第二話 断罪と処刑
翌日のこと
「罪人ナスターシャの家だな、衛兵だ。」
家の前に衛兵が立っていた。
「あら、裁判にはまだ早いはずですが、なにか御用ですか。」
衛兵は底意地が悪そうな笑みを浮かべた。
「喜べ、裁判は今日に繰り上げになった。」
ナスターシャはその細い首を傾げた。
「でも、それは法律違反ではなくて?」
しかし
「特例だ。夜明けに魔王軍四天王の生首が1つ王城に届いていてな、殿下が不安がられている。」
「王の許可もすでに出ている。」
(やられましたね、まだ魔王軍四天王を一人の生首しか贈り物にできていないと言うのに)
「さあこい、開始時間は数時間後だ。」
後ろを見れば大勢の衛兵が警戒しているかのように周囲を監視していた。
(逃げても無駄なようですね。仕方がありません)
ナスターシャは佇まいを凛と直した。
「ええ、わかりました、ついていきますわ。」
ナスターシャを乗せた馬車は裁判所へ向けて走り始めた。
ーー法廷にて
「これより被告人ナスターシャの裁判を開始する。」
緊張の漂う大法廷に厳かな裁判長の声が響く中、ナスターシャは証言台に立たされていた。
弁護席は空席で、証人席にはヴィルヘルムが……ヴィルヘルム!?
「ヴィルヘルム!私はここにいますよ!」
大声で隔てられた愛おしい人に向けて叫ぶ。
「……」
しかし、ヴィルヘルムはまるでおぞましいものでも見たかのように血相を変え目を逸らした。
(ああ、ヴィルヘルムどうして私たちは隔てられてしまったのかしら⁉)
ナスターシャの目から涙が一筋落ちる。
(会いたいのに会えないなんてまるでロミオとジュリエットのよう。)
「被告人は前へ」
冷酷な裁判長の声が響く。
「殿下と敵対していた公爵の毒殺、そして殿下の兄の失脚を主導したのはあなたですね?」
提訴人であるアナスタシアは落ち着いた声で問う。
「はい、全て事実です。」
「フリードリヒ王太子を追放したのは貴様だったのか⁉このクズめ‼」
「なんと恐ろしいことを」
傍聴席に座っていた貴族たちから怒号やヤジが飛んだ。
「静粛に」
裁判長の声が響き、次第に声は止んだ。
「裁判長、彼女に情状酌量の余地などありません。故に死刑が妥当かと。」
アナスタシアが正義振った様子で裁判長の方へと顔を向ける。
「確かにそのようであるな。しかし……」
証人席のヴィルヘルムは小さくガッツポーズをしていた。
「法廷でその振る舞いは不謹慎ですぞ王子」
ヴィルヘルムははっとした様子で慌てて姿勢を正した。
「では判決を言い渡す、被告人ナスターシャは翌日断頭台による斬首に処す。以上。」
「……」
ヴィルヘルムの顔が喜びを噛みしめるようにプルプルと震え始める。
「やったぁぁぁぁぁ‼解放されるぞ‼」
突如立ち上がったヴィルヘルムの歓声が何重にも響き渡った。
「王子、何度も言わせないでください不謹慎ですぞ!」
裁判長が怒鳴った。
「あ、す、すまん、つい」
ヴィルヘルムは申し訳なさそうに頭を下げた。
(もう、ヴィルヘルムってば〜、そういうなんだかんだ素直なところがカワイイんですよね。)
ナスターシャは小動物でも眺めるように微笑んでいた。
「では、判決も出たことですし、被告人には退場を願いましょう。」
アナスタシアが合図すると、2人の衛兵がナスターシャの両脇を固めた。
「何ですの⁉」
ナスターシャの顔が急に歪む。
「退場だ。ナスターシャ。」
「嫌‼‼待って、少しだけ待ってください‼」
「今さら命乞いしても遅――」
「まだヴィルヘルムのいる部屋の空気を吸い足りない‼」
「そっちかよ‼」
衛兵が怒鳴る。
「思い出してくださいヴィルヘルム‼」
ナスターシャのその言葉にヴィルヘルムが嫌そうな顔を向ける。
「こ、こいつ黙れ‼」
「私たち2人の美しく、そして素晴らしいあの日々を‼」
衛兵が制止するも止まらない。
「覚えていますか?未来を誓い合ったあの日のこと。」
ヴィルヘルムの肩が一瞬震える。
「2人で星の出る丘を歩いた結婚式‼そして初めてのキスを‼思い出してください‼」
「……」
その言葉が耳に届いた瞬間、ヴィルヘルムはゆっくりと立ち上がった。
そう、2人は将来を誓い合った婚約者、言葉を尽くせばその想いは間違いなく伝わ――
「いや、そんな記憶知らんし。」
ヴィルヘルムは理解できない様子で首を傾げていた。
「そんなロマンチックなことなかったはずだ。」
「どういうことだ?」
「まさかナスターシャ様の妄想?」
法廷は疑問の声で騒然としていた。
「皆さんご安心を」
アナスタシアの冷静な声が通った。
「ただいま天より神託が下りました。殿下とナスターシャはまだ婚約段階です。」
「つまり今のは愚かしい妄想です。」
「妄想の方がヤバいのでは?」
「そ、そうだよな?」
しかし、騒然とした空気は収まらない。
「皆さん、恐れることはありません。もう死刑は決まりました。明日にはこの怪物は倒されるのです。」
「そうか、そうだよな。大丈夫だよな?」
一人の安堵を皮切りに次第にその場は静けさを取り戻していく。
「では気を取り直して、ナスターシャを連れて行ってください、衛兵。」
「はっ、承知いたしました。アナスタシア様。行くぞ。」
ナスターシャが衛兵により法廷の出口へと連れて行かれる。
(ああ、ヴィルヘルム……)
(なんて素敵な知らん、なの‼それが聞けて私幸せぇ)
姿が見えなくなるその瞬間まで悦楽の表情であった。
「さて、ヴィルヘルム殿下?」
ナスターシャの退場後、アナスタシアはヴィルヘルムに近づく。
「感謝するアナスタシア、お主のお陰で私はナスターシャと離縁できた。」
「喜ぶのはまだ早いですよ。首が胴から離れるその瞬間までは」
「そうだな」
ヴィルヘルムは微笑みながら同意する。
「そして報酬の話ですが。」
アナスタシアの目の色が変わった。
「神託使用合計5回、実働時間380時間、魔法使用量100回、なので金貨500枚のお支払いをお願いします。」
ヴィルヘルムは顔をしかめる。
「当初より値上がってないか?」
「物価がインフレで上がっているので。」
アナスタシアは乙女のように頬を赤らめた。
「それに……勇者様を射止めるためにおめかししたいので。」
「そういうことか、良いだろう払ってやろう。私のポケットマネーからな。」
かくして、ナスターシャの処刑は決まった。
しかし、恋の怪物はその牙を研いでいるということをこの2人は知る由もなかった。
読んでくださりありがとうございました。
次回は8月20日の夜に投稿予定です。




