第二十九話 死霊
「な、なぜ!」
「確かに首を落として殺したはず!」
殺したはずの存在が生きていた、
そのことはデニスを混乱させるにはあまりにも十分であった。
「危ないところでしたわ。」
ナスターシャは背伸びをしながら言った。
「あと数分、首を拾うのが遅かったら、」
「流石の私も死んでいたわ。」
あまりに発言にデニスは硬直していた。
「……」
「ひ、拾っ……え?」
「な、ならもう一回!」
再び流水が襲いかかる。
しかし、
「同じ攻撃が2度も通じるとでも?」
「な、なんだと!」
彼女の細腕が、振り向くこともなく、
握りしめ完全に止めていた。
「し、しかし、聖女は仕留め……」
「私のことがどうかしましたか?」
「え?」
声のした方へ顔を向けると、
アナスタシアの生首があった。
「……」
「えぇ……」
なぜ生首だけで喋っている?
そもそもなんで生きている?
様々な疑問が彼の脳内を駆け巡っているらしかった。
「それにしても、まさかナスターシャも私と同じとは思いませんでした。」
生首の後ろから体が近づいてくる。
「なんだか、親しみを感じずにはいられません。」
「よっこいしょ。」
体が生首を載せるとその傷はみるみるうちに塞がっていった。
「あなたは私が首を切れば死ぬと思っていたようですけど、」
「私は聖女、」
「そのくらいでは死にません。」
アナスタシアは平然と言い放った。
「……」
「…………」
人間離れした異様な再生。
デニスの思考は停止していた。
「せ、聖女って、そんな……ええぇぇ……」
困惑の声だけがなんとか絞り出された。
「首を刎ねたくらいで私たちが死ぬ。」
「そう思い込んだのが間違いですわ。」
ピシッと指をさしナスターシャは言った。
「さっ、」
しかし、全身冷や汗を流しながらデニスは姿勢を正す。
「流石ですね、お二人とも。」
「しかしながら、勝ったと思ったら大間違いです!」
パチン!――
指パッチンの音が響き渡る。
墓の縁がモゴモゴと動き始める。
「な、なんですの?」
「まさか!」
突然の異変に2人は周囲を見回し、構える。
「あー」
土が盛り上がり、手が飛び出してくる。
現れたのは腐りかけの死体であった。
「こ、これは、人の死体を魔物に……?」
「なんと忌々しいことを!」
アナスタシアは怒りの声を上げた。
「はい、そうです。」
臆することなくデニスは肯定した。
「これが罠の1つです。」
「本来はもっと多くの罠を準備するはずでしたが、」
「仕方がありません。」
デニスの言葉に呼応するかのように、
さらに多くの墓の縁が動き始めていた。
「あー」
「ああー」
みるみるうちに生ける死体は増えていき、
2人を包囲しつつあった。
「こ、これはマズいです。」
聖職者であるアナスタシアには、
その死霊の恐ろしさがわかるのであろう。
「聖なる力よ、邪を払い給え。」
全速力で駆け出し、何やら呪文のようなものを唱え始めた。
彼女の周辺には光が集い、
「あ、あー……」
その光に触れた死体は倒れ込み、
土へと返っていく。
「無駄ですよ、ここは墓地。」
「死体なんて墓の下にいくらでも埋まっています。」
「あー」
デニスの言葉通りに倒しても倒しても、
次々と現れどんどん包囲が進んでいく。
「アナスタシアだけに任せるわけには行きませんわ!」
見かねたナスターシャも駆け出す。
「えい!」
腕を横薙ぎに振るう。
「あー!!」
すると、尋常でないつむじ風が吹き荒れ、
死体を次々と切り刻んでいく。
「無駄ですよ。」
しかし、それでも倒すペースよりも、
増えるペースの方が早かった。
「全然減りませんわ!」
「まさか、こんなにも大量の死体を操るなんて……」
次第に包囲の穴は狭まっていき、
逃げ場がなくなっていく。
「さて、ナスターシャさんにアナスタシアさん。」
先ほどまでの動揺が嘘のようにデニスは肩をすくめる。
「そのペースで一体いつまで保つか見ものですね。」
「ふ、ふふ。」
しかし、ナスターシャは笑っていた。
「いつまで保つか楽しみ?」
「それはこっちの台詞ですわ。」
「あなたのその癇に障る態度がいつまで保つか、」
「見ものですわ!」
その目にはあきらめの色など全くもって見えない。
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