059話 そんな部員は要らない
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部室に用意されていたホワイトボードを引っ張り出し、みんなの見える場所に持っていく。
たったこれだけのことで一気にミーティング感が増す。
何をするにしてもまず形から。
そうすれば、自ずと気持ちも入ってくるものだと思う。
「まず、これは最初にみんなへ伝えたいおきたいことがあります」
大事なことをこれから話すので、敬語を使って改まった空気を演出する。
「これからの雅野のサッカー部では、私が部長代理として動こうと思います」
部長の不在はサッカー部として大きな問題だ。
何をするにしても決定権や指揮権を持つ人間が必要不可欠。
ましてや、顧問もサッカーの知識が疎いのであれば尚更だ。
だからこそ、難色を示す者がいてもおかしくはない。
年齢は関係ないと言っても、まだ1年生の分際でデカい口を叩いているのだから。
「良いんじゃない? アタシ達1年は元々そのつもりでいたし。まぁ、先輩方がどう思ってるかは、聞かないといけないでしょうけど」
「私も賛成です。春陽さんが1番サッカー部の為に動いてたから」
「もちろん、ウチもさんせーい!」
嬉しいことに1年組は全員賛成。
なんとなく否定はされないと思っていたけど、いざ部長代理という部分を形式的に担うとなると、多少なりとも不安はあった。
身近な人間には認められていた事実が可視化されて、ひとまずは安心。
気になるのは先輩達の反応か。
特に、獅子王先輩は副部長。
順当に行けば、部長不在の現状をまとめるのは彼女になるのが妥当だ。
「俺もそれで異論はないぜ。そもそも、俺達が文句言える立場でもないしな」
獅子王先輩は視線だけで他の2人にも確認を取る。
2人は静かに頷いた。これで晴れて満場一致。
今日最も重要な議題に進む為には、俺が部長代理であることが必須条件だったのでまずは一安心。
今後の練習方針や想定している戦略の共有、昨日の試合のフィードバックなどを進めていく。
いつ、あの話を切り出すのか。
タイミングを窺ってはいるけれど、どうしても切り出せない。
時間は着々と過ぎていき、話す内容も少なくなって来た。
誰がミーティング終了を促してもおかしくない。
ここは覚悟を決めて話出す他ない。
「最後に、みんなへ共有しておかないといけない重要事項があります」
終わりに差し掛かり、緩んでいた空気がその一言で一気に引き締まる。
「本日、ミーティングに参加していない奏を除いた部員の代わりを探します」
「待て、待て、待て。それはいきなり過ぎないか?」
「灼巴の言う通りや。ちょっといきなり過ぎやろ」
「先輩達の言い分は分かります。ただ、彼女達も部活に参加する意思がない以上、仕方のない選択なんです。昨日の練習試合もそうですし、今日のミーティングのことだってそう。ヴァルキリーカップ優勝を目指す上で、中途半端な覚悟の人は要らないですから。簡単に言えば、実質的なクビになってもらいます」
言葉は濁さない。
忖度をする必要もない。
実際、堂免先輩は心を入れ替えてこの場に参加した。
それが出来る人間もいる。
では、出来なかった人間はどうなるのか。
優しく手を差し伸べる?
そんな甘い考えが通用するはずがない。
もし、仮に手を差し伸べて参加したとしても、いずれ綻びが生じる。
自主的に参加した訳じゃない、本当はやりたくなかった。
そうやって他人を言い訳に並べて、逃げ道を作る。
俺が1番良く分かってる。俺もそうやって生きた。
だから、彼女達の考え方を否定はしない。
それどころか良く分かる。
良く分かるからこそ、俺は切り捨てる決断をした。
「……当てはあるのか?」
「ちょ、待ってーや灼巴。まだ話進められても」
居ても立っても居られない堂免先輩が立ち上がって抗議する。
彼女も本来は切り捨ての対象に含まれていた。
本人もその事に気がついたはず。
今日、参加したかどうかの差。
たったそれだけの差で、切り捨てられるのが受け入れられない。
一方で、獅子王先輩は冷静だった。
状況を咀嚼して飲み込んで話を進める。
「当てはないですが、今からでも探しますよ。新入部員を3人か4人は」
「な、なんで4人なんですか? じゃなくて、なの? 11人いれば一応、チームとして成り立つと思うんで…けど」
猫屋敷先輩が当たり前の疑問を投げ掛ける。
「昨日倒れた奏をサブに置く為ですよ、猫屋敷先輩。彼女は1試合フルの出場が難しいですから」
俺の代わりに凛が答えた。
ミーティング中は基本受け身になって話を聞くだけだったので、退屈だったのかもな。
普段であれば、間を割ってでも意見をするタイプだけど、今回は部長代理初ミーティングの俺に花を持たせてくれたのだろう。
「じゃあ、俺から1つ提案がある。アイツらからやる気を無くしたのは俺にも責任がある。だから、新入部員が確保出来るまでの間、俺にアイツらを説得するチャンスをくれ。そして、真面目に参加すると約束させたらチームとして受け入れて欲しい」
真っ直ぐな瞳で俺を見つめる。
「良いですよ。真面目に取り組んでくれるなら、それはそれで戦力が増えるだけの話なので」
「ありがとう」
「でも、次の練習試合も早めに決めたいので、そんなに悠長には待てませんからね」
「分かってる。1週間あれば十分だ」
1週間。長いようで短い時間。
獅子王先輩が忙しくなるように、俺もかなり動かないといけない。
部員の勧誘から練習試合の取り付け。
練習だって怠れない。
立海山との試合が終わったばかりなのに、まだまだやらなければならない課題が山積みだ。
「じゃあ、今日はこの辺で終わりにしましょう。昨日が練習試合だったので、今日はミーティングだけで」
全員がお疲れと挨拶をして、荷物をまとめて部室を去っていく。
俺も荷物をまとめて、最後に部室の電気を消して戸締りまで終わらせる。
刈谷崎先生に鍵を返さないといけないが、その前に暗くなった部室を背にして、閉まっていた携帯を取り出す。
やはり、奏からの連絡はない。
「奏……。大丈夫なんだよな……」
アニメを見過ぎているせいで、この音信不通の状況が嫌な前振りにしか思えない。
頼むから何もないでくれと願って、携帯をしまい職員室へと向かった。
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