カレーライス
脱衣所でのお風呂時間から亜美たちはびっくりするほど静かになった。
前みたいに露骨に悪口を言われることはなくなり、私のことを無視したり冷たくあたったりしていた亜美の友達も普通に話してくれるようになった。
ただ真緒との距離が遠いのはそのままだった。
『なんか、昨日から一転して亜美たち静かになったよね。』
『流石にやばいなと思ったんじゃない?』
『今更だけどね〜』
『‥。』
黙り込む花を見て顔を見合わせてる千佳たち。
『まあまあ、花ちゃん。今日はパーっと遊びましょうよ!』
『そうそう!昨日のことは忘れましょ!』
『一応あの後に、先生に亜美たちのこと言ったら席離したり、お風呂の時間被らないように配慮してくれるって言ってたよ!』
『そうなんだ‥ありがとう!』
『おう!』
『だから今日は楽しみましょー!』
『そうだね!うん!』
一日中広島市内で遊びまくった。
家族にお土産も買えたし、満足だ。
『今晩は、飯盒炊爨でしょ?何作る?』
『えー‥カレーライスでしょ?』
『それが、グループ班割りじゃないんだって』
『え!?』
『え、そうなの!?』
『その場でくじ引きして男女3対3になるようになるらしいよ!』
『うそ‥』
『だ、大丈夫だよ!配慮してくれるって先生たち言ってたから!』
『う、うん‥』
そして、飯盒炊爨のグループ。
私、真緒、和紗、寺倉、西岡、ヒラマサ
というなんとも異様なグループになった。
真緒も私もくじ運なさ過ぎでしょ‥!!
てか、西岡もいるとか最悪‥。
西岡だけちょっと嬉しそうなのが腹立つ。
一番最初に口を開いたのはヒラマサだった
『んじゃとりあえず、カレーライス作るから、カレー係とコメ炊き係で分かれるか。』
『そうだね‥』
『俺は、米かな。』
『んじゃ僕も米!』
寺倉とヒラマサは米に立候補した。
西岡は、私の方をチラッと見ながら
『俺は、カレーかな。佑々木と大石って料理得意だろ!一緒にカレーつくろうぜ!』
地獄を踏みにきた。
『で、でも、和紗はカレーじゃなくていいの?』
『私はなんでもいいよ。どっちかというと火おこしがしたいから米かな。』
『あー‥』
『んじゃそれでいいな!各自頑張ろうぜ!』
やたら張り切ってる西岡。
一言も喋らない真緒。
いまいち何を考えてるのかわからない和紗。
ヒラマサは心配そうな顔で私たちを見ているが、そのまま寺倉に連れられて米を取りに行ってしまった。
『んじゃ野菜の皮剥きからしよっかな‥西岡は火おこしして、火ができたら鍋で肉焼き始めて。』
『分かった!』
西岡は張り切って火おこしし始めた。
真緒と二人で野菜を切っているが沈黙。
『‥』『‥』
『あ、真緒。玉ねぎは私するよ。目痛くなっちゃうでしょ。』
『‥別に。それくらいできる。』
『あ、ごめん‥』
あ!今のお母さんっぽかったかな。こういうのも過保護すぎてうざいと思われてるかも!!
ど、どうしよう。心臓バクバクだ。
『あー二人とも!玉ねぎはみじん切りにして飴色になるまで炒めるか、普通に短冊切りかどうする?飴色にするなら肉の前に焼いたほうが良くないか!?』
『えっ、あー。どうする?真緒』
『んじゃ飴色で』
『了解した!てか、なんか二人とも元気なくないか?大丈夫か?修学旅行疲れか?』
『そんなことないわよ』
『そうだよ、そんなことないって!』
『てか、火起こせたの?ほら!きったんだからはやく炒めて!』
『えええ!?ちょっと人使い荒いな〜』
真緒は、西岡のまえにみじん切り玉ねぎを持って行って二人で炒め始めた。
『アチっ!』
『真緒!大丈夫!?』
真緒が鉄鍋の横に手が当たったみたいで眉間に皺を寄せて手を離した。
とっさに飛び出て、そのまま真緒の手を掴んで水で冷やした。
『ちょ、ちょっと‥』
『だめだよ!ちゃんと冷やさなきゃ!跡になったらどうするの!綺麗な白い手に火傷なんて絶対だめだからね!』
『‥ありがとう。』
『‥はっ!』
『ん?』
『ごめん、ごめん!』
急いで真緒の手を離した。
『何で謝るの?』
『‥え?』
『謝る必要ないって言ってるの。』
『あ‥そうなら良いんだけど‥ちゃ、ちゃんと冷やしとくんだよ?10分くらい冷やしといてね!』
『はいはい。』
『相変わらず、佑々木は赤石のお母さんみたいだな。』
『『西岡うるさい』』
『はい。すみませんでした。』
こうしてる間にカレーは少しずつ完成していった。
米係のヒラマサが声をかけてきた。
『佑々木、カレー順調?』
『あ、うん。西岡が見てくれてるよ。あとはもう少し煮込むだけかな。市販のルー使ってるし絶対美味しいよ。』
『それは間違いないな』
『米は順調?』
『ああ、寺倉と木村が薪を触ったり空気送ったりして二人で熱心に火触ってるから何もすることなくて来た。』
『あ、そうなんだ。こっちもすることないな‥』
話してると、真緒がこちらをみて声をかけてきた。
『二人とも、手空いてるならお皿とスプーン取ってきてよ。全員分。』
『わかった。』
『え、ヒラマサひとりでいけるでしょ?』
『お皿は陶器だよ。割っちゃったら大変だから、花も行ってきて!私は手を火傷しちゃったからもう動けないの!』
『‥なら仕方ないか。』
渋々、ヒラマサと二人でお皿とスプーンを取りに行った。
残されたのは、西岡と真緒。
『赤石ってあーゆうのするんだ。』
『何が?』
『怖い顔すんなよ‥』
『別に、鈍感な二人に教えてあげてるの!』
『でも、赤石もヒラマサ好きだったんだろ?』
『うん。好きだった。もう過去形。だから良いの。』
『ふーん。』
『そんなことより!カレー焦げ付かないようにちゃんとかき混ぜなさいよ!』
『なんだよ!急に怒るなよ!分かってるって!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『佑々木、良かったな。』
『え?』
『正直、同じグループになった時めちゃくちゃ焦ったけど、赤石と意外と話せてるじゃん。』
『あ、うん。そうなの‥大きな一歩だよね!
