第三十二話 友だち
――数日後
アリサの取り計らいにより、
アナスタシアとナスターシャは誰も見ていない平原で再会していた。
「どうしても言わなきゃダメですか?」
少しだけ萎縮した様子でアナスタシアは問うた。
「ダメです、2人ともまだ終わってないんですから。」
アリサが有無を言わせない強さで言い返した。
「え、ええと……」
ナスターシャもゆっくりと口を開いた。
「私は言いかけていたと思うのだけれど、」
「言わなきゃ――」
「ダメ。」
言い切るまでもなく、
ナスターシャの甘い考えは一刀両断された。
「どうしましょうか?」
「どうって……」
「アリサはきっと言うまで帰してくれないと思いますよ。」
2人の顔にはあきらめが滲んでいた。
「じゃあ、もう同時に……」
「はい、きっとそれが一番丸いですね。」
2人の意見は一致した。
「せーの」
2人の息がぴったりと合った。
「「ドッキリ大成功!!」」
互いを騙しあった策謀の戦い。
それがこの一言と共に終結した。
「……」
その後には奇妙な静寂が場を支配した。
「ナスターシャさん、今しかないですよ。」
見かねたアリサがそっと耳打ちをする。
「アナスタシア!」
勢いに身を任せ1語だけ口に出した。
「私と友だちになってくれないかしら!」
これこそが、彼女がドッキリをしかけた理由であった。
「そう来ましたか……」
その眉尻は少し対応に困ったように下がっていた。
「妹の救出に協力してくれた恩もありますし、」
「良いですよ。」
「やったー!」
その了承に喜びの声が聞こえた。
「ただし、」
しかし、その声はすぐさま聞こえてきた言葉にかき消された。
「1つだけ条件があります。」
いつになく真剣な様子であった。
「条件?」
「それは何?」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
「それは……」
アナスタシアの口が重苦しく開かれた。
「私の勇者様に決して手を出さないことです!」
その頬は少しだけ赤らんでいた。
「勇者って……」
「あの勇者?」
「様をつけなさい、様を!」
ナスターシャの疑問の声に対し、
アナスタシアの怒号が飛んだ。
「そうなんですよ。」
そこにアリサが割って入って来た。
「お姉様は勇者様に片想いしていまして。」
「ちょ、ちょっとアリサ……!」
アナスタシアが慌てて腕を掴む。
「人前では恥ずかしいから!」
その頬はりんごのように赤くなっていた。
「はぁ。」
アリサは呆れたように息を吐く。
「深夜の部屋から毎晩毎晩大声が聞こえてきて、」
「寝不足で困ってるんですよ。」
よく見ればアリサの目の下には深いクマが刻まれていた。
「物乞いのフリでようやく取れたのに最近はまたクマができて、」
「最悪ですよ。」
心底うんざりしたようにアリサは畳み掛けた。
「あれは……」
アナスタシアが口を開く。
「……勇者様がかっこよすぎるのが行けないんですよ!」
反省の色など微塵もない一言であった。
「はぁ、全くお姉様はいつもいつも――」
アリサの愚痴がさらに続くかと思われたその時、
「わかりますわ!」
「え?」
急にナスターシャが声を上げた。
「私もヴィルヘルムのかっこいいところを見ると騒ぎますもの!」
「ナスターシャさん!?」
アリサは恐れおののくような表情になっていた。
「勇者……様のことは見たことないですわ。」
「私、ヴィルヘルム一筋ですし。」
「だけど、あなたの熱意は理解できますわ!」
まさかの方向へと話が進んでいく。
「わかってくれるんですね!」
アナスタシアの目が初めての理解者を前にして光り始める。
「しかも勇者様に興味がないなんて、」
「もう何の憂いもありません、」
「私たちは今日から友だちです。」
あっけなく友情は成立した。
「わーい、やりましたわ!」
ナスターシャは満面の笑顔を浮かべた。
「早速どこか遊びに行きましょう。」
「はい、そうですね。」
勢いのまま2人は歩いていく。
「とりあえずそこの山を1つ潰すのはどうかしら?」
「良いですね!腕がなります!」
やがて2人の姿は草原から消えた。
「……」
残されたアリサは1人だけ遠い目をしていた。
「ナスターシャさんも同じタイプだったんですね……」
「しばらく家出でもしましょうかね。」
果たしてアリサの睡眠事情はどうなってしまうのであろうか。
聖女編 完
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