第十四話 魔の契約
――翌日
ルイを含む多くの人々が見守る法廷にて。
「はい、ルイ王子から金貨を与えられて、毒を入れました。」
観念した料理人は自白していた。
「さて、同行願えますね。ルイ王子。」
自白を受け、ルイの左右にいた兵士が静かに言う。
「……」
ルイはただ黙って手を握っていた。
よく見れば指を伝って血が滴り落ちていた。
「クソが……」
その目は怒りか、嘆きか、赤くなっていた。
「僕は主人公だぞ……」
なおも彼はその言葉に固執する。
「しばらく牢屋に入ってもらいます。」
「フラレアス王国へ交渉に行っている殿下が戻るまでの間。」
ルイの顔色が変わる。
(交渉へ……行っている……?)
(父上や兄上の所へ?)
(今回のことが父上にバレる!)
「離せ!僕はそんなの嫌だ!」
「暴れないでくださいルイ王子!」
ヴィルヘルムはこの場には同席していなかった。
ルイを処罰する許可を求めフラレアスに向かったためである。
それを知ったルイは身を捩り、
腕を振り回し兵から逃れようとするも無駄であった。
「ちくしょう……」
その力ない一言だけ残し、
地下牢へと連れて行かれた。
「さて、」
兵士の1人が護衛に向き直った。
「あなたにも協力の容疑がかかっています。」
「牢屋にしばらく入っていただけますね?」
(牢屋と言ってもあのバカの子守よりはマシだ。)
「はい。」
返事1つで素直に牢へと歩いて行く。
「抵抗しなければ手荒なことはしません。」
(するわけねえだろうが!)
「はい。」
かくして、晩餐会の事件は一旦の収束を見た。
◇◇
一方、フラレアス王国にて。
「何!ルイがそのようなことを!?」
「あのバカ息子が!」
会議室にて声を荒げていたのはフラレアスの国王であった。
「まあまあ、終わったことですし、落ち着いて……。」
ヴィルヘルムは荒れている彼を宥めていた
「落ち着いていられるものか!」
「奴は近年の平和の価値が全くわかっておらん!」
その眉間にはシワが谷を作るかのごとく寄っていた。
「これで何度目だと思っておる!」
「問題を起こしては知らん顔をし、」
「あまつさえ他責し続ける!もう愛想が尽きたわ!!」
目の前に他国の王族がいる。
そんな状況に関わらず憤怒の声が止まらない。
「ルイ王子はそんなに問題を起こしているのですか?」
(止まりそうもない、全て吐き出させた方が早いな。)
ヴィルヘルムはあえて質問をする。
吐き出させて怒りを落ち着かせるつもりなのだ。
「そんなに?だと!」
バン!!――
突然立ち上がり、机を叩いた。
「奴が行動して問題になっていないものの方が少ないわ!」
「外交問題は起こす、婚約破棄はする。」
「現代知識だのと言って資源を無駄遣いする!」
「お陰で国庫は大損害だ!」
「ふぅ。」
一気に怒りを爆発させ疲れ果てたのか、
国王は席に深く腰掛けた。
「えー、それで、ルイ王子の処罰に関しては?」
落ち着いた瞬間を見計らい、
本題へと話を戻した。
「あやつはもう勘当だ。」
「処刑なり、拷問なり、強制労働なり……」
「好きに罰せ。」
国王の目にはもはや息子への愛情など微塵もなかった。
「よろしいので?」
息子に対するものとは思えない言葉。
慌てて聞き返す。
「奴を残しておけば国が滅ぶ。」
「むしろ頼む、罰してくれ!」
「しょ、承知しました。」
(どれだけやらかせばここまで言われるんだ?)
「では、失礼します。」
必要な交渉を完了したヴィルヘルムは会議室を後にした。
◇◇
――同刻
フラレアス王国、繁華街にて。
「あなたがルイ王子に婚約破棄された人?」
「はい、そうですけど……?」
ナスターシャはルイに婚約破棄された少女を訪ねていた。
「よかった。手伝ってほしいことがあって……」
そんなナスターシャの背後には……
「あいつの吠え面を見てやるわ!」
「虫が嫌いって言ったのに虫の彫刻を渡された恨み!」
「君だけを愛してるって言った数日後に別の恋人を作ってたのよ!」
婚約破棄された49人の少女たちがいた。
(これでルイに地獄を見せてやりますわ!)
ナスターシャの報復の準備は確実に進んでいた。
◇◇
――地下牢にて
「僕は主人公だぞ、僕は主人公だぞ、こんなことありえない!」
牢に入れられたルイは文句を垂れていた。
「あああああ!」
イライラが頂点に達したルイは水差しを蹴飛ばした。
カラン――
音を立てながら水差しが地面を転がった。
「痛ったぁ。」
転がった水差し。
そこから聞き覚えのある声が聞こえた。
「急に蹴飛ばさないでくださいよ。」
水差しから水が溢れ出る。
その水は人の形を成していく。
魔王軍四天王のデニスであった。
「またお前か!」
「失敗したのはお前のせいだぞ!」
ルイはデニスを責め立てる。
(わたくしのせいでなくあなた自身の責任でしょうに。)
(でも我慢我慢。)
「申し訳ございません!全てわたくしの責任です!」
デニスは一瞬の逡巡の後。
45度ぴったりの角度でお辞儀をした。
「そうだよ、全部お前が悪いんだよ!」
デニスが下手に出ているのを良いことに、
ルイは調子に乗っていく。
(腹が立ってきました、もう使い捨てましょうか。)
下を向いている目が冷酷に染まった。
「えー、今回の埋め合わせとしましては……」
「お、埋め合わせ?じゃあ許してあげようかな。」
無償で何かがもらえると判断した瞬間、
ルイの機嫌は直り始めていた。
デニスが何かを差し出す。
「こちらの魔力の指輪をタダで差し上げます!」
それはドクロの掘られた無骨な指輪だった。
どことなく禍々しいオーラを放っていた。
「おお!かっこいい!」
ルイの目が輝く。
「こちら、嵌めていただくと……」
「人外のごとき力が手に入ります!」
デニスの口角が上がる。
「そう、この地下牢から脱出できるほどの力が!」
「ほお!」
ルイは早速、指輪を手に取って眺めていた。
(ピンチの時に助け舟が出るなんて)
(やっぱり僕は主人公だ!)
「ささ、どうぞ嵌めてみてください。」
うつむいたデニスの顔は悪い顔をしていた。
(これでこいつは魔物化し、この国を荒らしてくれるだろう。)
「ああ、そうだね。」
ルイは頷いた。
そして指輪を右手の薬指に嵌めた。
瞬間、ルイの全身から禍々しいオーラが吹き出す。
「お?おおおおおおお!」
メキメキ――
音を立てながらルイの頭から角が生え、
その肉体は強靭に変化していく。
「ふ、ふふふ、うひひひひ!」
数秒後、
そこに立っていたのはかつてのルイではなかった。
青く変色した肌、黒い角、筋肉質な肉体。
彼の肉体は魔物や悪魔のそれへと変化していた。
「僕は無敵だぁぁぁぁ!」
ルイは叫んだ。
グラグラ――
その衝撃だけで地下牢が大きく揺れる。
変異したルイはこれよりブレーセン王国を恐怖に陥れることとなる。
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