傷心中
あの事件から1ヶ月経ち、
花は、軽音サークルにあまり顔を出さなくなった。
練習には参加するが必ず和紗や由奈ちゃんがそばにいて1人になる状況を作らなかった。
千葉先輩の連絡先は消去した。
ヒラマサとも連絡は取っていない。
そんな中で西岡と和紗と由奈と北川と真緒も一緒に居酒屋に行くことになった。もう直ぐ年末ということでちょっとしか飲み会が開かれた。
『真緒ちゃん写真で見るよりずっと可愛いわー!花ちゃんの友達は可愛い子ばっかりやな!』
『えええーー由奈ちゃん嬉しい事言ってくれるわねー!いい子じゃない!仲良くしましょ!』
『もちろん!』
由奈と真緒は初対面だったが、すぐに打ち解けることができて最初から友達のような感覚で楽しそうに飲んでいた。
『んじゃトイレ行ってくるー!』
『そこの角右に曲がったとこにあるよ!』
『ありがとう』
トイレに向かって歩いてあると壁越しに聞き覚えのある声が聞こえたきた。千葉先輩の声だ。
思わず隠れてしまった。
あの時、カラオケでキスしてからずっと避けているのだ。部内でも会わないようにしている。
『いやーもうちょっとでいけそうだったんだけどさ、逃げられたわ!』
『えー!お前なら百発百中だったのに!でもざまあみろって感じだわ!』
『うるせえーてか、ちびうさちゃん恋愛経験浅すぎなんだよ。うぶ過ぎて、そんでもって真面目だからもう無理だろうなー!』
『もっかい部屋連れ込めばワンチャンない?』
『顔も可愛いしスタイル良さそうだし、勿体無いわ!』
『今度は最初から薬飲ませれば?』
『ほんとそうすれば良かったわ。警戒心強いから解くの大変だったんだぜ?』
『てか、もしも次あったらその時は混ぜろよな〜?』
『ねえ男子、クソみたいな話やめてくれなーい?てか、1年に適当に手出すのやめなまじで!』
『はいはいー!ヤキモチですか?』
『違うし!うざすぎ!』
『あはははは!』
‥うわあ。最悪だ。
良かった。あの時ちゃんと断って‥。けど、どこかで千葉先輩に抱いていた尊敬のような心が消えていく。
ヒラマサにフラれて、バカな先輩にコケにされて、情けない‥。
涙が溢れてくる。
身体が動かない。
『‥大丈夫?体調悪い?』
横から声が聞こえた。ハッと振り向くとそこに西岡が立っていた。
『なんか顔色悪いぞ?』
『‥ごめん帰る』
『え?』
そのまま走ってお店を出た。
外はもう暗くて雨が降っていた。
もうそんなことも気にならない。
もう嫌だ。一人になりたい。
‥消えてしまいたい。
雨でびしょ濡れになり、涙が出ているのか分からなくなった。
すれ違う人にちらちらと見られるがそんな視線も気にならない。
情けない。みっともない。
こんなことをするために大学に進学したわけじゃない。辛い。
ヒラマサにフラれて、ヤッケになってたのかもしれない。焦ってたのかもしれない。
早く、幸せになりたいって、早く好きな人にヒラマサを忘れるくらい素敵な人に出会って‥
『佑々木!!』
『‥ッ!!西岡!?』
雨の中追いかけてきたのは西岡だった。
『雨降ってんのに何も持たず出ていくからびっくりしたよ。ほら、荷物と傘。てか、びしょ濡れじゃん。風邪引くぞ!!』
『‥ごめん』
『‥大丈夫?千葉先輩となんかあった?』
『‥え』
『なんか、仲良くしてたようなイメージあったし、あの場に千葉先輩達もいたから‥』
『‥』
『‥あ、そうだ。みんなに佑々木が出て行ったこと言ったら、ちょうど千葉先輩のこと見つけて。ちびうさって多分佑々木のことだろ?話してるの聞いちゃって、和紗たちがめちゃくちゃ怒っててさ、北川が今2人をなだめてる。赤石が何か知ってたらしくて、それを和紗に説明してて、和紗がブチギレて‥まあ、そんな感じ。』
『‥』
『話したくないなら無理に話さなくて良いけど。とりあえずみんなに声かけてきたし、帰ろうぜ。確か実家暮らしだよな?送ってくよ。』
『‥帰りたくない』
『はあ?』
『こんなんじゃ帰れない』
『‥んじゃどうするんだよ。こんなびしょ濡れのままじゃ風邪引くぞ。』
『やっすいホテル泊まる』
『ひとりで?』
『うん』
『‥俺んちくる?』
『え、』
『別に何もしないし、狭いけど、すぐそこのアパートだし。ほら、前みんなで家に飲みにきただろ?』
『‥良いの?』
『うん。ほっとけないだろ。』
『‥西岡の家行く』
『おう。んじゃこれとりあえず着ろ!』
西岡は自分が着ていたコートを肩にかけてきた。
『いいよ、西岡も風邪引くよ』
『誰が誰に言ってんだ?ほら行くぞ』
そのまま歩いて15分ほどして西岡の一人暮らししているアパートに着いた。
『とりあえずシャワー浴びてこい。身体キンキンに冷えてるだろ。着替えは置いておくから。』
『‥ありがと』
そのままふらふらと脱衣所へ向かい、シャワーを浴びた。
