村井さん
大学の研究室から出てくるヒラマサ。
タブレットを片手に廊下を歩いていると、同じゼミの女性が声をかけてきた。
『あ、平井くん!』
『‥えっと』
名前が思い出せなくて、言葉詰まるヒラマサ
『私、同じゼミの村井嘉代。同じゼミだけど、グループが違うからあんまり喋んないもんね.』
『あ、うん.村井さんだよね.知ってる.』
『ふふ、ほんと?』
『ほんとだよ。何か用?』
『あ、あのね‥』
『うん』
『平井くんのことが好きなの』
『え』
『こんなこと急に言ってもびっくりするよね。』
『あ、いや‥』
『平井くんさえ良ければ、付き合ってほしいの。』
『‥なるほど』
『返事はいつでもいいから!んじゃあ!』
『え!ちょっと‥』
そのまま村井さんは去っていってしまった。
え‥何の前触れもなかったのに、なんなんだ急に‥まさか、罰ゲーム?誰かにいじめられてて俺に告白させられるてるとか‥??
『おー平井.モテモテだな.』
『あ、先輩。なんであんなことに?』
『は?おまえ何言ってんの?村井さんがお前のこと好きなんで誰もが知ってることだろ?』
『‥え、そうなんですか?』
『そうだろ。お前、他の人に興味なさすぎな。』
『‥なんかの罰ゲームで告白させられてるとかではなくてですか?』
『本気で言ってるのか?今時高校生でもそんなことしないぞ。』
『ええ‥』
そのまま先輩は去っていった。
村井さんはその後、研究室で目が合うと頬を染めて目を逸らすような仕草を見せるようになった。確かに‥好きなそうな反応だ。
どうしよう。別に好きじゃないんだよな‥村井さんのことよく知らないし。
でも‥佑々木は今西岡と付き合ってて別れるそぶりもないし、このまま誰とも付き合わなずに大学生活を送るのも正直どうだろうと思う.
ただ今は研究室でなんらの成果をあげたい.
あ、でも。
付き合ったからと言って研究が疎かになるわけじゃないよな。んじゃ、別に試しに付き合ってみるのも良いような気もする。
付き合うとはどんなものなのか、体験するのもいいかも知らない。
意外と村井さんとも気が合うかもしれない。
今日の演習が終わり、ロッカーで白衣から着替えて廊下に出ると、ちょうど村井さんが他の女子生徒と話していた。
『あ、村井さん』
『平井くん!ど、どうしたの?』
『ちょっと話があるんだけど良い?』
『あ、うん‥』
そういうと、村井さんと話してた女子生徒が去っていった。
ヒラマサと村井さんの2人が残った。
『この前の返事なんだけどさ』
『うん』
『いいよ。付き合おうか。』
『え?』
『え?』
『‥いや、ダメだと思ってたからびっくりして、本当に付き合ってくれるの?』
『うん。いいよ。けど、俺村井さんのことよく知らないからこれから知っていく形になるけど、それでもいい?』
『も、もちろんだよ!すごく嬉しい!ありがとう!』
『これからよろしくね。村井さん.』
『うん!』
ヒラマサに人生で初めて彼女ができた。
かといって、これまでと生活は変わらない。
毎日研究して講義を受けて勉強して家に帰る。
そして、たまに村井さんとご飯を食べにいった。
『将生〜!最近同じゼミの女の子とよく一緒にいるね!もしかして彼女とか?』
『あ、そうだよ。村井さんでしょ.』
『‥え、お前マジで?』
『うん。付き合ってる。1ヶ月前から。』
圭吾がショックのあまり膝から崩れ落ちた。
『なんだよ.その反応.』
『お前に‥彼女ができただと‥俺と共に勉強に身を投じて女作らずの誓いを立てた中だろ』
『そんな誓い立てたことない』
『ひどいよ!!てか、なんで村井さん!?今までそんな話出てなかったじゃないか!』
『告白されたんだよ.』
『今まで何度も色んな人から告白されてただろ!』
『そんなことないって。』
『はぁーー‥で?村井さんとどこまでいったの?』
『え?どこまで?』
『え、手繋ぐとか‥き、きすとか?』
『‥何もしてない.週一でご飯食べにいってるだけだよ。だって2人とも忙しいし、研究や講義でそれどころじゃないだろう』
『付き合いたて1ヶ月のカップルのセリフじゃないだろ!!お前何考えてんだよ!!』
『はぁ?何言ってんだよ。わけわかんねえ.』
『んじゃ、村井さんの誕生日はいつなの?』
『知らない』
『‥好きな食べ物は?』
『‥知らない。あ、でもいつもノンアル飲んでる.』
『そんなんで付き合ってるなんて言えるか!』
『‥そんなハイペースでどんどん進展していく方が珍しいだろ。そもそも何も知らない状態でスタートしてるんだからこれから知っていけば良いだけの話だ.』
『何それっぽいこと言ってんだよ。付き合う相手が佑々木さんでも同じこと言えるのか?』
『なんで佑々木が出でくるんだよ』
『佑々木さんと付き合ったら毎日会いたいって思うだろ?手も握りたいし、抱きしめたいし、キスもしたい!』
『‥やめろ。もう別にそんなんじゃない。佑々木は、西岡と付き合ってるんだよ。』
『そうやって言い聞かせてるだけだろ?もしかしたら別れるかもしんないじゃん。ヤッケになって付き合わされてる村井さんが可哀想だよ.美人なのに!俺によこせ!』
『それが言いたいだけだろ。べつにやっけになんてなってない。これからお互いのこと知っていく段階なんだよ、これから好きになるんだよ.俺はいたって真剣なの.んじゃあ.』
『えー!将生〜!』
‥やっぱり1ヶ月付き合って何もしてないのは変なのか?結構みんなに言われる。
でも、まだその段階じゃないんだよな.好きでもない相手とスキンシップ取ろうとは思わない。
あー圭吾のせいで佑々木の顔がチラつく。
あの野郎.
