カラオケBOX
店を出て駅の方へ走り出し、花を探すヒラマサ。しかし、花たちは反対方向のコンビニへ行ったのでいるわけがない。
ヒラマサを追いかけて遥香がやってきた。
『将生くん‥!待って!』
『遥香さん。もうほっといてください。』
『ごめんね、私のせいで』
『‥そう思うならもう話しかけてこないでください。勘違いさせるようなことばかり言って‥佑々木に変なふうに思われたら‥。』
『将生くん。ごめん。私、将生くんのこと好きなの。』
『‥え?』
『付き合うお試しなんて言ったけど、本当はただ付き合いたかっただけ。ごめんね。』
『‥』
『花ちゃんに意地悪なこと言ってごめんなさい。正直、花ちゃんとうまくいかなくなったら私にもまだチャンスあるかなと思って‥余計なことたくさん言っちゃった。』
『はぁ‥勘弁してください。』
『ごめんなさい。』
沈黙が走る。
『将生くんのこの初めて見た時からカッコいい!すごくタイプ!って思って、いっぱい話しかけたの。年下だけど、すごくしっかりしてて、頭も良くて、こんな気持ちになったの小学生ぶりで私舞い上がっちゃった。』
『‥』
『勝ち目ないって分かってたけど、いっぱいちょっかいだして、ワンチャンあるかも〜なんて考えてた。ごめんなさい。』
『いや‥俺も家に呼んだりして思わせぶりなことしてたかもしれません。すみません。』
『ううん!いいの!将生くんが何も考えてないこと分かってたから!』
『‥すみません。本当に、姉と同じみたいに思ってて、全然そんなこと考えませんでした。』
『言ってたもんね!そういうふうに!』
『すみません‥俺は、佑々木が好きなので、先輩とか付き合えません。』
『だよね!いいの、もう諦めるね!』
『はい‥』
『んじゃさ、最後に‥キスしてくれない?』
『え?』
『一度だけでいいの。ほっぺでも良いし。』
『‥先輩。』
『うん。』
『それは無理です。好きじゃない人にキスはできません。手も繋げません。お試しとかで人と付き合うのは嫌なので。』
『‥』
『好きな人と本気で付き合いたいので、先輩とはもう会えないです。すみません。』
そういって、将生は頭を下げるとそのまま、また駅の方へ走って行った。
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あのあと、ヒラマサから何通か連絡があったけれど‥返信できていない。
《佑々木、何か誤解してると思う。話がしたい。》
《返信だけでも欲しい。少しだけ話したい。》
《体調悪い?大丈夫?》
《ちゃんと家まで帰れたか?》
《気を悪くさせてごめん。》
あんなの見せつけられたらもう何も会いたくない。
寺倉に聞くと、ヒラマサの家を遥香さんが出入りしてるのは事実みたいだった。
まさかそこまで親密になっているとは寺倉も思っておらず、何も聞いていなかったとのこの。
寺倉にも話さずにこっそり遥香さんと付き合ってたんだ‥。もうヒラマサと連絡取るのはやめよう‥。
そこから連絡もストップした。
あの事件から1ヶ月が経った。《10月》
あの後、西岡にアイスパフェを奢ってもらい、代わりにコーヒーを奢った。
あの時、西岡が連れ出してくれて良かった。
けど、やっぱりメンタルにくるなぁ‥。
『やっほー!花ちゃん!』
『あ、千葉先輩。』
『最近ギタースランプって聞いたよ?大丈夫?』
『あはは、確かにあんまり練習進んでないですね‥。』
『どうしたの?なんかあった?』
つい、ヒラマサと遥香先輩のことを話してしまった。
『それはもうできてるね』
『やっぱりそうですよね』
『うん。しかも夜に出入りしてて、改札口でキスするってことはもう、確実だね。』
『はぁーーー‥』
『花ちゃん失恋で傷心中だったんだね!どんまい!』
『軽いですね‥』
けど、今は周りが腫れものに触るかのような扱いをしてくるのでこの何も考えてない感じの千葉先輩に救われる。
『そういう時はさ、カラオケに行くのが良いよ!』
『カラオケですか?』
『うん!それにカラオケに行けば、ギターとかの楽器の練習し放題だから。めちゃ良いよ!』
『そうなんですね。和紗誘ってみようかな、』
『せっかくだし一緒に行こうよ!』
『え、千葉先輩とですか?』
『うん!ギターも教えるよ?』
‥千葉先輩はあの時から見違えるようにおとなしくなった。飲み会でも本当に禁酒していたし、変な絡みもなくなり、いつもギターを丁寧に教えてくれていた。
2人きりか‥でも、もうどうせヒラマサも遥香先輩と一緒にいるんだろうし。もういっかな。
『はい。良いですよ。』
『え?まじ!?やったー!!んじゃ今日いこ!』
『わかりました。また講義が終わったら連絡しますね。』
『うん!楽しみ!カラオケとか久しぶりだな〜』
講義の後に、千葉先輩と大学前で待ち合わせして、そのまま2人でカラオケに行くことになった。
高校生ぶりのカラオケでは、先輩と2人で歌って歌って、ギターの練習をして楽しく過ごした。
『花ちゃんめちゃ歌上手!今度俺のバンドでボーカル来てよ!』
『え、本当ですか?』
『うん!セッションしようぜ!』
『いいですね!しましょう!』
ギターを弾いていると千葉先輩が隣に座って、肩を抱いてきた。
『そこの持ち手はこの方がいいよ』
ギターの弦を抑える手をそっと覆うように手に触れてきた。やばい近いな‥。ドキドキする。
『花ちゃんいい匂いだね』
『そ、そうですか?』
『うん。』
すると、千葉先輩は、花の唇に軽くキスをしてきた。
びっくりして、口を押さえてその場で立ち上がった。
『ご、ごめん、そんなにびっくりすると思わなかったよ。』
『あ‥いや‥その、すみません‥』
口を押さえたまま困惑する花。
どうしよう。初めてのキスなのに‥!!
