軽音サークル
放課後。
中庭で仲良くなった女性の先輩たちとギターの練習をしていた。
『そうそう!上手よ!佑々木さん!』
『ありがとうございます!先輩の教え方が上手なんですよ。』
『えー可愛い!!なんて良い子なの!私の妹にしたい!』
『ちょっとやめなよ〜全然似てないわよ?』
『失礼ね!』
『あ、そうだ!佑々木さん。そのギター。サークルのやつだし、貸し出しもできるからそのまま家まで持って帰ってもいいよ。他の子達には言っとくからさ!』
『え!良いんですか!?』
『そりゃそうよー!練習しないと上手くならないもん!』
『ありがとうございます!』
その後も1人で中庭で練習する。
和紗はキーボードなので、キーボード組の人たちと一緒に練習をしているため一緒にいることは少ない。一年生の時はこうやって楽器を黙々と練習し、2年でステージに上がるようだ。
今はひたすらギターを練習する。
すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
『うさちゃんお疲れ♪』
『千葉先輩!』
『どう?練習進んでる?』
『あ、はい。皆さん優しいので‥』
『そりゃ良かった!俺もギター弾けるんだよね!教えられるからいつでも聞いてね?』
『ありがとうございます』
『そうだ!今度さ、一緒にご飯でもどう?』
『え、あー、また行きたいです。』
『本当?んじゃまた連絡するけど良い?』
『はい。また都合合わせますね。』
『嬉しい〜!友達がバイトしてる美味しい焼き鳥屋さんがあるんだよね。マジでうまいから覚悟してて?友達も誘ってよ!あの和紗ちゃんってこ!あの子とも仲良くなりたいしさ!』
『聞いてみますね、楽しみです!』
『やったね!‥んでさ、あの男の子ってウサちゃんの知り合い?』
『え?』
指さす方向を見ると西岡がこっちを見ていた。
目が合うと軽く会釈してきた。
『彼氏?』
『あ、友達です!』
『そうなんだ!さっきからうさちゃんに声かけたいみたいでずっとこっち見ながらうろうろしてたよー?』
『全然気づきませんでした。ありがとうございます。行ってきますね。』
『うん、いってらっしゃーい』
西岡の方へ駆け寄る。
『西岡、どうしたの?』
『いや別に‥最近会ってないなと思って、顔を見にきた。軽音サークル入ったって聞いたし。』
『そうなんだ!西岡は陸上どう?』
『楽しいよ。‥今の男の人は?』
『あー、同じサークルの先輩。』
『へー‥なんか距離近くね?』
『そう‥だよね?』
『なんかちょっと困ってそうだったから、声かけに行こうと思った。大丈夫か?』
『あはは、ありがとう。助かったよ。』
『花は、お人好しが過ぎるところがあるからな、ちゃんとはっきり断れる人間にならないと変な奴に寄り付かれるぞ。』
『分かってる‥』
『北川や和紗と一緒に過ごすようにすれば良いだろ?』
『確かに、和紗に相談してみる』
『そうした方がいいよ。面倒なことになる前に。』
『うん。ありがとう。』
『んじゃ、なんかあればまた相談乗るから!気をつけろよ!んじゃ俺も練習があるから行くな!んじゃまたー!』
『うん!またね!』
‥西岡の言う通りだ。はっきり断れない自分も悪いし、和紗に相談してみよう。
ご飯に行く約束、また誘われたら和紗達も誘ってみようかな‥。嫌がりそうだけど。
『良いよ。ご飯行くだけでしょ?一緒に行くよ。』
『そういうことね、ええよー』
意外な返事が来た。
『え!?いいの!?』
『うん。軽音部のメンバーで行けば良いんでしょ。北川も誘えば良いわ。』
『ええな!イケメンくん!』
『あ!そうだね!』
北川くんに話をすると北川くんも、二つ返事でOKしてくれた。
メールで千葉先輩にそのことを伝えると、みんなで飲んだ方が楽しいもんね!と言ってくれた。
千葉先輩たちのサークル内のメンバーと北川くんと和紗、杏奈と一緒にご飯を食べに行くことになった。
指定された居酒屋に行くと、千葉先輩と同じバンドメンバーの軽音部の人たちもいた。
『よろしくねー!』
『よろしくお願いします。』
千葉先輩たちはお酒が入ったようで楽しそうにしていた。
千葉先輩を含む5名のメンバーはみんな男子だった。北川くん連れてきて良かった‥。
これだと合コンみたい‥。
『ねえねえ、うさちゃんこれめちゃ美味しいよ。このカクテル!』
『へーそうなんですね。ノンアルのやつもあるかな?』
メニューを取ろうとすると‥
『俺の一口飲んでみてよ!』
『え』
『美味しいよー!ほらほら!』
『あ、いや‥まだ未成年なので‥』
『気にしすぎだって!俺も一年の時から酒飲んでるよ?全然大丈夫だよー!ほらほら!』
『ええ‥』
千葉先輩はかなり酔っているようで、甘そうなカクテルを差し出してくる。
どうしよう‥3年の先輩だし断りにくい‥。
けど、未成年飲酒はちょっと‥。
隣にいる和紗がものすごい怖い顔をしながら千葉先輩を睨みつけている。
今にも手が出そうなぐらい怒ってる‥。
やばい‥ここは勇気を出して断らないと‥
『あの‥やっぱりお酒は』
『先輩ー!酔いすぎじゃないっすか?』
割り込んできたのは、北川くんだった。
千葉先輩の肩を組んで、顔を近づけている。
『なんだよー北川ノリ悪くない?』
『俺らまだ未成年なんで飲めないっすよ!先輩酔いすぎっすねー水飲みましょ!』
『えー?うーん。』
すると北川くんは千葉先輩のグラスをとって、お冷の入ったコップを手渡した。
『てか、俺ら明日も一限目から講義なんでもう帰りますね!色々な話聞けてめっちゃ楽しかったですー!』
そういうと北川くんは財布から一万円札を2枚取り出して、机に置いて。
私と和紗と杏奈に目で合図して、居酒屋を出た。
『北川くん、ありがとう!』
『‥はぁー。ヤバいね。千葉先輩。悪酔いしすぎだね。見てらんないわ。』
『ほんとそうだよ。あそこで北川が出ないと殴ってたわ。私。』
『いやあれは災難やったな‥なんかありそうな飲み会やと思ってたけど‥』
『千葉先輩は、酒飲むとろくなことなさそうだし、これから飲み会はやめといた方がいいね。うさちゃん。』
『ごめん‥みんな。あ、北川くん。さっきのお金払うよ。』
『あ、ほんと?んじゃ1人五千円ちょーだい!』
『はいはい。』
北川くんはみんなからお金を徴収すると満足そうに財布に納めた。
そして、北川くんは近所のアパートに一人暮らししているのに、わざわざ他のみんなを駅まで送ってくれた。
駅で別れる時。北川くんが何か思い出したかのように花のことを呼び止めた。
『あ、そうだ。うさちゃん。あの時ちゃんとお酒断ってて大正解だよ。』
『あー!だよね!』
『うん。もしも飲んでたらそのままホテルか家に連れ込まれて何されてたか分かんないよ?』
『‥え』
『この中だと明らかにうさちゃんが一番ガード緩いし、押せば折れそうなタイプだしね。気をつけなよ〜!』
するとヘラヘラ笑いながらそのまま北川くんは帰って行った。
『‥』
『北川の言う通りだよ。花。危機感持ちな。』
『そうやな。北川くんは優しいなぁ』
『‥気をつけます。』
生きてきた人生の中で生まれて初めて命の危険を感じた出来事だった。