『平井くん』
『‥ん?村井さん.どうしたの?』
『あ、あのね。今日さ、夜空いてる?』
『空いてるよ.ご飯でも行く?』
『うん。一緒にどうかなって』
『帰りゼミに寄って、昨日の続きだけしたいから。それ終わったら良いよ。今日はどこ行く?』
『ありがとう!‥私の家は?』
『ん?村井さんの?』
『うん!私こう見えて料理好きなんだよね。』
『へー。いいよ。行こっか.』
『ほんと!嬉しい!楽しみにしてるね!』
研究室で昨日の続きを少しするつもりが、時間を忘れて遅くなってしまった。
ドアを出ると、廊下で村井さんが待っていた。
『村井さん.ごめんね、待たせて.』
『全然大丈夫!んじゃ行こっか!』
『こんな夜遅くにお邪魔して大丈夫なの?』
『良いよ.気にしないで!』
村井さんは、オートロック付きのちょっと良いマンションに住んでいた。
女性だと防犯面とか大変だし、セキュリティ重視の良い家に住むよな‥とか思いながらエレベーターに乗っている.
五階についた。
エレベーターを降りて、部屋について入ると、
ふわっと甘い香りのするアロマの香りがした。
部屋の中は、白とピンクを基調としたThe女子部屋だった。
姉ちゃんとえらい違いだな‥。
あの人の部屋、物多いし.汚いし、お父さんのお下がりの黒皮のデスクチェアに乗ってくるくる回っている。
『お邪魔します』
『どうぞ!』
ヒラマサは、部屋に入るとテーブルの前にかけた。
『‥やっぱり悪いし、ご飯は出前でもとる?今から作るの大変じゃない?』
『全然苦じゃないよーいつも自炊してるから』
『そうなんだ.』
すると、村井さんはエピロンをつけて髪を一つに縛ると台所に立ち、30分ほどで味噌汁、ご飯、肉じゃが、お浸し、だし巻き卵を作ってしまった。
その間、ヒラマサはタブレットと持ち歩きノートパソコンで研究用のプログラムの続きをした。
『即席だしこんなのでごめんね』
『全然良いよ.美味しそう.いただきます。』
一口食べて驚いた。
家で作るお母さんのごはんよりおいしい。
なんならちょっと良い旅館に泊まった時に出てくるご飯っていう感じだ。
『すごいね、めちゃくちゃおいしいよ。料理得意なの?』
『そんなありがとう。父が料亭で料理長してるの。だから家でも作ってくれてて、そのレシピを参考にして作ったんだよ.』
『なるほど。だからか‥うちの母さんのより全然美味しいよ.』
『ありがとう!うれしい!』
その後も黙々と食べ続ける。
『あの、平井くん』
『ん?』
『付き合ってそろそろ1ヶ月経つでしょ?』
『うん』
『いつまでも、村井さん呼びだと寂しくて‥できたら嘉代とか。下の名前で呼んでほしい。』
『あ、なるほど。んじゃ嘉代さん.』
『ありがとう‥』
嘉代は、頬を軽く染めた。
良い子だな.こんなことで喜んでくれるのか。
こんな時も脳裏にチラつくのは佑々木の顔だった。なんか申し訳ないな‥。
圭吾のせいでなんか調子狂う。
『私も将生くんって呼んでも良い?』
『うん、もちろん』
『ありがとう。』
『あ、そうだ。嘉代さん。誕生日っていつなの?』
『え?急にどうしたの?』
『いや、いつなのかなーって.』
『えっと‥11月25日だよ.』
『あ、来週じゃん.なんか欲しいものないの?』
『く、くれるの?』
『うん。買えるものならいいよ。流石に高額なハイブランドは買えないけど‥』
『いやいや、嬉しいよ!ありがとう!ほんとになんでも良いよ!』
『そうか。考えとくよ.』
‥なんでもいいか。1番困るな。
食事を食べ終わった。
『嘉代さん.食器は俺が洗うよ。食べさせてもらったのに申し訳ない。』
『え、いいの?んじゃ、お願いしようかな.』
