オムライス
13日のバイト中、昼前のこと。
自習室の片付けや清掃作業をしていたところ。
『ぎゃああああああ!!!!』
『な、なんの音ですか!?』
2階の自習室には、ヒラマサ含む学生さんが何人かいるだけの静かな店内に叫び声が響き渡った。
急いで階段を降りて厨房に向かうと、そこに店長が倒れていた。
『店長!大丈夫ですか!?』
『やばい、無理!死んだ!。』
『なにが!?』
『大丈夫ですよ。意識もあるし、喋れてる。』
横から冷静なヒラマサが突っ込んでくる。
階段を駆け降りる私の後ろを突いてきたらしい。
なんという野次馬根性。
『動けますか?立てますか?』
『立てない‥腰がやられた。』
『腰?誰かにやれれた?』
『ちがう‥今、その小麦粉の袋を持ち上げようとしたら‥腰が‥』
『えええ!?』
『ぎっくり腰ね。店長さん。自宅まで帰れそうですか?』
ヒラマサもしゃがんで店長さんに声をかける。
『ううう‥佑々木さんみたいな小さな女の子の肩を借りるわけにはいかないよ‥』
『‥俺がいますよ。』
『さすが、いちごみるくんだね!じゃあお姫様抱っこしてもらおうかなー?』
『別に良いですけど‥いちごみるくん?』
嫌そうな顔をしながらもヒラマサは、店長さんの肩を自分の方に預けてもらいなんとか隣にある店長宅へ運んで行った。
そこには、店長の美人な奥さんとまだ小さいお子さんたちがいた。
『あらあら、ごめんなさいね!ご迷惑おかけして‥私がいない間に‥』
『いえ‥』
『奥様。今日の営業はどうしましょうか‥店長も奥様も不在となると、』
『そうね、今日はもうお店を閉じるわ。ごめんね。佑々木さん。今日働いてもらう予定だった分のお給料はちゃんと振り込むから、閉店作業が終わったら上がっていいわよ。』
『わかりました。ありがとうございます。』
『んじゃ、俺も帰るか‥』
『君もありがとうね。またきてくれた時にお礼としてサービスするから。』
『やった。ありがとうございます。』
店を片付けて、数人ほどのお客様に事情を説明し、ドリンクとパンのセット無料券を渡して、帰っていただいた。
掃除をする。
『ちょっと、いつまでいるの』
『帰るよ。でもどこで勉強しよっかなー』
『予備校があるでしょう』
『今日は休みだし』
『図書館とかは?』
『昼飯食える場所がいいな。どこかいい場所知らないの?』
『ええ‥うーーん。駅からちょっと歩くけど、オムライスが美味しいカフェがあったはず。このパン屋さんのパンを下ろしてるんだけど、同じ商店街の系列だから学生向けの自習スペースも解放してた気がする。』
『お、いいじゃんそこにしよ。』
そんなことを話してるとニコニコしながら店長の奥さんが声をかけてきた。
『あらあら、仲良しね。今日手伝ってもらったお礼よ。これで2人でオムライスでも食べていらっしゃい。あそのオムライスは絶品よ!自習スペースもあったし、佑々木ちゃんも試験前ギリギリなのにシフト入ってくれてたでしょ。ちょうどいいわ。勉強しておいで。』
『え、ああ‥』
『ごちそうさまです』
『いいえー!残りの片付けは私がしとくから!楽しんできて!』
そのまま奥様に追い出される形で2人でパン屋を出た。
『いただいたお金を無下にするわけには行かないからな。ほら、早く食べに行くぞ。』
『ええ‥』
『ついでに勉強もみっちり教えてやる』
『それはありがたいかも‥』
カフェに着くと、2人でランチセットのオムライスを注文して食べた。
『やばい、美味しすぎる!このデミグラスソースやばい!』
『この明太子クリームも美味しいな』
とろとろ卵に濃厚なデミグラスソースと明太子クリームは絶品だった。
働いた後の体に染み渡る。
『さて、勉強するか。』
『そうだね‥正直お腹いっぱいだし眠いし帰りたいけど‥』
『黙ってやれ。』
『はい。』
その後、ヒラマサにちょこちょこ教えてもらいながら夕方まで自習スペースで勉強させてもらった。
『ごちそうさまでした』
『あいよー、またおいでね!』
店員さんも気さくで優しい人だった。
必ずまた来ます!次は真緒と来よう。
あの子は、明太子クリームとかが好きそうだ。
『美味しかったね!』
『うん。美味しかった。あれはリピだな。』
『だねー!勉強もできたし、一時はどうなるかと思ったけど、良い一日になったー!』
『そりゃよかった。次のテストは100点だな』
『そ、それはどうだろ‥』
『自信持てよ』
『どこからくるのよその自信。』
『たかが学校の試験ぐらい100点取れなきゃダメだろって言ってんの。』
『そりゃ全国模試と比べたら‥模試』
『ん?』
『夏休み中に模試あるって言うてた』
『そりゃあるだろ』
『志望校選ばなきゃ〜』
『まだ決めてないのか?』
『大体決めてる‥』
『どこ受けんの?』
『内緒』
『なんだそれ』
『ヒラマサはどこ受けるの?やっぱり帝都大学?』
『一応』
『半分冗談だったんだけど‥流石だね』
『冗談で聞くな。』
『はい、すみません‥あ、そうだ。勉強教えるのが上手なヒラマサ様にお願いが‥』
『何?』
『勉強会とか開いたりしない?真緒と柳田も呼んでさ‥』
『あーそういうの俺嫌いなんだよね』
『え?なんで!?』
『結局しゃべってばっかで勉強しないオチがほとんどじゃない?特に佑々木と一緒にいる赤石さんってよく喋るし。』
『あー‥』
『勉強しない勉強会とか無意味。なんでパス。』
『わ、わかりました‥』
真緒のために繋げられたらと思ったけど、ここまではっきり断られると何も言えない。
そして、体育大会で言われた言葉を思い出す。
ヒラマサは真緒をよく思ってなさそう‥。
『とりあえず。期末試験は点数勝負な俺より低かったら苺ミルク』
『‥あー、はいはい、‥って、まだそんなこと言ってんの!?』
『はい。決まり。死ぬ気で挑め。いいな?』
『なっ!』
『んじゃ、俺こっちだし、おつかれー』
そのまま手をひらひら振りながら去っていった。
あのメガネやろう‥こっちが下手に出れば出るほど偉そうにむかつく。
けど、今日食べたオムライス美味しかったな‥。
次は真緒と一緒に行こうっと‥




