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第三十五話 突破される防御

ナスターシャは順調にヴィルヘルムの私室へと進撃していた。


「止まれ!ナスターシャ!」


私室へと続く廊下の入り口。


数名の兵士がその進撃を止めんと、立ちふさがった。


「あら、どいてくださる?」


「私は今日こそヴィルヘルムに婚約を申し込まなければならないの。」


穏やかに、


しかしどこか恐ろしい笑みをたたえ、


ナスターシャは言い放った。


「どかぬ!侵入者は通すなとの命令だ!」


「者どもかかれ!」


兵たちが一斉に駆け出す。


「手荒なことはしたくなかったのですが⋯⋯」


「仕方がありません。」


「ふぅー」


ナスターシャは兵たちに向けて息を吹きかけた。


「何をしてくるかと思えば!」


「息を吹きかけるだけなど、攻撃でも何でもないわ!」


兵たちはどんどん向かってくる。


本来であれば攻撃にはなり得ない、その行動。


しかし、ナスターシャは尋常な存在ではなかった。


ドゥオオオン!――


「う、うわぁぁぁぁ!」


「な、なんだこりゃぁぁぁ!」


吹きかけられた息が地面に当たった瞬間、


それは凄まじい爆風を巻き起こし、


兵たちを吹き飛ばした。


「さて、ヴィルヘルムのところに行かなければ。」


気絶した兵士をチラッと見たあと、すぐに廊下の方へ向き直り、


歩き始めた。


愛する王子に再婚約を申し込むために⋯⋯


「おや?」


その直後、廊下に足を踏み入れた瞬間、


周囲の様相は一変した。


どう見ても罠にしか見えない宝箱。


引っかかったらマズそうなレーザートラップ。


そして、


「⋯⋯」


「⋯⋯」


なぜか徘徊している鎧を纏った魔物たち。


誰の目にもあきらかな罠の密集地だった。


「わああああああ!」


それらに気づいた時、


ナスターシャの目はキラキラと輝いた。


「うれしいですわ!ヴィルヘルム!」


「私を歓迎してこんな楽しそうなアトラクションを用意してくれるなんて!」


ヴィルヘルムの最大の誤算。


それは彼女の頭にかかれば、


罠に対する理解がこうなるということであった。


「まずは、」


「あの宝箱、開けちゃいますわ!」


遊園地に来た子どものように、


彼女は宝箱へ近づいた。


「えい!」


宝箱を開ける。


当然罠。


宝箱の内にはびっしりと牙が並んでおり、


ナスターシャの手を噛みちぎらんとする。


しかし、


「あっ、ちょうどいい。」


「すごくいい感じの手のマッサージ機ですわ!」


なんと彼女はミミック型の罠をマッサージ機だと思い込んでしまった。


彼女の頭は一体どうなっているのであろうか。


「んー、おかげで腕が軽くなったわ。」


「次はどのアトラクションに行きましょうか?」


ナスターシャの目の輝きは消えることなく、


いい機会だから楽しんでやろうと、


駆け出すのであった。


◇◇


「⋯⋯」


「宝箱、効いてませんね。」


一方、私室のヴィルヘルムと学者は、


呆然としていた。


当然である。


「な、なあ。」


「あの宝箱の歯はどんなものでも噛み砕けるんだったよな?」


「はい。」


「なら、なぜマッサージレベルで済んでいるんだ?」


「わかりません。」


「⋯⋯」


「⋯⋯」


微妙な間が2人の周囲を支配した。


「大丈夫なんだよな?」


「この防御は難攻不落なんだよな?」


不安に駆られたか、


ヴィルヘルムは何度も学者に問う。


「もちろんでございます!」


「もうしばらく経てば、彼女もこの機構の恐ろしさを味わうでしょう。」


「本当だな?」


「本当でございます。」


学者は必死に答える。


「そうか、そうだよな。」


「絶対にナスターシャは突破できない、」


「きっとそうだ。」


自分自身に言い聞かせるように、


ヴィルヘルムは何度も連呼し続けるのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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