第二十三話 着替え
――同じ頃、神殿にて
「アリサは予定通りナスターシャと合流したようですね。」
映像を見ながらアナスタシアは微笑んだ。
「事は計画通りに進んでいます。」
「そのまま信頼されなさい、アリサ。」
アナスタシアの目は少しだけ優しかった。
◇◇
「こっちですわ!」
料理屋での顛末の後、
ナスターシャはアリサの手を引き、
どこかへと走っていた。
「ちょっ、早!」
引っ張られているアリサの足はもうすでに震えていた。
「もうちょっと、ゆっくり!」
「もう……?」
わずかに期待が頭をよぎる。
「ええ!もう、そろそろですわ!」
必死な訴えかけは全く届いていなかった。
アリサはうつむいた。
その直後であった。
「うわあ!」
唐突にナスターシャは停止し、
アリサは危うく転びそうになった。
「着きましたわ!」
「え、ここはまさか?」
アリサは目を丸くした。
「そう!ここは服屋ですわ!」
「ここでドッキリ用の衣装を見繕うのよ。」
「な……なるほど……」
アリサは周囲を見た後、
控えめに反応した。
「さ、入りましょう!」
「ちょっ……また……?」
再び手を引っ張り店内へと入る。
「失礼しますわ!」
「そこのドレスを試着させてくださる?」
店内に入るやいなや、
ナスターシャは1枚の白いドレスへと飢えた獣のごとく突撃した。
「は、はい、良いですけど……」
店員は少し困惑した様子であった。
「……」
「想像よりもこの人やばい……?」
アリサは誰にも聞こえないようにつぶやいた。
「さあ試着なさい!アリサ!」
「きゃあ!」
勢い衰えぬまま、
アリサはドレスと共に試着室へと放り込まれた。
「早く着替えてくださいまし!」
「わ、わかっ――」
大慌てで布の上着を脱ごうとするが、
「3、2、1……」
「困ってるなら私が手伝いますわ!」
時間にしてわずか1秒。
あまり早いカウントが終わると同時に、
試着室のカーテンを開け彼女は入り込んだ。
「え?」
「さあさあ急いで!」
――1秒後
上着が脱がされ、髪型が整えられていく。
――2秒後
気づくとドレスが着せられていた。
「さあ、できましたわ。」
嵐のような勢いはなくなっていた。
「これが……私?」
鏡に映っていたアリサは見違えていた。
ボロボロの髪は整えられ、
汚らしかった上着はドレスへと変わったことで可愛らしい顔を引き立てていた。
「見違えましたわね。」
そっとアリサの肩に手が置かれた。
(こうなると少し聖女に似ていますわね。)
ナスターシャは少し怪しんでいた。
「ありがとうございます。」
「ナスターシャさん!」
振り返ったアリサの顔は満面の笑顔であった。
(まあ、いいですわ。)
その笑顔により疑念は一瞬にして吹き飛んでしまった。
「店員さん!」
「これ、買いますわ!」
「お買い上げありがとうございます。」
アリサの反応含めて満足したナスターシャは店をあとにした。
「そういえば、」
「ナスターシャさんのドッキリって?」
街を歩いているとアリサが疑問を口にした。
「それは、」
微笑みながら語り始める。
「まず、私が魔法で高波を起こして、住人がもうダメだとなったところで、」
「あなたが現れて手をかざして、」
「それに合わせて私が魔法で波を戻してあなたを本物の聖女だと信じ込ませて……」
アリサがジト目を向けた。
「それができるなら自分が聖女のふりした方がいいんじゃ……」
もっともである。
「確かにそれもできますわ。」
平然とうなずいた。
「けれど、私は恋する1人の乙女、」
「みんなを思いやる聖女には嘘でもなれませんわ。」
謎の誠実さである。
「……」
アリサは微妙な面持ちになっていた。
「話を戻して、」
「そして、今の聖女は偽物だと扇動して、」
「信じてもらえずに聖女が絶望したところでドッキリを暴露する計画ですわ。」
「……」
あまりのめちゃくちゃさに、
アリサは何も言えなくなっていた。
「これが、聖女とお友達になるためのドッキリなんですわ。」
「……ふふっ」
その言葉を聞いた瞬間、
アリサは笑った。
「あんな人と友達になりたいなんて、」
「ナスターシャさんはおもしろい人ですね。」
まるで聖女の人となりを知っているような口ぶりだった。
「ドッキリ、成功するように頑張りますね。」
その声にはやる気が宿っていた。
「ええ、一緒に頑張りましょう。」
「あ、もちろん報酬も弾みますわ。」
2人はゆっくりと通りを歩いていく。
こうして、ナスターシャの計画は大きく前進したのであった。
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