動悸や冷や汗が止まらない。
『嫌だった?』
『‥い、いやというか‥』
付き合ってもないのにこんなことするの!?
おかしくない!?
しかもここ、カラオケボックスの中だよ?
ガラスの扉から誰か見てるかも知らないのに‥
他のお客さんの声だって聞こえてるのに‥。
『ごめん。もうしないから!ほんとごめん!』
『あ‥はい、』
『でもさ、実は俺、花ちゃんのこと好きなんだよね。』
『え‥』
『分かってたでしょ?好きなの』
『いや‥誰にでもこんな感じなので‥』
『そんなことないよー!』
『‥』
千葉先輩が私のこと好き?本当に?
このまま、付き合っちゃう?‥けど。
正直キスされてから嫌悪感が半端ない‥。
千葉先輩といるのが怖くなってきた。
『もうしないから!ごめんね!ほら、ジュースでも飲んで!』
『は、はい‥』
先輩から渡されたコップに口をつけようとした時、グラスの淵に少しだけ付いていた白い粉が目についた。‥なにこれ。
全身から冷や汗がワッと湧き出てきた。
グラスに口をつけるのをやめて、テーブルに置いた。
『あれ?飲まないの?』
『千葉先輩。私、ちょっとお腹痛くなってきて、帰ります。』
『え、そう?んじゃ送って‥』
『いいです!自分で帰れるので!』
そのままお金をおいて、荷物を持って部屋を出た。
すぐに走り去っていった。
‥あの粉。睡眠薬だったら‥どうしよう。
北川くんが言ったことを思い出した。
'あのままお酒飲んでたらホテルかどっかに連れ込まれてたかもよ?"
全身に鳥肌が立った。怖い。
どうしよう。怖い。そのままショッピングモールには入り、急いで自販機で水を3本購入した。
いつからだ‥いつから、‥いつから薬を盛られてた?
どのくらいの飲んだ?
千葉先輩からもらったグラスのジュース、‥どのくらい飲んだっけ?
そのまま走って女子トイレに入った。
口の中に手を突っ込んでさっきのカラオケで飲み食いしたものを全て吐き出した。
胃が空っぽになるまで吐き続けた。
胃液しかでなくなったら、水を一気に飲み干した。二本飲み切るので精一杯だった。
そして、そのままトイレの床に座り込んだ。
情けなくて、苦しくて、涙出てきた。
その場で動けなくて、誰かに助けを求めるために、スマホの連絡先一覧を開く。
すると、真緒の文字が目についた。
『真緒‥出てくれるかな。』
真緒に電話すると、すぐ出てくれた。
『花!どうしたの急に!花から電話するなんて珍しいね!』
『‥ううっ‥真緒‥真緒‥』
『え?ちょっと、どうしたの!?泣いてるの!?』
『真緒に会いたいよ‥』
『ええ!?ちょ、ちょっと今どこにいるの!?位置情報送って!!』
真緒は、言われた通り位置情報を送ると、30分ほどできてくれた。
女子トイレの中にある椅子に座っていると、見つけると同時に抱きしめてくれた。
安心して涙が溢れてくる。
『うう‥もうだめかもしれない。辛いよ。』
『わかった分かった。話聞くからとりあえず、私の家に来る?』
『うん‥』
そのままタクシーで真緒の一人暮らししてるマンションまで行った。
朝まで一緒にいてくれて、真緒の家でゆっくり眠りにつくことができた。
真緒は、声を荒げることなく静かに話を聞いて、相槌を打っていた。
そして、最後に『よく逃げてこられたね。えらいよ。』と頭を撫でてくれた。




