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第九話 銀の舌

数分後、ヴィルヘルムの助力もあり配膳は完了していた。


「お前たちの働きは素晴らしかったぞ!」


「いえいえ、殿下の助力があったからこそですよ。」


配膳をしていた者たちとヴィルヘルムは互いを称え合っていた。


「いやぁ、殿下の4皿同時運びには驚きましたよ!」


「そうか?練習すれば誰でもできるさ。」


褒められれば謙遜し、相手を褒める、そんな穏やかな空気が流れていた。


「本当ですか!?今度教えていただきたいです!」


「良いだろうそのうち教えてやろう。」


全てのものが笑顔で言葉を返し合う。


素晴らしい時間であった。


彼が現れるまでは。


「おや、準備が完了していたんだね。」


ルイとその護衛であった。


準備完了の報告を聞き扉から入ってきたのだ。


「少し遅れると聞いた時にはどうなるかと思ったよ。」


口調こそ穏やかだが、その中にはあからさまに嘲りがあった。


雰囲気がみるみるうちに悪くなっていく。


「なんだよこいつ、俺たちの苦労も知らないで……」


「しっ、聞かれたらヤバいぞ。」


不満のこもったひそひそ話が所々で聞こえる。


それに対してヴィルヘルムは毅然としていた。


「ルイ王子、ここには苦労をしたものが大勢いる。」


「そのような物言いは控えていただきたい。」


よく見れば彼は人々を守るように立っていた。


(おお、うちのバカと違ってここの王子は立派だなぁ)


ルイの護衛は内心感心していた。


「それは失礼。」


しかし、ルイの目から見下しの色は消えていなかった。


「ブレーセン人は想像以上に怠惰だったようだ。」


「……」


冷たい沈黙が場を覆った。


「おい!」


それを打ち破ったのは怒りの声だった。


その声の主は王宮の召使いの1人であった。


「さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって!」


「ブレーセンの誇りを見せてやる!」


(あーあ、このバカのせいで外交関係悪化するなこりゃ、早く王族から追放されねえかな。)


ルイの護衛は心底嫌そうな顔をしていた。


「召使いごときが僕に講釈を垂れるのかい?」


一方のルイは顎を上げ、見下していた。


「身の程知らずにも程があるね。」


「てめえ!」


その様子に召使いは今にも飛びかからんばかりの形相であった。


「待て。」


それを制したのはヴィルヘルムであった。


「退いてください殿下!」


「退かぬ!!少し頭を冷やせ!」


「で、殿下、しかし……!」


ピシャリと放たれた言葉に召使いは少しおとなしくなる。


「聞いてくれ、誇りを持つのは大切だ。」


「だが、ルイ王子を殴ってしまえばお前は処刑されてしまう。」


「どうか、怒りを鎮めてくれ。」


ヴィルヘルムの言葉には自己保身の響きはなかった。


あるのは部下たちへの慈しみと王族として義務感である。


「で、殿下、申し訳ございません。頭に血が上っておりました。」


主の心が通じたらしく、召使いの目には涙が溜まっていた。


「ルイ王子、私の部下が失礼した。」


次の瞬間にはヴィルヘルムはルイに向き直っていた。


「ただし、この場は友好を祝う。晩餐の場だ。」


彼の透明な目にルイの濁った瞳が映る。


「人を見下すのはやめていただきたい。」


ルイは不機嫌そうな顔で黙り込むばかりであった。


パチパチ――


どこからともなく小さな拍手が聞こえた。


パチパチパチパチ――


それを皮切りに拍手が大きさを、数を増していく。


鳴らしているのはヴィルヘルムの配下たちだ。


「流石はヴィルヘルム殿下だ!」


誰かが叫んだ。


「騒動を発生する前に制したぞ!」


「ヴィルヘルム殿下万歳!」


触発されたかのように人々が口々に叫ぶ。


「万歳!」


「あの方がおられる限りこの国は安泰だ!」


「……」


対してヴィルヘルムは照れくさそうに顔を赤くし黙っていた。


その後しばらく、拍手と叫び声だけが将来の王の活躍を称えるかのごとく場にこだまし続けた。


(これ程までに人心を掌握するとはヴィルヘルム殿は並の王族ではないようだ。)


ルイの護衛は内心分析していた。


◇◇


貴族たちも国王も席につき遂に晩餐会は始まりを迎えようとしていた。


「諸君、今日は素晴らしき日である。」


酒を持ち、壇上に上がったヴィルヘルムが語る。


貴族も来客も大部分の人間がその言葉に釘付けになった。


「長い間いがみ合い続けた隣国の王族が留学という形で我が国を来訪したのだ!」


客席のルイはどうでもいいと言いたげに目を逸らした。


「これは友好のための偉大な一歩である。」


父親である国王がゆっくりと頷く。


「では、これが恒久的な平和の始まりとなることを願って、乾杯!」


「乾杯!」


貴族たちが続く。


「これにて私の言葉は終わる、どうぞ食事を楽しんでくれ、以上だ。」


演説を締めくくったヴィルヘルムはゆっくりと自分の席へ戻る。


「よくやったな、ヴィルヘルムよ。」


国王が迎えた。


「何度やっても演説というのは難しいものですね。」


ヴィルヘルムが目を伏せる。


「まあまあ、粗を探すのは後にして食べようではないか。」


国王の言葉に従い、ヴィルヘルムは席についた。


目の前にはかぼちゃのスープ、高級品である塩を使って焼かれた肉などが並んでいた。


「それもそうですね、父上の言葉に従うことにします。」


早速ヴィルヘルムはスプーンを使い、スープを掬(すく)う。


(私はこのかぼちゃのスープが大好物なんだ。)


内心目を輝かせながらスプーンを口へ運ぶ。


それをじっと見ていたルイの口角が上がる。


(……おかしい、いつもより甘さが少ない?いや違う、苦みが少しだけ強いようだ。)


ヴィルヘルムは舌の上でスープを転がしながら違和感に気づいた。


(……ッ!まさかこれはゲミル毒が混入している!?)


ヴィルヘルムの全身から冷や汗が吹き出す。


「父上!それに全員!食事を食べてはならない!」


急に立ち上がり、大声で叫んだ。


「どうしたのだ?ヴィルヘルムよ。」


心底不思議そうに国王が尋ねる。


「料理には、料理には……!」


その頬を冷や汗が伝う。


「ゲミル毒が混ぜられている!」



実は有能なるヴィルヘルム王子!





読んでくださりありがとうございます。


次回は明日投稿予定です。


なお、次回以降一日一話19時10分投稿になります

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