第三十三話 勇者の力量
「アナスタシアー!」
「遊びに来ましたわよ!」
あれから数ヶ月後、
ナスターシャはアナスタシアの私室に頻繁に出入りするようになっていた。
「よく来ましたね。」
「今日はこれを見せたくて呼んだんですよ。」
私室の壁には映像が投影されていた。
それは燃え盛る火山の中を複数の若者が歩いている姿だった。
「エリアス様、そろそろ休憩すべきでは?」
魔法使い風の風貌をした男が汗を拭いながら言った。
「いや、ダメだ。」
エリアスと呼ばれた金髪の高潔そうな青年ははっきりと断った。
「なんでですか?」
却下された男はバツが悪そうに口を尖らせた。
「オレたち勇者パーティーが何のために存在しているのか考えろ。」
「一刻も早く世界に平和を取り戻さなければならない。」
「それに……」
彼は警戒するように周囲を見回した。
「ここは炎の四天王の拠点だ。」
「ここで休めば不意打ちされる可能性もある。」
彼が言い切った直後、拍手の音が聞こえてきた。
「流石は我らが勇者。」
「聡明であられる。」
賢者風の老齢の男がエリアスを称えていた。
と、そこまでで映像が止まった。
「きゃあああああ!勇者様、素敵です!」
その直後に耳をつんざくような黄色い声が私室に響いた。
アナスタシアの声である。
「あれが、勇者様?」
一方のナスターシャは日頃の騒ぐ姿が嘘のように落ち着いていた。
「はい、そうです!」
アナスタシアのテンションは高い。
「あの金髪の方こそが私の好きな、」
「勇者エリアス様なんです!」
「ああ、なんて使命感に満ちた振る舞いなんでしょう!」
彼女は完全に別の世界に入りつつあった。
「……」
あのナスターシャもこれには圧倒されるばかりであった。
「それで、どうして私にわざわざこれを?」
「それはですね!」
ナスターシャが問えば勢いを維持したまま語り始めた。
「勇者様が四天王を倒すところを一緒に見てほしくてですね!」
「なるほど、そういうことね!」
理解したナスターシャはすぐに笑顔になった。
「ならまかせてちょうだい!」
「友だちの想い人を全力で応援しますわ!」
しかもひどくノリノリな調子である。
「ありがとうございます。」
「ナスターシャ。」
アナスタシアの顔からは嬉しさが溢れ出ていた。
「では早速、続きスタート!」
◇◇
映像の時間は先ほどよりもかなり進んでいた。
「ようこそ、勇者よ。我が居城へ。」
エリアスの目の前には燃え盛る巨体が玉座に座っていた。
余裕たっぷりの表情、漂ってくる大物感。
「我が名は悠久なる獄炎の覇者、アンドレアス。」
「ここが貴様の墓場だ。」
空気感が変わった。
アンドレアスが拳を振り上げる。
「死ね!魔王様のために!」
先ほどの余裕はどこへやら、
隙を付くかのような速度で攻撃をしかけた。
エリアスに向かって。
ドォォォン――
地面が陥没し、大きな音が響いた。
「いやあああああ勇者様!」
観戦していたアナスタシアが悲鳴を上げる。
「いきなり攻撃なんて、小物だな、」
「アンドレアス。」
エリアスの声が聞こえてきた。
「な、何!」
彼はアンドレアスの腕に乗っていた。
「流石勇者様です!」
先ほどの悲鳴はどこへやら、
アナスタシアは完全に元気を取り戻していた。
「お前くらいクズなら、こっちも何の気兼ねなくぶっ倒せる!」
剣が一閃される。
数秒遅れて、アンドレアスの腕が切断された。
「ぎゃあああああ!腕が!」
情けない悲鳴を上げながら、彼は床でジタバタともがく。
「さあ、トドメだ。」
「ま、待て!」
しかし、その要望を聞くものはいない。
「そこです!」
「いけー!」
ナスターシャとアナスタシアは一緒になって応援する。
「せい!」
アンドレアスの巨大な胸に剣が突き立てられた。
「……」
声もなくアンドレアスは沈黙した。
息絶えたのだろう、おそらく。
「あー今日もかっこよかったぁ。」
「感無量です。」
アナスタシアは余韻に浸っていた。
「そうですわね。」
ナスターシャも同意する。
まるで映画でも見終わった後のような、
絶妙な空気が2人の間に漂っていた。
一方で、
「いやー炎の四天王を倒せましたな、勇者殿。」
「ああ。」
老齢の男とエリアスが話す。
「この後はどうしましょうか。」
「一度、ブレーセン王国に帰りたい。」
「ブレーセンへ?」
少々意外だったらしく、男は聞き返した。
「ああ、そうだ。」
「疲れを取りたいということでしょうか?」
「それもある、だがもう一つ。」
彼の表情が少しずつ、
何かを懐かしむような表情へと変わっていく。
「久しぶりに親友に会っておきたい。」
そう言い残し彼は歩き始めた。
仲間たちもついていく。
勇者の親友とは果たして?
ここまで読んでいただきありがとうございました。