『うん。』
『水が飛ぶからエプロン使ってね』
そういうと、嘉代はピンクのエプロンをまさきに手渡した。
‥ずいぶんファンシーなエプロンだな。
まあいっか。将生はエプロンを身につけると、黙々と食器洗いをした。
食器が洗い終わり、エプロンをとってラグの上に座っている嘉代の隣に座る。
『んじゃそろそろ帰るよ.遅くまでありがとう。』
『‥帰るの?』
『うん。遅いし。』
『‥泊まっていかない?』
そういうと、嘉代は将生の服の裾をつかんできた。離す気配はない。
『‥あー、でも準備とか何もしてないし.』
『そ、そうだよね。』
『うん。女の子の部屋泊まるのも申し訳ないよ.』
『‥』
正直、このファンシーな空間は落ち着かない。
しかし、嘉代さんは服を離してくれない.
じっと黙り込んでいる。
『将生くん、私のこと好き?』
『え?』
どうしよう.好きでは‥ない。
けど。嫌いでもない.これから好きになっていくものだと信じている.
こういう時はなんて言えば良いんだろ.
『えっと‥』
『良いの、わかってるから.』
『え?』
『もうでも、それでも良いの.』
『んん?』
そういうと、嘉代は将生の胸に身を投じるようにひっついてきた.
『ど、どうしたの?大丈夫?』
『今日はずっとここにいてほしい』
『えっと‥どうしたの急に?』
『‥一緒にいたいの泊まっていってほしい』
『え‥うーん‥』
でもこういうときに彼女のわがままに付き合ってあげるのも大事なことってなんかテレビかどっかで見た気がする.
『いいよ。泊まるよ.』
『ほんと?』
『うん。』
『んじゃ、先にシャワー浴びてきて!もう準備してあるから!』
嬉しそうにシャワー室へ案内してくれた。
‥着替えとかどうしよう.まあいっか。
シャワーから出るとホテルの如く、新品のTシャツとスウェットが置かれていた.
準備いいな‥しかも男物の下着まで。
まるで泊まることを想定してたみたいだ。
『シャワーありがとう。嘉代さん.なんか、服も借りるね.ありがとう。』
『いいの!ぴったりサイズあった?』
『うん、あったよ。』
『良かった!んじゃ私浴びてくるね!』
嘉代さんは、シャワーを浴びにいった。
長くなりそうなのでとりあえずタブレットを開いて研究内容を確認する。
メールのフォルダを開く。
プライベートでよく連絡を取り合っているのか、圭吾と佑々木しかいない。
佑々木元気かな‥。何も言わないってことは西岡と元気にやってんのかな。
佑々木の首筋にあるキスマークを思い出した。
いやいや、変な想像するな!!
仮にしてたっていいだろ!付き合ってるんだし!‥付き合ってるとしてもいいのか。
いやでもそれは好き同士で付き合ってる限定の話だろ‥俺たちは違うしな‥。
まだその段階まで行ってない。
佑々木の連絡先をクリックして、メール画面を開く、‥恋愛相談乗ってもらうだけならいいかな。誕生日プレゼント何買ったらいいかとかアドバイスもらうだけなら西岡も怒んないよな?
‥てか、まてよ。
佑々木の誕生日っていつだ‥??
誕生日を祝う概念がなかったから、誕生日に気を止めることなく生きてきたせいで全員の誕生日を知らない。
〈佑々木久しぶり.相談したいことがあるんだけど、誕生日プレゼントでもらったら嬉しいものってある?〉
と、送信.
ピロロン♪あ、すぐ返信きた.
〈久しぶり!どうしたの急に?プレゼントかー!何もらっても嬉しいと思うけど、誰に送るかにもよるよね。誰にあげるの?〉
‥なんだろう。彼女にあげるって言いにくい。
佑々木も彼氏がいるから別にいいんだけど‥
〈同じゼミの女の子にあげるんだよ〉
嘘じゃないもんな.
