051話 ゲームリセット
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立海山の動きは至ってシンプル。
ボールを拾ったら、真っ先に阿久間の位置を確認。
常に阿久間主体のプレーだ。
1年生はみんな監督にアピールをしたい。
秋風と毒島がベンチに下げられた時点で、2人のレギュラー入りは何となく理解しているから。
それでも、気持ちを必死に押し殺しているように思えた。
きっと監督の意図を汲み取ろうとした結果なのだろう。
1年ではない選手、それもレギュラーのエースストライカーを出した。
つまり、どんな手を使ってもこの試合に勝たないといけないというメッセージ。
そう感じても不思議ではない。
逆転を許してしまう不甲斐ない結果。
ここまでの点数は殆ど秋風と毒島が掴み取ったものという事実。
どれを考慮しても阿久間投入に文句が言える立場ではない。
ならば、残された選手ができる事は1つ。
自我を押し殺してでも勝つ。ただ、それだけ。
「上がるねー! 良いねー! っぱ、サッカーは見てるだけじゃ、面白くないよねー!」
結果、阿久間を調子付かせる。
彼女の様子を見る限り、スキル『テンションバフ』の効果も発動していそうだ。
ただでさえ高いパラメータに拍車が掛かって厄介極まりない。
「阿久間ー、こうやってまともに戦うのは中学振りだな」
「お久しぶりですねぇー、獅子ちゃん先輩」
獅子王先輩が止めに掛かる。
今の獅子王先輩なら、勝つ可能性だって……。
いや、それは俺の願いであって、現実と向き合っての考えではない。
気付いていながらも、目を背けるのは誰にだって出来ることだ。
そうではなく、俺に出来る事をやらねば。
「獅子ちゃん先輩、なんか楽しそうですね」
「お前もな、阿久間ッ!」
先に仕掛けたのは獅子王先輩。
1番の強みであるスピードは接近戦で封じられている。
何度もボールを狙ってチャレンジするも、阿久間はのらりくらりと躱すばかり。
覚悟を決めた獅子王先輩の心を折りに来ているとしか思えない。
「どうしたんだよッ! お前、そんなもんなのか!」
「獅子ちゃん先輩、あーきた。そんじゃ、そろそろバイバーイ」
足の裏をボールに這わせながら前に出す。
猛獣に餌でも与えるような所作。
罠だと獅子王先輩も分かっているが、何もしないというのは出来ず喰らい付く。
が、獅子王先輩がボールに触れることはなかった。
静止した状態からのルーレット。
闘牛士のように鮮やかな身のこなしでひらりと躱す。
敵ながら天晴れ。なんて思っている場合ではないか。
このまま放置すれば、確実にペナルティエリアへ侵入する。
ペナルティエリアに入れば、あの強すぎるEXスキルが発動。
「やっとフィールドで会えたね、春陽ちゃん!」
「私が来るのも想定の範囲内ってところかな」
「そうだと良いなと思ったら、本当にそうなっただけなんだなこれが」
獅子王先輩のフォローへ息を殺して回ったつもりが、容易く看破されてしまったみたいだ。
だけど、分かっていても時間は稼げる。
数秒で良い。
それだけ稼げれば、獅子王先輩も合流して他の選手にパスを出さざるを得なくなる。
「ふーん、意外と普通……かな?」
ここで阿久間が味方にパスを出した。
ピンチでもないこの状況で?
もっと自分自身の力でゴールを狙う、我儘なプレースタイルのはずなのに。
俺の勘違い。それともストーリー後の空白の期間で心境の変化があったのか。
いや、今考えるべきなのはどうしてなのかよりも、現状についてだ。
事実として彼女はパスを出した。
足下にもボールはない。
こちらの望んだシチュエーションだ。
「杏、ストップ! そのままそこのスペース潰して! 英理奈、もっと寄せて良い! 圧掛けて!」
……なんだ、この感覚。
ゲームをしている時に似ている。
視界が広くなって、全体の状況が薄っらと頭に入ってくる。
上手く言葉に出来ないけど、この感覚を物にしたい。
いや、しなければならない。
だけど、試合は待ってくれない。
杏と英理奈が指示通りに動く。
ボールホルダーはアクションが遅れた。
パスを出すか、自分で前線を上げるか。
2択しかないけど、2択もある。
迷いは致命的な時間を生み出す。
「ゆっくりで良いよ、学善寺ちゃーん! 焦らず、ボール下げて!」
阿久間も味方へ指示を飛ばす。
その指示を聞いて、ボールホルダーの学善寺がどう出るのか。
気になって視界を移してしまった。
「あはっ、……引っ掛かったぁー」
俺の視線を外させる為、わざと声を張り上げて指示を出したのか。
だとしても、指示を聞いてボールを下げたら、テンポのロスは免れない。
体勢を立て直すくらいの余裕はあるはず。
ボールは真っ直ぐ阿久間の方へと蹴られた。
最初から打ち合わていたかのように、至極当然に。
そして、最悪の事態は留まることを知らない。
[警告: 阿久間 莉里の EXスキル"悪魔の翼"が発動]
悪魔の翼が発動したということは、同時にペナルティエリアに入ったことを意味する。
敵であるから言いたくはないが、阿久間 莉里という選手はその距離ならシュートを外さない。
誇張でも、崇拝でもなく、紛れもない事実として。
「はい、これでリセットやんねー」
阿久間のシュート。少し癖のある脱力したフォーム。
ゆったりとしたテンポから放たれたボールは、猫屋敷先輩が反応する間も無く、ゴールへと吸い込まれていく。
後半36分、4対4の同点。
決着は次の1点で決まると言っても過言では無い。
集中力だけでは最早足りない。
その一歩先、自身の限界をどれだけ引き出せるかの勝負になるだろう。
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