその場に土下座した。
『本当にごめん.こんなことになって、本当になんてお詫びしたら良いか‥』
『いやいや、ちょっとやめてよ.隼人は悪くないでしょ.』
『‥いやまさかこんなにことなるなんて思わなくて俺‥本当にごめん』
ポロポロ涙を流す隼人にヒラマサが肩に手を置いた。
『良いから、ゆっくり話そう。‥今日佑々木を襲った女性とは知り合いだったのか?』
和紗と由奈ちゃんも静かに見つめている.
『‥あの子一年前に隼人と別れたって言ってたよ。私と別れた時期と一緒だよね‥?もしかして、二股してたの?』
『違う!浮気は断じてしてない!!』
『んじゃ‥どういうこと?』
『‥花と別れてすぐぐらいにあの子に付き合って欲しいって言われたんだ.元々すごい積極的な子で苦手だったから避けてたんだけど、別れてからすごいしつこく誘ってきて、家にまで押しかけてくるようになったんだ。断れなくて‥』
『付き合っちゃったのねー?』
和紗が声を出した。
『‥付き合ってはない。そんな認識は俺にはなくて、ただ家には結構入り浸ってた。1ヶ月くらいずっと一緒にいた。』
『はぁー‥何してんのよ.ほんとに.』
『けど、1ヶ月くらいして会わなくなったんだ。だから、一年前くらいに別れたっていうのも嘘じゃないといえば嘘じゃない。そもそも付き合ってもないけど‥。』
『別れる時にもめなかったの?』
『当時はそこまで揉めなかった。別れる時も出て行ってくれってもう二度と顔見せないでほしいって言ったら黙って出ていったんだよ。そしたら次の日に陸上部のマネージャー辞めてたし、そこから会ってなかった。』
『‥でも変な話ね。別れたのは一年前の話でしょ?なんで今更、花に逆恨みなんてしてるのよ。』
『‥ただずっと、美久ちゃんからストーカーされてたんだよ。別れてから半年ぐらい。ポストに嫌がらせの手紙を投函されたり、付けられてるような感覚がずっとあった。実習中だったかな‥だからその期間だけ実家に帰ったんだよ。』
『‥なるほど。警察には相談したの?』
『したけど、実害が出るまでは動けないって言われたんだ。』
『なるほどね』
『実習が終わって、ストーカー被害がおさまったからアパートに戻ったんだよ。そしたら、花がアパートの近くの寮に引っ越してきたんだ。家も近くなったから2人でご飯食べに行くことが2回ぐらいあって‥。』
『そういえば、隼人とご飯食べに行ってること言われたよ.あの子に.』
『ストーカーして見れられてたんじゃないの?』
『‥多分そうだったんだと思う.それを見たあいつが勘違いして、まだ付き合ってるって。』
『傍迷惑な話ね。』
『ほんまやな‥えらいとばっちりや。』
『んじゃ、好きな男と仲良くしてる佑々木が気に入らなかったから刺したってことか。』
『‥あの子、私が隼人の家に忘れて行ったハートのピアスをつけてたよ。クリスマスマーケットで買ったやつ。』
『ピアスも俺が捨てられなくて‥本当にごめん.家に残してたんだ。あいつが家に来るようになってからいつのまにかなくなってて、こっそり取ったんだと思う。ごめん。』
病室がシーンと静まり返る。
『‥隼人は謝らなくて良いよ。』
『でも、本当にごめん。俺のせいでこんなことになったんだ。申し訳ない。』
『隼人もストーカー被害に遭って大変だったんでしょ?仕方ないよ.』
『まあ、そうね‥』
沈黙の中、ヒラマサが口を開いた。
『‥佑々木。』
『ん?何?』
『結婚しよう。』
その場にいる全員が静まり返る。
隼人は目を見開いてヒラマサを見て、和紗と由奈ちゃんも同じく口を開けている。
花は驚きすぎて言葉を失っている。
ここで言葉を発したのは和紗だ。
『え‥花とヒラマサって付き合ってたの?』
『付き合ってないよ』
『は?』
ヒラマサは、顔色ひとつ変えることなくじっと花を見つめている。
至って真剣な表情をしている。
『‥な、何言ってるの!?』
『‥』
『ヒラマサにはもっと良い人がいるよ!急に、変なこと言わないでよ!』
『そうだな。もっと美人で、もっと頭良くて、傷のない人はたくさんいる。』
『‥!』
『でも、俺は佑々木を失いたくない、これ以上傷ついてほしくない。』
『‥え』
『佑々木にはずっと、笑っていて欲しい。』
『な‥』
『佑々木って意外と馬鹿だし。ほっておくとまたくだらないことに巻き込まれて痛い目にあいそうだ。そうなったら困る。』
『‥ば、ばか?』
『だから、早く俺と結婚して俺の奥さんになったほうがいいと思う。』
『‥な』
顔を真っ赤にする花に対して、隼人は口をポカーンと開けてヒラマサを見ている。
そこで頭をかかえながら和紗が口を開いた。
『‥ヒラマサ.あんたもどこか頭打った?』
『打ってないよ』
『冗談でしょ?』
『本気だよ』
そういうと、ヒラマサはスッと花に近づいて手を握ってきた。まっすぐ花の方を見つめている。
迷いのないまっすぐな瞳で花が顔を赤くする。
『返事はいつでも良いから』
『‥』
『次二人でご飯行く時にでも返事聞かせて。』
『‥うん。』
そういうとヒラマサは、スッと立ち上がって荷物を持った。
『んじゃ、もう1人で出歩くのダメだから』
『‥はい』
『どこか行きたい場所があればピックアップして俺に送っておいて』
『‥はい』
『お大事に』
『‥はい』
そういうとヒラマサは、病室を出て行った。
由奈ちゃんが口を開いた。
『勝手にクールなインテリイケメンと思ってたけど、意外と情熱的な彼やねんな!』
『‥いや、そんなレベルじゃ無いでしょ』
『うん。今じゃない感。』
病室に微妙な空気が流れた。




