第三十四話 逃走再び
「いやーいつもご贔屓にありがとうございます、殿下。」
「なに、国の技術発展のために投資をするのは当然のことだ。」
数日後、
ヴィルヘルムは城に魔法の学者を呼んでいた。
華やかな会議室にて2人は密に話していた。
「今回はどの程度支援してくださるので?」
白髪がいくつが混じっている学者はうやうやしく問うた。
「前回から1割ほど増やす許可をすでに父上にいただいている。」
「おおっ!」
ヴィルヘルムの言葉に学者は歓喜の声を上げた。
「それはすごい!」
「これで、さらなる研究を進めることができます。」
「ありがとうございます。」
彼は心底うれしそうに頭を下げた。
「で、だ。」
「今日はもう1つ話したいことがある。」
「なんでございましょう?」
「新設した私の部屋の魔法防衛機構についてだ。」
ヴィルヘルムの私室はこの数ヶ月で大きく改造されていた。
ナスターシャの襲来や刺客の侵入など、
様々な問題が連続した点を考慮した、
身の安全を守るための策である。
「設置の進行度はどのくらいだろうか?」
それを彼は目の前の学者に一任していた。
「そのことでございましたか。」
学者は誇らしげに背筋を正した。
「現在おおむね完成しております。」
「最後の仕上げが残っておりますが……」
「防衛装置としては問題なく機能いたします。」
いかにも自信ありげな語気であった。
「そうか、なら良い。」
ヴィルヘルムは満足そうに微笑んだ。
「しかし大変な工事になりました。」
「自動反応魔力砲三門、飢えた魔物入りの檻、」
「さらには殿下に害意を持つものを弾く360度結界。」
仰々しい文言が次々と並べ立てられる。
「その他数え切れぬほどの侵入者発見時のみ作動する罠。」
「聞けば聞くほど圧倒的だな。」
ヴィルヘルムもどこかうれしそうであった。
「このわたくし個人としましても最高傑作です。」
「これを破れるものはこの世界には存在しません。」
確信を込めた物言いであった。
「それは素晴らしいな。」
最初にヴィルヘルムの頭に浮かんだのは、
ナスターシャの姿であった。
かつて自分の部屋までやってきて追い詰めた恐るべき相手。
(これで……)
しかし、そのナスターシャでもこの防衛機構は突破できない。
(これからは安心して夜眠れる。)
その心にあるのは素晴らしい喜びであった。
「長居をしてしまいました。」
学者の言葉にヴィルヘルムは我に返る。
「そろそろ失礼させていただきます。」
「ああ、気をつけてな。」
学者が席を立とうとしたその時であった。
「殿下ぁぁぁぁ!」
兵士の1人が大慌てで会議室に駆け込んできた。
「どうした?」
「緊急事態でございます!」
「ナスターシャが城の敷地に侵入しました!」
「なんだと!」
考え得る中でも最悪のケースであった。
しかし、
「そうか。」
今のヴィルヘルムはうろたえない。
「では、私室で迎え撃つとしよう。」
「で、殿下?」
異様に落ち着いた態度に兵士も目を丸くしていた。
「お前も、」
「わたくしですか?」
学者が振り向く。
「帰ろうとしていたところ申し訳ないが、」
「観戦してくれ、部屋の防衛機構がナスターシャを撃退する瞬間を。」
「しょ、承知しました。」
学者は口ぶりとは裏腹に明るい表情で立ち止まった。
侵入者により物々しい雰囲気に包まれていく城内、
しかし、ヴィルヘルムと学者だけ余裕を残していた。
「ナスターシャ、お前に教えてやる。」
「もうお前に怯える私ではないということを!」
2人は私室へと歩いていく。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
9月20日追記:学校の方の諸々で忙しくなってしまいましたので、大変勝手ながら次回の投稿は一日お休みさせていただきます。




