第二十四話 マッチポンプ
王都の外れ、
ある村は高波に襲われていた。
「こ、これでは漁に出れねえ!」
大雨が降る中、漁師の1人が海を指さして言った。
波はあまりにも強く、高い。
海に出ようとすれば一瞬で飲み込まれてしまうだろう。
「く、うう……」
その横で1人の女性が泣き崩れた。
「漁ができないなんて……」
「私たちの生活はどうなってしまうの?」
さらに、もう1人別の女性が呆れ半分の表情で前に出た。
「聖女様は何をしているの?」
「そ、そうだ、こんな時こそ聖女様に頼んで……」
どうにもならない災害を前にした人々は聖女にすがる。
しかし、
「忙しくて……来れないそうだ。」
村長らしき髪の白い老齢の男が言い放った。
「そんな……そんな……」
「聖女様が最後の頼みだったと言うのに。」
絶望が村を支配していた。
「みなさん、安心してください。」
清廉な雰囲気の声が響いた。
「だ、誰だ?」
人々が振り返った先にはドレスを着た少女が立っていた。
アリサである。
「私がこの高波を鎮めます。」
人々は沈黙した。
「……」
「……」
「何いってんだ?」
困惑が満ち始める。
「聖女様でもないのにそんなことできるわけない。」
「お嬢ちゃん、聖女ごっこなら別でやってくれ。」
人々の言葉は刺々しい。
当たり前である。
「では、見てください。」
アリサはゆっくりと手を海へと向けた。
ゆっくりと空が晴れ、
海に向けて日が差していく。
「どう……なって……」
誰かが感嘆の声を漏らした。
やがて、波は落ち着き、
空は完全に晴れ渡っていた。
「なんという……ことだ……」
人々は事態が飲み込めていない様子であった。
「みなさん、高波は鎮まりました。」
「もう大丈夫です。」
アリサは断言した。
「あの少女、」
「ただの少女じゃない、何者なんだ?」
「わ、わからん。」
安堵よりも困惑の方が勝っていた。
「では、私はこれで。」
アリサは踵を返す。
「待っ、待ってくれ!」
「あんたは何者なんだ!?」
1人の男が問うた。
「私はアリサ。」
「困っている人を救うものです。」
言い終わるが早いか、
彼女は足早に去っていった。
「救う……もの……」
確かめるように男はつぶやいた。
◇◇
アリサは駆けていた。
その視界の先にはナスターシャがいた。
「ナスターシャさん!」
「緊張したけどできました!」
手が前に突き出されていた。
「すごく良い演技でしたわ!」
「この調子で一緒に頑張って行きましょう!」
ナスターシャも手を前に出して応じた。
パチン――
軽やかな音が鳴った。
「やったー、ハイタッチ成功です!」
両者共にニコニコと笑っていた。
「それじゃ、」
「この後はご飯でも食べに行きましょう?」
「はい!」
2人は王都へと歩いて行った。
「そういえば、」
「こんなペースでやっててドッキリ成立するんですか?」
料理屋にて、
アリサは疑問を口にした。
「ええ、成立するはずよ。」
「ここからだんだんと噂にしていけば……」
ナスターシャはずいぶんと気長な計画を考えているらしかった。
「それって、」
「あとどのくらいかかるんですか?」
当然の疑問であった。
「短くてあと一ヶ月くらい。」
「長いと1年くらいかしら。」
アリサは目を伏せた。
「思いの外悠長な計画だった……」
誰にも聞こえない小声でつぶやいた。
「何か言ったかしら?」
「な、何も言ってないです。」
アリサは首を振って誤魔化し続けるのであった。
◇◇
――同じ頃、神殿の祭壇にて
「順調にナスターシャに信頼されているようですね、」
「アリサ。」
アナスタシアは目を細めていた。
壁にはいつも通り映像が投影されていた。
しかし、料理屋のナスターシャが正面に至近距離で捉えられていた。
「まさか、ハイタッチをし合うほどに気を許すとは……」
「ずいぶんと純粋な人なんですね、」
「ナスターシャさんは。」
彼女は口角を上げた。
「まあ、」
「私の計画上はちょうど良いことです。」
目も合わさった表情はまるで愛する者に向けるそれであった。
ひとしきり喋った後、
アナスタシアは扉へと歩き始めた。
「計画の進捗を確認したことですし、」
「そろそろ仕事に戻るとしましょう。」
「計画のためとはいえ、サボりすぎるのも不本意です。」
扉に手をかける直前、
彼女は改めて映像へ振り返った。
「その調子で頑張りなさい。」
「可愛いアリサ。」
「私の可愛らしい……」
「……妹よ。」
その一言を残し、
彼女は祭壇の間より立ち去った。
妹の視界が投影された映像だけを残して。




