第三十一話 決着
「あ……あああ……」
デニスの悲痛な声はもはや、
言葉の体をなしてはいなかった。
「い……いつの間にぃぃ……」
歯は噛み合わない音を出し、
先ほどまでの余裕は一瞬にして消え去っていた。
「先ほど、逃げた後ですわ。」
「私はシャベルで周囲の墓を全て掘り返したのです。」
よく見ればその手にはシャベルが握られていた。
「あんな短時間でそんなことができるわけが……」
「私の身体能力ならそれが可能ですわ。」
デニスは過小評価していたのだ。
ナスターシャの圧倒的な身体能力を、
ヴィルヘルムを恐怖させた素早さを。
「デニス、あなたは調子に乗って、」
「私たちの策に乗せられたんです。」
「そろそろ負けを認めたらどうですか?」
アナスタシアの凛とした声。
「あと少しのところだったと言うのに……」
その声にデニスは奥歯を震わせていた。
「さあ、終わらせましょう、ナスターシャ!」
「ええ、そうですわね。」
ナスターシャがシャベルを振り上げ、地面に踏み込む。
「さあ、覚悟なさい!」
そしてその両足からバネのような力を生み出し、
一気にデニスへと迫った。
「な……!早!」
「えい!」
そのままシャベルが振り下ろされる。
プシュ――
水のようなサラリとした音が響いた。
(手応えが……?)
直撃したにしてはあまりにも感触が軽かった。
「動揺していましたが……」
頭部の半分を失ったデニスの口が動いた。
「わたくしは体そのものが水。」
「故に何をされても死にません。」
まるでコップの中の水が掬われて減った部分を満たして平坦になるように、
デニスの頭部が再生していく。
「おや?」
アナスタシアが何かに気づいたような声を出した。
「デニスの身長、あんなに短かったでしょうか?」
「身長?」
それを聞いたアナスタシアは再生しているデニスの方を見た。
確かに再生こそしているが、
その身長は目に見えて縮んでいた。
(再生と同時に縮んだ?)
(と、言うことは。)
「アナスタシア!」
「あなたも攻撃して!」
ナスターシャが叫ぶ。
「確かにデニスは再生しますわ。」
「けれども、減ったコップの中の水が戻らないように、」
「デニスの再生には限りがありますわ!」
ナスターシャは確信をもって看破した。
「ッ!」
デニスの目が焦ったように見開かれる。
「つ、付き合っていられない!」
「わたくしは失礼させていただくとしましょう!」
彼はナスターシャに背を向け全力で駆け出した。
逃げているのだ。
「待ちなさい!」
ナスターシャが追う。
しかし、生命の危機に瀕した者の力が凄まじく、
次第に引き剥がされていく。
「逃げ切れ……」
「……ぐっ!」
デニスの体を無数の光線のようなものが貫いた。
彼の体はよろめき倒れた。
放ったのはアナスタシアだ。
「なるほど。」
アナスタシアは手を打った。
「それなら身長が小さくなったことにも合点がいきますね。」
倒れたデニスにゆっくりと2人が接近していく。
「「さて、友だちをさらった報いたっぷりと味わってもらいます。」」
アナスタシアが拳を、
ナスターシャがシャベルを振り上げる。
「待ってくれ!悪かっ――」
アナスタシアの拳が頭部を再び砕く。
そして、ナスターシャのシャベルも胸部を狙ってなんども振り下ろされた。
「あああああああああ!」
プシュ、プシュと水が飛ぶ音と共にデニスの体が縮んでいく。
それと同時に再生するが、
再生よりも攻撃の方が早いのだ。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
その体が縮むにつれて、
断末魔もか細くなっていく。
「――――――」
やがて、何も聞こえなくなった。
「ふぅー」
アナスタシアがゆっくりと汗を拭った。
「流石にこのぐらいにしておきますわ。」
2人の間には奇妙なほど爽やかな空気が漂っていた。
そして、デニスが先ほどまで倒れていた場所には、
水分を与えられ元気になった、
一輪の花だけが鮮やかに咲いて残っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回、内容が短くなってしまい申し訳ありません。