ただまだしっかり話話せてないからこれが済んだら話がしたい事伝えたいと思ってるの』
『うん。それが、良いんじゃない?』
『ヒラマサもありがとう。気を遣ってくれて』
『いや、俺は別に何もしてないよ』
『昨日ね、ヒラマサ。私のこと友達って言ってくれたでしょ?』
『ん?、うん』
『それが嬉しかったの』
『‥そうか』
『今回の件で、最初一人ぼっちになった時にめちゃくちゃ焦ってさこのまま、友達ゼロのまま一人で卒業する羽目になるのかと思って、すごく怖かったんだよね。けど、千佳と和紗と綾羽が声をかけてくれて。ヒラマサもお祭り一緒に行ったり、声かけたりしてくれて、私のことを気にかけてくれるひとがいるんだって知れて嬉しかったの。』
『うん』
『みんながいるからこうやって、学校来れたの。みんながいなかったらもう修学旅行も来れてなかったかもしれない。仲直りのチャンスもできなかったかもしれない。みんなのおかげだなって思うの。本当に感謝してるんだ!ありがとう!』
『そこまでストレートに言われるとちょっと恥ずかしいな‥』
『え、ごめん』
『いや、別に良いんだよ。佑々木が元気そうでよかった。』
『ヒラマサ‥ありがとう!』
『あんまり言われると照れ‥』
ゴンっ!!
次の瞬間、目の前にいたヒラマサの頭にすごい勢いで空からサッカーボールが降ってきて直撃してしまった。
『ヒッ!ヒラマサ!大丈夫!?』
そのまま地面に倒れ込むヒラマサ。
駆け寄る花
『あーごめんごめん!って、ヒラマサじゃん!まじごめーーん!!』
遠くから走ってきたのは、柳田だった。
『お前‥まじでなにやってんだよ‥』
『いやいやまじごめん。わざとじゃないんだよ!』
『わざとだったら殴ってるぞ』
『そんなこと言うなよ〜、あ、佑々木ちゃんもいたの!?え!ごめんね!
もしかして、二人で抜け出してたの!?良い雰囲気だったらごめん!ヒラマサ!』
『そんなんじゃないよ!』
私の抵抗を無視して、ニヤニヤしながらヒラマサに近づく柳田。
すると‥
『‥柳田。歯食いしばれ?』
ゆらりと立ち上がったヒラマサは近づいてきた柳田の胸ぐらを掴んで鬼の形相で睨みつけている。
『ご、ごめんて!』
『ヒラマサも落ち着いて!』
『‥分かった。』
案外すんなり柳田の胸を離したヒラマサ
『わりぃわりぃ、ほんと申し訳ない!佑々木もごめんな!ありがとう!』
『もー、気をつけてよね!大怪我するところだったんだよ!』
『そうだよ。佑々木に当たったら即死だぞ』
『そこまで貧弱じゃないけど』
『ごめん!気をつける!んじゃな!』
そのままボールを持って走り去っていく柳田
『大丈夫?頭』
『うん。なんともない。ちょっとたんこぶできた』
『えー!引率の看護師さんことこ行って冷やしてもらおう!』
『別に‥そんな大丈夫だよ。』
『だめだよ!頭打ってるんだから!早く!』
柳田の手を握って、先生たちの方へ走る。
『ちょっと、佑々木』
『だめだよ!頭になにかあったら大変なんだから!』
『いや‥』
この時、私はヒラマサの顔を一度も見ていなかったけれど。
色白の肌が耳まで真っ赤になっていたことは誰も知らない。引率の看護師さんだけが微笑ましそうにそれを見ていた。
『なんともなさそうね。たんこぶが出てたら大丈夫そうよ。けど、一応頭を強くぶつけてるから、今から48時間以内に吐き気や嘔吐、めまいや気分不良の症状がある場合はすぐに言ってね。病院に行って検査してもらいましょう。』
『はい‥』
『良かったね。ヒラマサ!』
『おう』
『私たちもその都度様子を見にいくから。でも良かったわね。彼女さんがそばににいてくれて、教えてくれて。一人でそのまま無視してたらダメよ。』
『あー‥彼女じゃありません』
『そうですよ!私たちは友達です!』
胸を張って笑顔ではっきり答えると、ヒラマサと看護師さんが微妙な顔をしていた。
『あら、そうだったの?ごめんなさいね』
『いえーでも、仲良しの友人の一人なので!助けて当然です!』
『そう‥』
『‥。』
看護師さんは、そう言いながら横目でヒラマサのことをチラチラと見ていた。
ヒラマサは気まずそうに視線を逸らしている。
『え、何か変なこと言いました?』
『ううん!全然よ!青いなーと思っただけ!
ほら!お皿取りに来たんでしょ?あそこに先生たちがいるからもらっておいで!』
『あ!そうだ!』
『あ、忘れてた。行こうか、佑々木』
『うん!急ごう!』
そのまま二人でお皿配布コーナーまで走った。