脱衣所を出ると丁寧にバスタオルと西岡のものであろうジャージとスウェットが置かれていたので、とりあえずそれに着替えた。
風呂を出ると、西岡はキッチンで何かを使っていた。
『シャワーありがとう‥何作ってるの?』
『お腹すいたから、鍋焼きうどん!』
『うどん‥』
『食べる?』
『‥一口だけ』
『はいはい。向こうで休んでて』
『ありがと‥』
そのままふらふらとテレビの前に座った。
情けない。
男に振られて、男に弄ばれて、男の家にいる。
だめ女の典型的なパターンだ。
悲し過ぎてもう涙も出てこない。
『おい!髪の毛濡れたままじゃん!ドライヤーで乾かさないと風邪引くぞ!』
『‥はい。』
『たっくもう‥』
西岡は小さなお椀に盛ったうどんをテーブルに置くと、ドライヤーで髪を乾かしてくれた。
西岡は妹がいるって言ってたせいか手慣れたもので髪を乾かすと櫛で軽くといてくれた。
『顔死んでるぞ』
『‥情けない』
『はいはい』
『ヒラマサにフラれて‥、千葉先輩に遊ばれて‥今西岡の家にいるの』
『そうだな』
『だめ女だ。ごみ女。消えたほうがマシ。男漁りばかりのクソビッチ女です。』
『佑々木ってそんなキャラだっけ?壊れてるだけか?』
『ゴミ女です。大学に進学したのに、バカみたいな毎日過ごしてます。税金無駄遣い女です消えたほうがマシ。。』
『勉強もちゃんとしてるじゃん』
『カス‥社会のゴミ‥』
『壊れてんなー。はい!ドライヤーおわりー』
『‥ありがと』
『とりあえずうどんでも食べて!』
『‥美味しい』
『んじゃ俺もシャワー浴びてくるわ!ゆっくり食べてて!』
『ありがと』
西岡が作った鍋焼きうどんは、出汁の効いたつゆにうどんと卵とネギが入ってるシンプルなものだがとても美味しくて、体に沁みた。
15分ほどすると西岡が戻ってきた。
『お?食い終わった?』
『うん‥美味しかった。』
『落ち着いた?』
『うん‥千葉先輩のことちょっと好きになりかけてたんだよね。ヒラマサにフラれて、心潰れかけてるときだったから余計かな?そのせいか、結構メンタルにきちゃった。』
『まあ、遊び人で有名だったしな。心配はしてたんだぞ?とりあえず未遂で終わって良かったな。』
『お恥ずかしい限りで‥』
『まあ、誰でも何かすがりたくなる時はある!けど、もう頼る相手は間違えるなよ?』
『ありがとう。西岡は優しいね。いつもみんなに優しくて、本当にすごいよね。みんなから好かれてるし、友達も多いし、優しいし‥私とは全然違う。』
『そんなことないよ。佑々木も優しいじゃん』
『‥私は、みんなに甘えてばかりでダメダメ人間だよ。私ももっとしっかりしなくちゃ‥西岡みたいにちゃんとしっかりして、優しくて頼りにされる存在になりたい‥』
『‥佑々木さ、なんか勘違いしてない?』
『え?』
『俺が優しいのは佑々木にだけだよ。』
『え』
『好きだから優しくしてんだよ。ずっと、高一の時から、佑々木が好きで、かっこよく見られたくて、良く思ってほしくて、好きになって欲しくて、ずっと優しくしてんだよ。下心しかないぞ。』
『‥あ、あの』
『‥ごめん。急にこんなこと言って。』
『いや、こちらこそ‥ごめんなさい。』
『俺の気持ち気づかなかった?』
『‥気づいてたかも。なんとなく。そうなのかな?って思ってたけど、あんまり気にしないようにしてた。気づかないふりしてたのかも、ごめんなさい。』
『‥はぁー』
『西岡、あのさ、私‥、』
『俺ちょっと今日無理かも。佑々木ここ泊まっていけばいいよ。俺ちょっとネカフェ行って泊まってくる。』
『え?え?』
『ここに鍵置いておくから、朝になったら帰って、鍵閉めてポストに入れといてくれたらいいから!』
西岡はバックから鍵を出して、テーブルに置き、そのままバックを持って立ち上がった。
焦ってとにかく西岡のスエットズボンを掴む。
『え?ちょっと待って、西岡!』
『いや、ほんと今日は無理』
『ごめんなさい!‥本当に、本当にごめんなさい。私が帰るよ。迷惑かけてごめんなさい。』
『いいよ。迷惑かけてよ。俺、佑々木に迷惑かけられるの好きだよ。』
『でもっ‥行かないでよ‥』
『‥無理だって、今晩一緒にいたら流石に我慢できない。』
『‥。』
『俺だって男だよ?意味わかるよな?』
『‥西岡となら良いよ』
『‥本気?』
『うん。』
『やっけになってない?』
『‥わかんない。けど、千葉先輩は無理だったけど、西岡となら一緒にいたい。』
『‥後悔しない?』
『しない。だから、行かないで。』
西岡の服の裾を掴んで、まっすぐ西岡の顔を見た。
西岡ってこんなに背高かったけ。
そのまま西岡は、花の頬を触りながら軽く唇にキスをした。
いつもみたいにとても優しい。
『‥もう遅いからな』
『うん』
そのまま朝まで西岡の家で過ごした。




