↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/37

第十話 破綻

「げ、ゲミル毒だと……?」


「大変なことでないか!」


ヴィルヘルムの言葉を聞いた貴族たちは騒然としていた。


「ど、毒って……」


「おれ、5口も食べちまったぞ。」


「や、やだ!死にたくない!」


やがてそれは客人を含めた会場中に及んだ。


恐怖が混乱を呼び、混乱がパニックを発生させつつあった。


一方、ルイのみ平然としていた。


いや、むしろ口を覆い、笑いをこらえているようであった。


(ルイ王子、あの高慢な性格ならば慌てそうなものだが……)


ヴィルヘルムの目は静かにルイを映していた。


(まさか、犯人は!……いや、それは早計か。)


彼は自身の中の焦りを誤魔化しながら思考を重ねていた。


次にその目が映したのはパニックに陥りつつある人々であった。


「ひぃ!神様助けてくれ!」


「そうだ聖女様だ!アナスタシア様に頼めば助けてくれるのでは!」


「皆で頼み込めばもしかしたら!」


人々が出口を目指して慌てて駆け始めたその時であった。


「我が民たちよ!」


「ち、父上!」


声を発したのは国王であった。


彼は国王たる威厳を込め続ける。


「お主らだけ助かろうとするな!国王たるわしが優先じゃ!」


……続けて出てきたのはプライドなど微塵も感じない保身の言葉だった。


「父上……」


ヴィルヘルムの目線がみるみるうちに曇り、冷たくなってゆく。


「どけ!貴族ども!」


国王は貴族を押しのけ、招かれていた民衆も押しのけ1人だけ助かろうとする。


「父上ぇぇ……」


そのあまりの情けなさにヴィルヘルムは憐れみすら感じていた。


(父上があのざまな今、私が収めるしかないようだ。)


(何か策はないか、何か。)


しばらく考えたところでヴィルヘルムはハッとした。


(ゲミル毒には特効薬があったはず、そして倉庫にはその備蓄があったはず!)


古来より使われてきた毒薬、備えは行われていたのだ。


(それに毒性を発揮するには一定量摂取しなければならない!)


「落ち着きたまえ!諸君!」


ヴィルヘルムの鼓動は早いままであった。


しかし、自身が鎮めなければならないという義務感が彼の背を押していた。


彼の言葉に扉へ詰めかけていた人々が振り返った。


「忘れたか!ゲミル毒には特効薬がある!」


その強い、確信を込めた言葉が人々の心へ入ってゆく。


「慌てずとも死ぬことはない!」


ヴィルヘルムは言い切った。


「特効薬がある?」


「し、しかし足りなかったらどうなるんだ?」


特効薬という言葉の力は凄まじく一定の収束を見せた。


しかし、次に人々が不安視したのは薬の量の問題であった。


「案ずるな!」


不安すら溶かす言葉であった。


「城には備蓄がある!」


「それに料理一口二口程度で死ぬほど強い毒ではない!」


これには人々も安堵の表情を見せる。


「そ、そうか」


「なら大丈夫なの……か?」


事態は急速な収拾を見せ始めた。


「今この場にいる兵士に通達する!」


「城の貯蔵庫よりゲミル毒の特効薬を持って来たまえ!」


「承知いたしました!」


ヴィルヘルムの命を受け、兵士たちが一斉に動き始める。


「約束しよう、私は諸君らの命を1つとして取りこぼさない!」


彼のこの言葉に再び拍手が響いていた。


「チッ……」


一方のルイは貧乏ゆすりをしていた。


◇◇


――十数分後


王子の言葉と薬の配布により場は鎮静化していた。


「次に考えるべきは毒を混ぜたのが誰がということだ。」


ヴィルヘルムの言葉にその場にいた召使いたちが証言を始める。


「……」


それを見たルイの目が泳ぎ始める。


「私の見た範囲では毒は混ぜられていませんでした。」


「配膳の段階で全ての料理に毒を混ぜるのは不可能です。」


「なるほど……」


召使いたちの言葉にヴィルヘルムは頷いた。


「ぼ、僕は関係ないから部屋に戻らせてもらう!」


汗をだらだらと流したルイがそれを遮るように立ち上がった。


「料理を食べに来たのにこんな事件が起こって散々だ!」


彼は慌てて扉へと駆けていく。


しかし――


「開かない!なんでだ!」


扉には鍵がかかっていた。


「この室内に犯人がいる可能性がある。」


ヴィルヘルムが振り返る。


「故に、誰も外へ出られないようにさせてもらった。」


ルイの背中を冷たいものが這い登る。


「ご理解のほどを、ルイ王子。」


(計画は破綻した。このバカも終わりだな。)


(おれはブレーセンに鞍替えの準備でもしておくか。)


護衛は裏切る気であった。




……そして、その様子を天井裏から一匹のコウモリが観察していた。


ナスターシャの眷属である。


「犯人は間違いなくあのルイ王子ですわ!」


コウモリの視界を壁に投影して見物しながらナスターシャは叫んだ。


「頑張れー!ヴィルヘルムぅ!」


その膝の間にはポップコーンの皿が置かれ、片手には紅茶のカップを握っていた。


……その様子はまるで映画でも見ているかのようであった。


「私も配膳を手伝っていた。おそらく配膳中に毒は入れられていない。」


映像中のヴィルヘルムが推理を続ける。


「毒が入れられたのは調理中だ。」


「厨房にいた者たちをここに連れてきてくれ!」


見事な推理にナスターシャの目が輝く。


「そう!毒を入れたのは買収された料理人ですわ!」


「陰謀を全部暴いちゃえー!」


遂には立ち上がりヴィルヘルムの肖像画のついた扇を振り始める。


「ヴィルヘルムー、天才!無敵!私の王子様ぁぁ!」


(……ナスターシャ様、今日も激しいな。)


その横でルドルフは静かに引いていた。


(というか、ナスターシャ様がポップコーンと呼んだあの食べ物、初めて見たな。)


「大好き!私と結婚してぇ!ヴィルヘルムぅ!」


この後ナスターシャの滞在している建物の周囲はその応援の声が深夜までこだまし続けたという。


「お嬢様もうやめてください!寝られません!」


「ちょっと待って!今良いところだから!」


「それも何回目ですか!」


ドガァァン――


ルドルフが視界投影の機械を粉砕した。


「ああああああ!私の一番の楽しみがぁぁぁぁ!」


そして近所には平穏が訪れた。

読んでいただきありがとうございました。


次回は本日昼投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。