〈そうなんだ!んじゃ、スイーツとかアロマキャンドルとかお花がいいんじゃない?〉
なるほど!めちゃくちゃいい無難なアドバイス!
〈ありがとう、そうするよ。そういえば、佑々木の誕生日っていつ?〉
〈7月7日だよー!〉
も、もうすぎてる!!
知らなかった.てか七夕か.覚えやすい。
『将生くん!お待たせ!』
『あ、嘉代さん.』
嘉代は、お風呂から上がってきた。
嘉代さんは、佑々木より身長も体重も多そうで、ふっくらした女性らしいシルエットをした人だ。お風呂上がりのせいかどこか艶っぽい雰囲気をまおっており、ピンクと白のふわふわのフード付きパジャマに同じセットアップのショート丈のズボンを履いている.そして、胸が大きい。太ももも適度に肉付いており、The男性が好きそうな体という感じだ.
将生の隣に座ると、将生の顔を見つめる.
『ん?なに?』
『何もないよ、タブレットで誰かとメールしてたの?ピロロンって何度かなってたから』
『あー友達だよ』
『そっか。』
『あ、そうだ.俺さ、今日どこで寝てたら良い?床で全然良いんだけど』
『あ、家族が来た時に泊まるようの布団があるの。それ使って、押し入れに入ってるから』
『わかった。ありがと。』
『私こそ、無理言ってお泊まりなんてごめんね、』
『あ、うん‥』
ほんとは家に帰りたいけど‥。
『ねえ!将生くん!』
『な、なに?』
『私のこと好き?』
『え‥』
好きになろうとしてるところだよって言ったらダメな気がする.
『えっと、そうだね.うん.好きだよ.』
人として嫌いじゃないし嘘じゃない.
『本当?』
『うん、ほんと』
『んじゃ‥なんで何もしてこないの?』
『え?』
『‥き、きすとかはぐとか』
『あぁ、ごめんそこまで頭回ってなかったよ』
『‥』
『‥えっと』
どうしよう。でも、この状況でキスもハグもできないな‥まだそこまでしたいとも思わないし‥。
すると、嘉代は将生の胸の中に身体を沈めるようにひっついてきた。
腕をギュッと握っている。嘉代の豊満な胸が将生の身体にガッツリ当たっている。
『‥嘉代さん?』
『これでも何も感じないの?』
『え、感じる‥??』
『‥』
どうしよう.驚くほど何も感じない。
実は女に興味ないんじゃないか?と自分自身を疑うぐらい何も感じない。
この状況どうすれば良いんだ‥。
『あの、嘉代さん。』
『‥なに?』
『俺今日ちょっと体調悪いかも。申し訳ないけど、もう寝ても良い?』
『そっか‥私こそごめんね.』
そういうと、嘉代は将生の腕を話してベッドに入った。
その姿を見てホッとした将生もそのまま寝た。
朝起きると嘉代はいつも通りの服装をしており、朝ごはんを作ってくれていた。
『将生くんおはよう』
『おはよう、朝早いね。嘉代さん.』
『うん.早起きは得意なの』
俺起きたの朝6時なのに、嘉代さんは何時に起きたんだろ‥そんなことを考えた。
そのまま大学に行き、何も変わらず解散した.
死ぬほど気まずかった。
でも、止まらせてもらってご飯までご馳走になったし誕生日プレゼントも兼ねて何かプレゼントしないとな‥アロマキャンドルかスイーツがいいって言ってたし。
そう言われて、大学の帰りにショッピングモールに行き、店員さんにおすすめの商品を選んでもらい購入した。
1週間後。
嘉代の誕生日になった。将生は、ゼミの講義が終わり帰ろうとしてる嘉代を呼び止めた。
『嘉代さん』
『将生くん、どうしたの?』
『誕生日だろ?これ‥前のお礼もかねて』
『え?ほんとにくれるの?』
『うん。そのために買ったから』
『ありがとう‥でも受け取れない』
『え?』
『将生くん、私のこと好きじゃないでしょ』
『ご‥ごめん』
『将生くんつまんないよ.もう別れよう。』
『‥わかった』
将生の初めてのお付き合いは終わった。
その日は久しぶりに実家の家に帰宅した。
ソファに座ってゲームをしている杏奈.
杏奈にラッピングしたアロマキャンドルを渡す。
『ええ!?何急に!私にくれるの?』
『うん。やるよ。』
『あらー彼女にあげる予定だったやつとかじゃなくて?なんてねー』
『予定だったけどフラれてきたからいらない。姉ちゃんにあげる。』
『ええ!?まじ??もしかして、う、うさちゃん?』
『違う』
『ええ!?んじゃだれ!?!?』
『言うわけないだろ』
『ええー!!!』




