隼人くんのその後
花の中絶手術の代金を払い、その他諸々診察に係わる費用の概算を受付でもらって、急いでコンビニのATMまで走りその金額よりも一万円ほど多めにお金を包んで花に渡した。
花はいらないと断ってきたけど、頭を下げて受け取ってもらった。
病院から出ると、花の双子の弟2人が車で迎えにきていて、俺を見るやいなや1人が胸ぐらを掴んでそのまま一発しっかり殴られた。
色々罵詈雑言を浴びせられたが、返す言葉はなかった。
花に止められて、なんとかその場は治ったのでそのまま花とは別れて帰ってきた。
夕陽くん、出会った時より明らかに筋肉増えてる.さすが防衛大学の学生‥怖すぎる。拳が重すぎて、花がいなかったら意識飛ばすところだった。
朝陽くんは、罵詈雑言をこれでもかと浴びせてきた。口の悪さは誰に似たんだろ‥。
‥はあ。もうだめだ。
花を握っていた手の感触を思い出す。
小さくて、細くて、柔らかい。
色白で華奢な腕に小さな顔、大きな瞳に長いまつ毛、顎ラインまで短く切られたショートボブの髪のせいか細い首が綺麗に見えていた。
やっぱり綺麗だな‥
こんなこと思うなんて、別れなきゃ良かった。
あんな小さな体で1人で手術受けるの怖かっただろう。
花は痛みが大の苦手だ.生理痛がある時はベッドでうずくまって動けなくなる。
お腹を温めて、何度ドラッグストアまで薬を買いに走ったかわからない。
健康診断の時も採血の時は目をぎゅっと瞑って、注射の穿刺部を見ないようにしてきた。
そんな花が1人で手術受けるなんて‥きっと怖かっただろう。
そして、さっき花が言っていた。
一つの命を自らの手で終わらせてしまった.
自責の念は、一生拭えないかもしれない。
これのせいで二度と子どもができない体になってたらどうしよう‥。俺のせいだ.
本当最悪だ‥。
アパートに帰ると、アパートの前に美玖ちゃんがいた。
『あー!隼人先輩やっと戻ってきたー!
てか、え!?顔どうしたんですか?パンパンに腫れてるし、口元から血も出てますよ!誰にやられたんですか!?』
『‥別に誰でもいいだろ.悪いけど、今日はもう帰って.』
『なんでですか?』
美玖に足を止めることなくスタスタと自分の部屋に向かって歩き続ける隼人。
美久はそれに走って追いかける.
『1人になりたいんだよ.』
『‥ええ?何があったんですか?』
しつこく追いかけてくる美玖に対して、玄関で足が止まる隼人.
『はぁ‥美玖.一つだけお願いがあるんだけど、聞いてくれる?』
『西岡先輩のお願いならなんでも聞きますよ!』
『んじゃ‥』
家の中に入ってゴソゴソと荷物を集める隼人。
美久の荷物や化粧品、シャンプーなどの私物を紙袋に全て入れると、玄関に立っている美玖に渡した。
『‥え?』
『出てってくれ。んでもう二度とくんな。』
『‥』
『本当に不愉快なんだよ.出てってくれ。頼む』
『‥わかりました。』
そういうと美久は紙袋を受け取るとムスッとした表情を作り足早に部屋を去った.
1人残された部屋でベッドに入り、ぐったり横になる。
夕陽くんに殴られた頬がヒリヒリと赤くなる。
口の中も切れたので血の味がする.
冷やさないとパンパンに腫れそう‥。
花‥今更よりを戻したいなんて図々しいし、都合良すぎるよな。
花が心配で仕方がない。身体も心配だ。
夕陽くんが最後に言っていた。
『姉ちゃんの痛みがこの程度だと思うなよ』
‥心に沁みるね。痛いなぁ‥。冷蔵庫にある保冷剤を取ってきて頬を冷やした。
ピンポーン♪
‥誰だよ.こんな時に無視だ無視。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
『うるせえ!誰だよ!』
『やっほー!隼人♪遊びに来たぜ♪』
そこには北川が立っていた.
