057話 新聞部、三千寺登場
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練習試合の翌日。
奏が登校しているかを確認する為に、D組へと訪れていた。
昨日倒れたことと、気付いたら帰っていたこともあり、一度顔を見ておきたかった。
教室の中を軽く観察してみるが、前回奏が座っていた席は空席になっている。
今日は休んでいるのだろうか。いや、ただ席を外している可能性も。
「前にも犬飼さん探してたサッカー部の人だよね」
一度だけ顔を合わせたことのある入り口付近の席の少女。
どうやら向こうも俺の顔を覚えていたらしく、向こうの方から声を掛けてきた。
「あ、そうそう。奏って今日学校来てるか、分かったりする?」
「あれ? 知らないの? 犬飼さん、今日から1週間お休みするって聞いてるけど」
昨日は奏も疲れているだろうからと連絡は控えていたので、1週間も休むなんて話は全く聞いていない。
ポケットの中にある携帯を取り出す。
真っ先に奏とのメッセージを開いた。
だが、昨日の集合時間の確認を最後に、以降連絡は無し。
1週間も休むようなことがあれば心配になるから連絡ぐらいして欲しいけど、何か言いたくない事情でもあったのかな。
無難な可能性としては、ウイルス性の風邪も考えた。
それだと1週間も休むのは納得出来る。
ただ、練習試合中にその様子は見られなかった。
倒れたのも風邪ではなく、運動によるものだ。
何かもっと他の理由があるのは間違いないだろう。
メッセージに心配していることと、良ければ事情を聞きたい旨を残して、そっとポケットに携帯を戻した。
「そうだ、ありがとうね。えっと、……」
名前を知らないので、何で呼べば良いか迷う。
いつもみたいに内心であだ名を付けるとしたらコケシちゃんなんだけど、本人の前では言えないな。
「そういえば、自己紹介とかしてなかったね。まぁ、最初あった時はこんなに2回も3回も顔合わせると思わなかったからさ。私、三千寺 真。部活は新聞部なんだよね、よろしく」
「新聞部なんだ。あの廊下に貼ってある新聞だよね、作ってるやつ」
偶々、目に入って読んだ覚えがある。
学校内のニッチな情報が載っていて面白かったんだよな。
「おっ、よくご存知で。1年生は全員で1年の教室エリアの1枚しか書けないけど、3年生になったら1人1枚書けるようになるんだよ」
学内新聞を1人で書くとなると相当大変な作業だ。
ネタ被りはなるべく控えるだろうし、文字数もかなりの量になる。
それでも嬉々として語る姿を見ると、よっぽど記者に向いていると思う。
「そうだ! サッカー部って、昨日、あの立海山と練習試合して勝ったんでしょ?」
「早速、噂になってたんだ。昨日の今日なのに」
「ほら、だってさ、ウチで試合してたらしいじゃん。バレー部の子が見てたっぽいよ?」
どうやら気付かなかっただけで観客がいたみたいだ。
情報をいち早く手に入れた三千寺は、試合についての話が聞きたくて仕方ないらしい。
「一応、相手は1年生だけだったから本気の立海山に勝った訳じゃないんだけどね」
「あれ? そうなの? 聞いた話だと、結構有名な2年の選手が出てたって」
阿久間先輩のことを言っているのだろう。
確かに彼女も試合には参加していた。
だけど、フル出場ではなかったし、慣れない1年の中に混ぜられ実力を発揮しきれなかったことを考えると、敢えて口には出さなかった。
そんなことは関係ない三千寺にとって、雅野が勝利したという事実も興味深いだろうが、女子サッカーの大スターが雅野にやって来た事実もまた興味深い話なんだろう。
「本当にちょっとだけだよ。フルで出てたらそう簡単には勝てなかっただろうね」
「ほぉほぉ、詳しい話を是非とも聞きたいところだけど……」
続きを言葉には出さず、教室の前に飾られていた時計を一瞥した。
時計の針は、休み時間の終わりを告げている。
話し込んでいて全く時間など気にしていなかった。
いくら教室が近いとはいえど、急いで戻らないと遅刻してしまう。
「また今度、ゆっくり話聞かせてね! 記事にしたいから」
「了解」
廊下を走る俺の背に向けて、身を乗り出して手を振る。
急いでることもあって、二つ返事でインタビューを承諾してしまう。
これを狙っていたのだとしたら、ちゃっかりしてるな。
でも、交友関係が広がるのは悪い話ではない。
新聞部ってことは校内の話題に敏感なはず。
明日にでも、校内の情報が必要になる場面が確定であるので、情報屋みたいな立ち位置として活用させてもらうかもしれない。
キーンコーンカーンコーン
「あっ……」
走っていた足が止まるチャイムの音。
もう間に合わないと悟った。
どうせ怒られるのであれば、走るのも歩るくのも大差ない。
ゆっくりと今後について思案しながら教室へ向かう。
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