第十二話 刺客
「魔王軍四天王……アルガ・デニス……。」
護衛の額を汗が流れ落ちる。
「魔物ごときが僕に一体何の用だい?」
ルイは状況がわかっているのか、いないのか……。
平常運転であった。
対するデニスは腰を引いたまま続ける。
「現在、弊軍は勇者とブレーセン軍により甚大な被害を受けておりまして。」
「対抗すべく協力者を探しておりました。」
デニスは眼鏡をくいっと上げた。
「あなたは正しく弊軍が求めていた人材そのもの!」
「へぇ。」
ルイの目の色が変わり始める。
「追い詰められてもあきらめない心。」
「この様な状況下でも平静を保てる精神。」
「弊軍はそのような人材を求めておりました!」
デニスは再び背を正し、にこやかな営業スマイルを向けた。
「そうかそうか、主人公である僕の偉大さは魔王軍も知っているだね。」
「はい、もちろんでございます。」
ルイは腰に手を置き満足気にふんぞり返った。
「わたくしだけでなく、魔王様もあなたを高く評価しております。」
(まあ、傀儡として……ですけどね。)
笑顔の裏へ隠された本心にルイは気付かない。
「いやぁ~それは鼻が高いね。」
ルイはどんどん調子に乗ってゆく。
鼻もこころなしかいつもよりも長いように感じられた。
「そんな折にあなたの計画を聞きました!」
いつの間にかデニスはルイの両手を握っていた。
その口調はどんどん早口になっていく。
「真実の愛で愛する者の洗脳を解こうなど、誰にでも考えられるものではありません!」
「その点にわたくし感銘を受けまして!」
「ぜひ!協力させていただきたいのです!」
(こんな騙しやすい逸材はなかなかいませんからね。)
有無を言わせないその勢いにルイも護衛も黙って聞くしかなった。
「それで、君は僕にどんなことをしてくれるんだい?」
ルイは頬を歪めた表情で尋ねる。
「何かしてくれる気がないなら邪魔だからさっさと消えてくれない?」
あまりにも図々しい言葉であった。
「おっと、失礼。昂りすぎておりました。」
先ほどまでの早口ではなくゆっくりとした声であった。
「まずは信頼していただくために……」
「あなたの計画に協力させていただこうと思います。」
ペコリ――
言い終わるや否や頭を下げた。
「ふぅん、悪くはないね。」
何様だと言いたくなる態度のルイにデニスは続ける。
「今回弊軍より魔物を2体ほど準備しました。」
「この魔物を刺客として使うというのはいかがでしょうか?」
「……」
ルイは少し考え始める。
「ルイ様、相手は魔王軍四天王、少々怪しいかと……」
護衛はルイに耳打ちした。
護衛にはデニスの言葉に裏があるように感じられて仕方がなかった。
「よし乗った!」
護衛が忠告したにもかかわらず返事は承諾であった。
「……」
護衛は一瞬硬直した。
(え、今乗るって言った?相手魔王軍四天王ですよね?)
「何を言っているんですかルイ様!」
「主人公である僕に協力してくれるということは……」
「……この世界は魔王軍が善側の世界だってことだ。」
ルイの目は透き通っていた。
(えぇ…………)
護衛はただただ絶句するしかなかった。
「承知しました!ではこちらの契約書にサインを!」
「わかった。」
取り出された紙面にルイは迷わず自身の名前を書いた。
(もうどうにでもなーれ)
護衛は完全に呆れ果てていた。
◇◇
――数十分後
(なんだ、この音は?)
床についていたヴィルヘルムは足音と思しき音で目を覚ました。
その音は廊下から聞こえてきているらしかった。
(嫌な予感がする。)
ヴィルヘルムは息を潜めながら廊下側の壁に耳を当てていた。
その瞬間……
ガンッ――
扉を斧で叩いたような音へと変化した。
見れば木製の扉に斧が食い込んでいた。
(ッ!暗殺者か!)
ヴィルヘルムは静かに護身用の剣を手に取った。
(来るなら来い!)
ゆっくりと扉から斧が抜かれ……
ガンッ――
2回目で扉は完全に破壊された。
ヴィルヘルムはじっと息を潜め、刺客が入ってくるのを待っていた。
そして入ってきたのは。
(な、何!)
大斧を構えた人骨だけの魔物であった。
(アレは……魔王軍の!)
ケタケタケタケタ――
骨だけの顎がまるで笑っているかのように鳴り響く。
そして、大斧がヴィルヘルムへと振り下ろされる。
(まずい、護身用の剣では分が悪い!)
護身用の剣でかろうじて食い止めていた。
しかし、じわじわと力負けし押されていく。
(ならば!)
斧を受け止める剣を握る手と手の間に魔力の粒子が集まる。
(風の魔法で、吹き飛ばす!)
「風魔法!」
魔法が発動し、
近距離で直撃した魔物は吹き飛び
その勢いのまま壁に激突した。
骨であれば砕けてもおかしくない状況。
しかし……
ケタケタ――
「ば、馬鹿な!」
その身にはわずかにヒビが入った程度であった。
(骨とは思えない頑丈さだ!)
ヴィルヘルムはふと剣に目をやる。
やや折れ曲がっていた。
(この状態を見るに打ち合えるのはあと1、2回程度か。)
冷静に思考する。
(魔法で倒すにしろあの強度、私の使える魔法では倒しきれない。)
状況は八方塞がりであった。
ケタケタケタ――
思考している間にも斧が振り下ろされる。
「くっ!」
再び剣で受け止めるが、剣はより大きく折れ曲がってゆく。
(こんな時にアルブレヒトでもいれば!)
遂にはいないもののことまで考えるほど彼は追い詰められていた。
その時であった。
「えいっ」
誰か男の声が聞こえた。
ドガッ――
鈍い音が響く。
(何だ?)
顔を上げる。
魔物の頭部が目に入る。
(こ、これは!)
頭蓋骨に金槌がめり込み、ヒビを入れていた。
「お嬢様の命令を受けて参りました!」
廊下に立っていた人物、彼は……
「お、お前は!」
「このルドルフ、不肖ながら助太刀させていただきます!」
ナスターシャの執事、ルドルフであった。
予想外の救援、現る――
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