『‥なんだよお前.冷やかしに来たのか』
『てか、何その顔!ウケるんだけど!んじゃお邪魔しますー!』
『おい!ちょっと!』
『ピザ買ってきたし食おうぜ!あと、ビールも買ってきたし、パーティーだな。』
『おいおい‥食欲ないって』
『何言ってんだよー!落ち込んでる時こそ、美味いもん食って元気出さないとダメだろ?これ人生の基本だから!』
『‥はぁ。』
『ほらほら!チキンもあるぞ。まあ、別に俺が1人で食ってるの見ててもいいから!んじゃ!いただきまーす!』
そういうと北川はビールを開けて流し込んでいる。リモコンを片手にテレビをつけた。
『あ、ここってネトフリ入ってる?WiFiは?』
『長居する気だな‥はぁー仕方ないな.』
その日は夕方から晩まで北川が居座って酒を飲んでピザを食べた。
そのままら朝まで眠ってしまった。
次の日大学に行く時はマスクとフードをかぶって顔を隠すように行くと、ちゃんと周りからいじられた。
そこでも1番いじったきたのは、
『あれー!隼人どうしたの!その顔!ウケる!写真撮らせてよ!!』
『‥うるせえ!撮るな!知ってるだろ!』
『なになに?ヤンキーと喧嘩でもした!?』
『少しは遠慮しろよ!てか、昨日お前が沢山飲ませてきたから顔浮腫んでるんだよ!』
『えー!そんなのキャラじゃないし!飲んだのは隼人だろー?』
北川風月だった。
こいつ‥もう4年の冬なのに、ちゃんと就活終わってんだろうな?
『そういえば。北川ってお前就活ちゃんと終わってんの?』
『ん?俺はもう6月に終わったよ』
『‥え、そうなの?どこになったの?』
『ユニバーサルミュージックでレコーディングとかミキシングとかするエンジニアで採用になったよー!』
『大手レーベル系音楽会社じゃん!まじで!?』
『俺、面接得意だから〜♪』
『‥確かに得意そう』
『あとは、卒業するだけね!隼人たちはあと2年学生かー羨ましいよ!』
『どこが‥全然羨ましそうに見えないぞ』
『あ、バレた?』
北川は、大手企業に内定を止めた。
俺はどうすればいいんだろ‥、やっぱり製薬会社や食品メーカーや化学メーカーに勤めた方がいいのか、MRになるか‥。どうしようかな。
まあ、とりあえずは実習受けてしっかり勉強しないと‥。
数日経つと、美久ちゃんは陸上部のマネージャーを辞めていたそうだった。
マネや他の部員に『隼人先輩にやり捨てられた』『体だけが目的だったんだ!』と散々罵詈雑言を吐いて辞めていったと聞いた。
けれど、みんな大体想像がついたからだろうが、何も言ってこなかったし、美玖ちゃんを引き留める人もいなかったらしい。
陸上部の練習の合間の休憩中
『やっとメンヘラちゃんと縁が切れたか?ヤリモク男くん♪』
『変なあだ名つけないでください』
『美玖ちゃんが最後お前のことそう言ってたぞ?』
『はぁーーーもう二度と関わりたくないです。てか、体の関係にはなってませんから!!!一度も抱いてません!!!』
『変な女に絡まれる体質してるよな!お前って!』
『あいつ1人だけですよ!』
『本当か?まあ、いいや。隼人は薬学部であと2年あるしもう少し続けるんだろ?みんなお前のこと心配してたぞ。これからも辞めずに顔出せる時は顔出せよ?まあ、俺は4年だしやめるから‥』
『あ、そうですよね。』
『新しい部長は今の3年の副部長に託すわ!』
『了解です.』
『お前の方が先輩だから色々フォローしてやってくれよ.』
『わかりました.』
『‥てか、なんか‥あったの?めちゃくちゃ顔腫れてたけど、喧嘩でもした?』
『喧嘩はしてません。まあ、色々あったので‥』
『そうか、まあ聞かないでおく』
そういうと部長さんは、短距離の方へ行った。
‥よし、俺も切り替えていかなきゃだめだな.
お金も無くなったし‥節約しないと。
実習も近いし今のうちにバイトのシフト増やすか‥。




