プリンと夢
バイトは、受験勉強を理由に退職した。
2年間働いたパン屋さんの店長は泣いていたが、受験勉強のためだと説明すると引き止めることはなかった。
またお客さんとして行くことを約束した。
バイトも辞めたし、残りの受験期に勉強を全力で頑張ることを決めた。
退職日には、花束をもらい盛大にお別れ会をしたくれた。
その帰り。
『佑々木。バイト辞めるんだ。』
『ヒラマサ!』
パン屋を出ると、店の前にヒラマサが立っていた。常連さんなのでいつも通りやってきたのかもしれない。
『まあ、うちの高校なら受験生なのにバイトしてる方が変わってるよな。』
『まあ、ちょっとね。私は要領良くないから、勉強に専念しようと思って‥』
『うん。それがいいと思う。お疲れ。』
するとヒラマサは、持っていた袋を差し出してきた。
『‥ん?なにこれ?』
『そこの駅前のプリン。美味しいから食べよう。』
『え!!ありがとうッ!‥‥食べよう?』
『そこの公園で食べよう』
『あ、ヒラマサも食べるんだ』
『え‥悪いか?』
『悪くない悪くない!食べよ!』
駅前にある近くの公園のベンチまでやってきた。
ヒラマサが袋から取り出したのは、焼きプリン2つ。
一緒にスプーンを取り出して渡してくれた。
『バイトお疲れ様プリンだな』
『ありがとう、そんなの初めて聞いたけど』
『初めて言ったからな』
『わざわざ買ってきてくれたの?』
『いつも通りパン屋に行こうと思ったら、佑々木が花束もらってるのみて、パン屋のおじさんも泣いてるし、今日で辞めるのかと思って。何かあげるもんないかと思って駅前のケーキ屋まで急いでプリンを買ってきた。』
『え、ありがとう!嬉しい!』
『んで、プリン見てると俺も食べたくなって自分のも買っちゃった。』
『ヒラマサ、甘党だもんね』
『うん。息抜き大事だから。』
『そうだね、大事だね〜。』
二人でプリンを食べ始める。
『うーん。甘くて濃厚だね、カラメルがほろ苦くて美味。久しぶりに美味しいプリン食べたよ!』
『そりゃよかった。俺はいつも食べてるやつだけど、おすすめだ。』
『ヒラマサ、色んなとこで甘いもの買ってるね。』
『甘いものしか買ってない。』
『確かにあんまり遊んでるイメージもないかも』
『そんなことないぞ。雄大とは数ヶ月に一度カラオケとか行く。寺倉とはよく塾や予備校帰りにパンケーキ食べたりとか‥』
『寺倉とも仲良しだね』
『うん。同じクラスにもなったしな。』
『柳田がヤキモチ妬くんじゃない?』
『何言ってんだよ。雄大とも遊んでるよ。』
『でもクラス離れてさみしがってるでしょ?』
『そうでもないよ。あいつ友達多いし。』
『あー性格も明るい系だもんね』
『うん』
黙々とプリンを食べる二人。
『そういえば、ヒラマサって将来の夢とかあるの?』
『ゴホッゴホッッ!!』
『え、なに!?大丈夫!?』
『いや急に‥佑々木が変なこと言うから』
『ええ!?変じゃないでしょ。みんな夢に向かって進学目指してるでしょ?』
『そうだけど‥』
『ヒラマサいつも勉強頑張ってるし、大きな目標があるのかなって。』
『あー‥まあ、』
『何かあるの?』
『グイグイくるな』
『え、だめ?』
『ダメじゃないけど、‥‥‥笑うなよ。』
『人の夢を笑うわけないじゃない』
『‥わかった。俺も言うから佑々木も言えよ?』
『うん!言う言う!』
『‥誰にも言うなよ?』
『うん!』
『‥月に行く』
『‥???』
『‥宇宙飛行士になりたいんだ。』
『へー‥なんで?』
『おばあちゃんが天文学者なんだ。その影響で、昔から天体観測が好きでさ自然と宇宙とかに意識がいってて、いつか俺も月や火星に行きたいって思ったんだ。』
『すごい、さすが平井家優秀だね‥』
『そうかな。別に普通の家だよ。』
『普通ではないけど、かっこいいね。宇宙飛行士!友達が宇宙飛行士なんてみんなに自慢するしちゃう。宇宙なんて人生の中で考えてもみなかったよ。ロマンがあるね‥月か、私も行ってみたくなっちゃうな。』
『なら将来宇宙飛行士になって月に行ったら佑々木に月の石持って帰ってくるよ。』
『え!良いの?』
『うん、大きすぎるのは無理だけど、小さいやつなら。』
『ほんと?んじゃ絶対宇宙飛行士になってね!』
『‥子どもみたいな夢だろ?』
『そう?ヒラマサならなれるよ。だって賢いし優しいし友達思いでいつもみんなから慕われてる。ただ賢いだけじゃなれないだろうけど、ヒラマサは良い子だからきっとなれるよ。』
『‥根拠のないこと言うなよ』
『ご、ごめん』
『いや、良い。なんか頑張ろうって思えた。ありがとう、佑々木。』
『なら、よかった。どういたしまして。月の石忘れないでね?』
『はいはい。んで、佑々木は何になるの?』
『私は、‥薬学部に行きたいなって思ってるの。薬剤師になりたい。病院で働いてて、患者さんに寄り添って安心して薬を使ってもらえるようにしっかりと知識を身につけて、昔よくしてもらった薬剤師さんみたいになりたいの。』
『ふーん‥佑々木っぽいな。佑々木こそ、優しいしお節介で親切だから患者さんに信頼される薬剤師になれるよ。』
『ありがとう。私にとってはかなり高嶺の花だよ。勉強頑張らなくちゃ。』
『うん。お互い頑張ろうな』
『うん!しばらくはこうやって話す機会も少なくなるかもだけど、受験が終わったらまたたくさん話そうね』
『おう、そっちこそ忘れるなよ。』
『忘れないよ』
『んじゃお互い頑張ろう。』
『うん!』
ヒラマサが差し出してきた手を握る。
お互い握手をして笑い合った。
好きだと言える勇気はないけど、今はそれはお預けで、いつかヒラマサと笑い合えるように今はお互いにやるべきことを頑張ろうと思った。




