第二十二話 物乞い
――翌日
「ちょっと出かけて来ますわ!」
「はい、行ってらっしゃいませ。」
ナスターシャはいつも通りの調子で街へ出ていく。
(偽の聖女にぴったりの人材を探してみせますわ!)
その目的は偽聖女ドッキリのための人材スカウトである。
(成功の暁には、聖女と私が友達に……)
彼女の頭の中に妄想が広がっていく、
ナスターシャが雇った偽聖女の前、
アナスタシアが聖女を騙るものとして人々に糾弾されている。
「信じてください、私が本物です!」
必死に訴えるが信じる者は誰もいない。
そこへ、まばゆい光を背にナスターシャが現れる。
そして堂々と宣言するのだ。
「ドッキリ大成功!!」
大笑いし始める人々、
そしてアナスタシアも笑いながら言うのだ。
「あなたのドッキリには驚かされました。」
「友達になりましょう!」
そうして2人は友情の握手。
計画成功――
「ふふ、我ながら完璧な計画ですわ。」
問題だらけである。
そんな大惨事がドッキリで片付けられるはずがない。
しかし、ナスターシャは妙に自信満々である。
「ふんふんふーん。」
彼女は上機嫌に鼻歌を歌い始めていた。
「あ、あの……」
誰かに肩を叩かれた。
「あら?」
振り返ると、
みすぼらしい外見の少女が立っていた。
「あ、あの……」
恥ずかしいのか、言葉が次に進まない。
その間に、ナスターシャはよく観察する。
(物乞いかしら、)
(でも、それにしては立ち方が上品な気が……)
確かにみすぼらしい服を着ているが、
その背はピシッとしていて、
体型もそこまで痩せてはいなかった。
「どうかしたのかしら?」
ナスターシャは問うた。
「えっと、お金がなくて……」
「恵んでいただけないでしょうか?」
聞かれたためか、少女はすらすらと答えた。
上目遣いの表情にナスターシャの心が揺れる。
「それは大変ですわね。」
その言葉は優しかった。
(私にはこの娘を疑うことなんてできませんわ。)
(まあ、少食で太る人もいますしね。)
少女の表情がナスターシャの警戒心を削っていく。
「もし良かったら、」
「私が食べ物を奢りますわ。」
「良いんですか!?」
余程の空腹であったのか、
食べ物という言葉に少女は素早く食いついた。
「ええ、じゃあ行きましょうか。」
ナスターシャは少女を引き連れ歩き始めた。
その様子を白いヘビが見ていた。
◇◇
ある料理店にて、
(ずいぶんとよく食べるわね……)
ナスターシャと少女は向かい合って座っていた。
「……」
少女は無言で一心不乱に食べていた。
が、問題はそこではない、
彼女の目の前には十数枚の皿がすでに積み上げられていた。
(おかしいわね、飢餓状態の人ってこんなに食べられるかしら?)
(まあ、細かいことはいっか。)
「……」
ナスターシャがじっと見ていることすら、
少女には見えていないのだろう。
彼女の目に入っているのは食べ物だけである。
(よく見てみると、髪もきれいで、顔も整っていますわね。)
いつの間にかナスターシャの注意は少女の外見へと向かっていた。
(瞳も透き通っていて、アナスタシアよりも……)
そこまで考えたところで、
ナスターシャの口角が上がった。
「そうですわ、この娘なら偽聖女役にぴったりですわ!」
大声と共に彼女は立ち上がった。
「へ?」
流石の少女も食べる手を止めてナスターシャを見ていた。
「ちょっと頼みがありますわ!」
ナスターシャは少女の手を握った。
「私は今ドッキリの計画を練っているのだけど、」
「もし良かったら、実行役になってくれないかしら?」
「え、えーと。」
ナスターシャの勢いに少女は圧倒されていた。
「お金ならもちろん払いますわ!」
「どうかしら?」
さらにナスターシャは畳み掛けた。
「えっと、ええと。」
少女は困惑半分にしばらく悩み続けた。
「えっと、よろしく……お願いします。」
彼女は小さな声で承諾した。
「わーい!計画の主役が決まりましたわ!」
ナスターシャははしゃぎ始める。
「あなたの名前を教えてもらえないかしら?」
「……アリサ」
ナスターシャに気圧されているのか、
またしても小さな声だった
「アリサ……!」
「良い名前ですわね。」
「これからよろしくお願いしますわ、アリサ。」
ナスターシャはアリサの手を掴んだまま上下に振るう。
アリサは少し冷や汗を流していた。
「えっと、こちらこそよろしくお願いします。」
アリサはややにこやかな表情をした。
「ふふっ」
ナスターシャも微笑んだ。
「うふふ」
ほんのしばしの間、平和な時間が流れた。
「はい、そこのお客さんたち、ちょっと良いですか?」
気づけば料理屋の店員が近づいてきていた。
「騒がれると他のお客さんの迷惑なので、」
「お控えください。」
至極ごもっともな注意であった。
「ご、」
2人の口から同時に漏れる。
「ごめんなさい。」
ここまで読んでいただきありがとうございました。




