050話 悪魔、降臨
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「あちゃちゃのちゃちゃちゃっー! 監督ぅー、流石にこれはまずいんじゃあーないの? 練習試合とはいえ、逆転されちゃってるよ?」
「まだ1点差だ。こんなことはよくある。焦るには早い」
「いやいや、ご冗談を。相手は大半やる気ない相手だっちゅーの。それ相手に逆転されて焦る必要がないは無理あるんでねーの? 分かってんでしょ、監督。……流れは完全に雅野だ」
いつものおちゃらけた口調から一変して、重く真面目に話す阿久間。
「だろうな」
「だから、ヴァルキリーカップで負けたんだよ。練習試合とか、公式試合とか関係なく、立海山は最強でなくちゃいけない。少なくとも莉里はそう誓った。だけど、このままでは負けちゃう。監督、やる事はもう分かってるよね?」
「出さんぞ、お前は」
1年間、彼女を見てきた古枝。
皆まだ言わずとも発言の意図を理解出来た。
だけど、事前に1年だけを出すと決めている。
自分で決めた事を自分で破る訳にはいかない。
古枝の性格ならそう思っているはず。
阿久間は一度断れることを理解していた。
彼女もまた古枝の事を1年間見てきたのだから。
それでも交渉を続ける。
オフの日にわざわざ雅野高校へやって来たのも、この練習試合に出場する為だ。
簡単に身を引く事は出来ない。
「秋風ちゃんと毒島ちゃんはレギュラー確定したようなもんでしょ?」
「まだ分からんがな。まぁ、かなり活躍しているのは事実だ」
直接的な表現は避けているものの実質確定したと言っているようなもの。
ベンチにいた1年生は古枝の言葉を聞いて、絶望の表情を浮かべる。
「2人はベンチに下げたて、他の1年も試してみたいと思ってた頃なんじゃないかにゃ? でも、下げたら確実に負けちゃうの確定だし、困ったもんだよねぇー」
「お前という奴は……。いつもワガママに振り回される」
「なんだかんだ言ってワガママに付き合ってくれる監督のこと好きだぜ、ベイベー」
「お前は黙って着替えてこい。阿久間と学善寺、交代だ」
もう1人選ばれたのは、阿久間に座られてしまった子。
阿久間から使う可能性がないと言われ、内心不安でいっぱいだった。
なので、名前を呼ばれ時に喜びで一杯になり、勢い良く立ち上がる。
「は、はい! ありがとうございます!」
「礼を言うな、結果を残せ。今日の1年に言えるのはそれだけだ」
「問題ないです。最初からそのつもりですから」
遂に逆転した良い流れ中で、立海山の選手交代が告げられる。
誰を下げるのだろうかと注目していると、まさか立海山1年生チームの中で主力の秋風、毒島。
チャンスと思う反面、何故だと驚く気持ちもある。
勝っている状況ならまだ分かる。
2人を下げれば、その分他の1年も試せるから。
でも、負けている状況では傷口を広げるのと同意義。
2人の代わりになれる選手は───。
立海山のベンチを見て、心臓が跳ねる。
想定していた最悪の事態。
交代する選手の1人、それはエンジェルイレブンで何度も見てきた最強の一角、阿久間 莉里だった。
「やっと出てきたか、お山の大将が」
今から喧嘩でも始めるのかと言いたくなる、指をポキポキと鳴らす仕草を横で見せる獅子王先輩。
俺とは違い、戦いたくてウズウズしている。
俺が必要以上に阿久間を神格化しているだけなのかもな。
ストーリーの主要人物。深掘りされているエピソードもいくつかある。
そして、あのステータスと実績。
見ているだけで強いと分かる。
でも、それは画面で見た時の話だ。
目の前の阿久間という人間を見て、感じろ。
ステータスに差はあれど、100%勝てないと断言する相手か。
勝手に諦めてるだけだろ。
「おーい! 朝花 春陽ちゃーん!」
大きく手を振って、わざわざ皆んなに聞こえる声で話し掛けてくる。
この状況で反応しないわけにも行かず、多少の苦笑いと共に小さく手を振り返した。
「やっぱり君はすごいね」
「何の事ですか? 実力でいえば、まだまだですよ。阿久間先輩のお眼鏡にかなうものなんて何も」
「謙遜しなくても良いのに。実力"も"すごいじゃんか」
「も? 他にも何かあるの?」
敢えて強調する言い方に疑問を抱く。
思い返せば、初めて会った日も不思議な点があった。
どうして彼女が連絡先と名前を聞いてきたのか。
わざわざ練習を抜け出して、息を切らすくらい急いで。
俺のどこに興味を持ったのだろう。
「言葉にするのは難しいけど、近しい言葉を上げるならカリスマ性って奴かな。それもごく一部の人にしか出せないカリスマ性。例を挙げるなら天ノ宮の唯蘭ちゃんと同じ」
唯蘭。その名前を俺は知っている。
公式が設定したエンジェルイレブンの主人公の名。
その主人公と俺が同じ?
カリスマ性なんて曖昧な言葉で表現されているけれど、天川 唯蘭と朝花 春陽の2人に同じ要素は1つとしてない。
目に見えないものだってそうだ。
にも関わらず、断言する阿久間。
「楽しみにしてるからね、春陽ちゃん」
「期待に添えるよう頑張ります」
ありふれた返事をする。
今は阿久間の言葉で集中を乱されている場合ではないから。
彼女が出てきた事実。
これをどう対処するか考える方が先だ。
ガッツリ引いて逃げ切るか。それとも、点の取り合いを続けるか。
どちらを選ぶにしても、最終的に阿久間という存在が邪魔になる。
対策を考えつく前に試合再開となった。
残り時間は20分弱。
短いようで長い時間。
それが終われば、決着が着く。
その時に笑っているのが、雅野であると信じたい。
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