第二十一話 策謀する2人
ザー――
水の流れる音の中、
「戦いで重要なことは相手を知ること……」
「あなたのことを観察させてもらいますよ。」
祭壇の前で、アナスタシアは投影された映像を眺めていた。
「ヴィルヘルムー!宇宙一!」
「聞こえてませんね、これ。」
そこにはナスターシャとルドルフが映っていた。
彼女の眷属である白いヘビの視覚情報である。
「なるほど、」
流水からの水飛沫で濡れた顔が喜色に染まった。
「どうやら彼女は思考のスケールを飛躍させやすいようですね。」
彼女はナスターシャの情報を探っていた。
「そこが長所であると同時に弱点でもある。」
理由は明確である。
彼女は祭壇の方へ振り返った。
そこには盗み出された勇者の下着が旗のように飾られていた。
「もう少し待っていてください勇者様。」
「あなたを狙う可能性のある虫を駆除しますから。」
その頬は異常なほどに赤らんでいた。
「愛おしい、愛おしい、」
「私の勇者様……」
一瞬その瞳にハートが浮かんだように思われた。
コンコン――
祭壇の間の扉を叩く音が聞こえた。
「聖女様?入ってもよろしいでしょうか?」
彼女の部下である神官の声であった。
「ま、マズい!」
慌てて映像を消し、
下着を片付け、姿勢を正す。
「は、入って良いですよ。」
彼女の息は切れていた。
「おや?」
「ずいぶんと息が荒いようですが……」
「何かあったのですか?」
神官が首を傾げる。
「あ、あ〜。」
「少し運動をしていました。」
「毎日ここで祈っていると運動不足になりそうなので。」
視線がやや合っていない。
「なるほど、」
「確かにそうですね。」
「流石は聖女様ですな。」
信じた。
神官の言葉には1つの疑いもない。
「ありがとうございます。」
「ところで、どのような用件でこちらへ?」
ボロが出ないうちに話題を逸らした。
「はい、あなたに相談ごとがある者がいまして……」
「お時間の方はよろしいでしょうか?」
アナスタシアは聖女である。
当然、人々の話を聞くような仕事もこなす必要がある。
「はい、問題ありません。」
「ここに来ていただいてください。」
人の心を落ち着かせるような穏やかな声であった。
「では、連れて参ります。」
うやうやしく頭を下げ、
神官は部屋を後にした。
「ふぅ」
アナスタシアは少しだけ息を吐いた。
「私に相談ですか……」
「丁寧に対応しなければいけませんね。」
彼女は聖女としての職務に関しては気合を入れてこなしている。
なぜなら、聖女とは信用商売であるからである。
「し、失礼します。」
若い男の声であった。
「どうぞ。」
扉が開かれ、入って来たのは1人の青年であった。
「聖女様、あなたに相談したいことがあって来ました。」
「何でしょうか?」
アナスタシアの表情は聖母のように穏やかであった。
「おれは好きな人がいるんですが……」
「上がり症で、告白するのが難しくて、」
「手を貸していただけないかと……」
年相応の非常に悩ましい相談であった。
「なるほど、それは大変ですね。」
彼女は青年に寄り添った。
「あなたに上がり症を治す加護を授けましょう。」
一瞬、青年の顔は驚愕に包まれた。
そして、次第に感極まったものへと変わっていく。
「あ、ありがとうございます!」
その目には涙が溜まっていた。
「……ッ!」
アナスタシアは何かを感じたらしく慌てて振り返った。
そこには1羽のコウモリが飛んでいた。
「聖女様?」
突然のことに青年は困惑していた。
(あのコウモリは!)
アナスタシアの思考が高速で動く。
(殺しておくべきですね……)
(しかし、不審がられてしまう、かくなる上は……)
「失礼しました。」
青年に向き直った。
「それでは加護を授けますね。」
彼女の手が青年の頭に触れる。
淡い光がその手から放たれる。
「はい、これで終わりましたよ。」
光が消えると同時にアナスタシアは言った。
「ありがとうございます。」
青年は感謝し立ち去ろうとする。
「あと、」
青年の足が止まった。
「これは私からのアドバイスなのですが……」
「サプライズやドッキリなどを交えると良いかもしれませんよ。」
「ど、ドッキリ?」
聖女に似つかわしくない言葉である。
「はい、ドッキリです。」
「私、好きなんですよ、ドッキリ。」
「……」
青年は黙っていた。
そして、アナスタシアはふっと笑った。
「まあ、あくまでも私個人の考えです。」
「参考程度に考えてください。」
目を閉じ、祈るように手が組まれていく。
「頑張ってくださいね。」
「私はここで成功を神に祈っておきます。」
「……」
青年の表情は気まずそうだ。
「えっと、ありがとうございました。」
彼は一言そう言うと逃げるように出ていった。
なんとも微妙な終わり方である。
◇◇
――同時刻
ナスターシャの屋敷にて
「やりましたわ!」
ソファの上でナスターシャははしゃいでいた。
「ヴィルヘルムとの再婚約のため、」
「味方を作ろうと聖女の様子を見ていたら、」
「好みがわかりましたわ!」
ナスターシャは急ぎ足で自室へと戻った。
「早速、計画ですわ!」
「アナスタシアと一瞬で仲良くなれるような、」
「ものすごいドッキリを仕掛けて見せますわ!」
彼女はノートを広げ、
どんどんアイデアを書いていく。
延々と書き続け、ノートの大部分がアイデアで埋まっていた。
そして、
「一番良いアイデアを思いつきましたわ!」
ノートには二重丸と共に、
次のように書かれた。
「偽聖女ドッキリ」と。
ここまで読んでいただきありがとうございました。




