052話 俺のあるべき姿
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同点になった。これはもう慣れた。
この試合では何度も繰り返されて来たことだ。
それよりも今の俺は、あの不思議な感覚の正体が気になっていた。
過集中やスキルとは明らかに違う何かを確かに体験したのだ。
俯瞰……と言えば、凡庸に聞こえるけれど、あの時の俺は神の視点でも貰ったみたいに視界が広がった。
いや、違うな。
あれはゲーム画面。
そう、エンジェルイレブンのゲーム画面のようだった。
味方と敵がハッキリと区別出来て、位置や進行方向が分かる。そんな感覚。
あくまでも感覚に過ぎないけれど、あの懐かしさは……。
咄嗟に指示が出たのも、いつもプレイしている状況に近かったからだ。
言葉で表すのは難しいけど、あと少しで何か掴めそうな気がする。
「……っち? はるっち? 大丈夫?」
「えっ、あぁ、英理奈。どうしたの?」
「どうしたのって。ずっとはるっちが固まってたから。何か考え事でもしてた?」
「ううん、大丈夫。なんでもない」
心配した英理奈が、わざわざ近くまで来て声を掛けてくれた。
その目には単純な心配以外に、不安も混じっている。
後半の終盤。次に得点を決めた方が実質的な勝ちだ。
そして、流れは阿久間のゴールによって一気に立海山へと。
唯一の救いがあるとすれば、得点を決められたことによって雅野のボールで試合が再開することだけ。
守備に関しては今のレベルで通用しないのは、かなり前から気付いていた。
だから、前半も全員で攻撃する策を立てた。
……次も同じ様に全員で攻撃するべきか、否か。
状況は今までと然程変わらないはず。
それなのに残りのチャンスを考えると簡単に決断出来ない。
獅子王先輩が攻撃に加わることを考えると、攻めは3人で事足りるはず。
残りの2人は守備に専念してもらうべきだ。
ただでさえ、相手の攻めは強く、味方は頼りない。
もしもの時を考えると時間を稼いでくれる人が必要になる。
「英理奈、杏と一緒にディフェンスは任せた。絶対、点決めてくるから。絶対点決められないでね」
「結構、難しいことを言ってくれるじゃん。 でも、それがウチの仕事だもんね。出来ないとは言えないよ」
「そんなに気負わなくても大丈夫だよ。何事もなく、得点するからさ」
英理奈の背中をトントンと叩いて、少しでも安心させようとありきたりな言葉を掛けた。
俺が遅れてポジションにつくと、止まっていた試合が再開する。
凛から獅子王先輩へのパス。
スピードを活かした速攻かと思ったが、凛とパスを回してじっくりと前へ出る。
失敗出来ないプレッシャーが行動を慎重にさせているのかと思った。
だけど、そうではないと気付く。
位置が悪い俺が前へ出ることを2人は待っているのか。
言葉には出さなくても、何度も向けてくる視線からそのことが分かる。
「遅いッ! 春陽!」
凛の叱責が届く。
この試合で何度彼女に怒られたことか。
恐ろしくて、カウントするのはやめておく。
怒られながらもボールを受け取ると、待っていたと言わんばかりに詰め寄ってくる立海山の選手達。
どうやら3人の中で1番穴だと思われているのは、俺らしい。
獅子王先輩と凛は全身から湧き上がる圧を感じる。
比べて、俺は過集中を使っても優秀止まり。
俺と2人の間にはまだ越えられない線引きがある。
それは事実だ。
今はまだ変えようがない。
だからこそ、受け止めて前向きに立ち向かう。
「ボールはいただくよっと!」
ドリブルで突破しようとしたタイミングを狙って、相手も仕掛ける。
(……あれ、またこの感覚だ。なんか……あと少しで何もかも分かりそうだ)
体を入れてコースを塞いで邪魔をする。
ガッツリ抑えられて前に出るのがキツい。
だけど、相手も抑えるので精一杯。
このまま身体をぶつけながら行けば、先に触るのはどっちか分からない状況。
フォローに来たもう1人がボールを確保しようとしているのが見える。
連携が上手いのは相手も同じって訳か。
連携……。
その時、目の前のボールを取ることよりも別のことが頭の中を埋め尽くす。
あった。俺の強みが、まだあった。
EXの複数所持でも、才能の上限解放でもない。
俺にでも出来るものが。
「あぁー、もう取られてんじゃないわよ!」
折角のチャンスだったのに、ボールを安易と取られてしまう。
怒りを隠し切れない凛が、カバーに入ろうとする。
でも、そうじゃない。
凛に掌を見せて、待つ様に指示を出す。
ミスを犯した俺からの指示。
一瞬、声を荒げそうになるが、意味を理解して前に走り出す。
「ったく、世話の焼ける後輩だな」
獅子王先輩の方が早くカバーに回っていた。
だから、わざわざ凛を動かす必要はないと判断した。
お世辞にも上手いとは言えない守備でありながらも、ちゃんとボールを取り返すことに成功する。
「今度は取られるなよ、朝花」
獅子王先輩が近くにいた俺にパスを回そうとする。
予め走り出していた凛とは距離が空いているので、当然の選択だった。
しかし、俺ではなく凛に出すよう指を指してアピール。
咄嗟の注文に慌てるでもなく、冷静に対応する獅子王先輩。
試合経験があるから、慣れているのだろうか。
振り切り掛けた足を止めて、凛に方向を変える。
今、この瞬間試合を俺が動かしている。
そして、見える。ゴールまでのルートが淡い光の様にぼんやりと。
やっぱりそうだ。これが俺の力。
人を動かして、先を読み得点に繋げる司令塔としての才。
「やっと覚醒ってやっちゃな。マイフレンド」
勘付いていて動く悪魔が1匹。
この試合で勝つ為には、俺が成長して越えなければならない相手。
阿久間 莉里は常に絶望を呼ぶ。
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