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第八話 動き出す陰謀

――次の日


「用意しましたよルイ様。」


「よく用意してくれた。」


次の日の夕方、ルイと護衛は路地裏でヒソヒソと話していた。


暗がりで目立たないルイの手には小瓶が握られていた。


「苦労しましたよ、なにせ一般には流通していない毒ですから。」


ルイは無言で毒の瓶を眺めていた。


魔物の肝より採取されたゲミル毒。


それは古来より毒殺に用いられた伝統的な毒であった。


「今日の晩餐会、この毒を料理に仕込み、ヴィルヘルムを毒殺する。」


「どうやって毒仕込むんですか?」


護衛が尋ねる。


それこそが毒殺において最大の問題。


「安心しろ。」


ルイの顎は引きつり口角は上がっていた。


(うざいなぁ。)


護衛は内心腹が立っていた。


「料理人のうちフラレアス出身の者を1人買収してある。」


ルイの表情がどんどんウザさを増していく。


「うっひっひっ!完璧な計画だ!」


「で、どうやって料理人に渡すんです?」


その時、ルイの表情から笑顔が消えた。


「お前はいつもいつも人の機嫌のいい時に水を差しやがって!」


ルイは地団駄を踏んだ。


「もうしばらくしたらここに来てくれんだよ!」


(マズイな癇癪を起こしそうだ、少し宥めておくか。)


「流石はルイ様!天才的ですなー!」


護衛の言葉には感情がこもっていない。


「フッフッフッ、そうだろう、そうだろう。」


ルイの機嫌は一瞬にして良くなった。


(バカ王子は扱いやすくて助かる。)


そうしていると、何者かの足音が響いた。


「どうやら来たようだね、さっさと毒を渡して客室に戻ろう。」


影より姿を現したのは――


コック帽に調理服の料理人であった。


「約束の物を受け取りに参りました。」


「よく来てきてくれた。」


ルイの手には小瓶と何か別の物が握られていた。


彼の手から金の光が漏れた瞬間、料理人はニヤリと笑った。


「毒と、そしてひー、ふー、みー、よー、」


料理人は手に収まった輝く物を数えていた。


「金貨4枚、確かに受け取りました。」


「晩餐会ではよろしく頼むよ、成功報酬は金貨50だ。」


料理人もルイも計画の成功を確信していた。


(失敗してくれよ。こいつの子守も疲れたんだよ。)


護衛は計画の失敗を願っていた。


◇◇


一方、別の路地裏では……


「お!これはこれはナスターシャ嬢、いつもご贔屓にどうも。」


ナスターシャの鼻を名状しがたい刺激臭が襲う。


そこは裏ルートの毒物を扱う店であった。


「今日は水銀ですかい?それとも毒スライムの粘液ですかい?」


店主は知っている顔相手ということもあり、やたらとフレンドリーだった。


「いえ、今日は買いに来たのではなくて……」


(あの王子、おそらく何かを企んでいるのでしょう、弱さから逆算するに頼りそうなのは毒。)


ナスターシャはルイの陰謀に多少感づいていた。


「今日、ここに毒を買いに来た人がいたかどうか教えてほしいの。」


店主を腕を組み悩む素振りを見せた。


「うーん、うちも通報されたら終わりの商売なんでね……」


彼の頭は垂れ、目は細まり悩んでいた。


「人様の恨みを買うようなことはちょっとね〜。」


最後、彼は顔を上げナスターシャをまっすぐ見た。


「しょうがない!ナスターシャ嬢にだけサービスだ!」


ナスターシャの口角が上がる。


「助かるわ。」


店主がつらつらと話し始める。


「とは言っても今日は1人しか買いに来てなくてな。」


ナスターシャはうんうんと頷く。


「騎士風の男だったよ。」


「何の毒を買って行ったの?」


彼女は尋ねた。


「ゲミル毒だ、昔からある一定量を越えたら効果が出るタイプの毒だな。」


彼女は羊皮紙に「ゲミル毒」とメモした。


「でな、こう言っちゃアレなんだが、ゲミル毒は特効薬が開発されてるだろ?」


店主はおかしそうな口調になった。


「だから、暗殺に使うつもりならその毒はやめとけって言ったんだよ。そしたら――」


「主にはこれを頼まれたって言って立ち去って行ったんだよ。」


話し終えた店主はゆったりと息をついた。


「おれが話せるのはこんなもんだが役に立ったか?」


「十分だったわ、ありがとう。」


ナスターシャの表情には穏やかな感謝が浮かんでいた。


(毒を買ったのはあの王子の使いで間違いなさそうね。)


確信しながら、彼女は店を後にした。


◇◇


そして王宮ではヴィルヘルム主導のもと、晩餐会の準備が進んでいた。


しかし、その準備は予定よりやや遅れていた。


「遅れてもいいが毒物には最大限の注意を払え!」


「暗殺など発生すれば国の恥だ!」


慌ただしい宴会室の中、ヴィルヘルムの声がひどく鮮明に通った。


「殿下、近衛のアルブレヒト殿が見ませんが……いかがされたのですか?」


ある兵士が一息ついていたヴィルヘルムに尋ねた。


ヴィルヘルムの目尻がやや下がった。


「奴は私を守るために重傷を負ってな、今は病院だ。」


兵士は目を丸くした。


「では、せめて別の護衛くらい連れたほうが良いのでは?」


ヴィルヘルムの側には兵が1人もいなかった。


「だめだ、奴以外の私の護衛など考えられない。」


その語気には強い決意が宿っていた。


「そう……ですか。」


兵士はわずかに気圧されながら王子の前を後にした。


(さてと、見たところ……)


ヴィルヘルムは注意深く周囲を見た。


(どうやら配膳の人手が不足しているらしい。)


彼はその観察力で遅れている理由を突き止めた。


見れば、厨房と比較して配膳している人間が少なかった。


「私も手伝おう。」


次の瞬間には両手に料理を持っている男を捕まえていた。


「いえ、大丈夫です。殿下を働かせるなど恐れ多いです。」


「遠慮はいらん、大切なことはこの晩餐を成功させること――」


ヴィルヘルムは続ける。


「我々は立場を越えた同志ではないか。どうか力を貸させてくれ。」


「で、殿下ぁ!」


ヴィルヘルムの言葉に男は感激し涙を流していた。


「さあ、共に配膳を進めるぞ。」


「はい!」


人々は準備を進める、晩餐会の裏に蠢く陰謀に気付かずに。

読んでくださりありがとうございます。


次回の投稿は本日の夜18時10分です。

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