043話 背中を押す1点
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秋風は満面の笑みを浮かべていた。
自分の想定を覆す者の登場。
未知の感覚に心躍らせているのだろう。
強者の余裕とでも言ったところか。
勝ち負けよりも好奇心が優っている。
「貴方、面白いけど動きが硬いですよ?」
どうやら気付かれたみたいだ。
杏が初心者である事を。
ただし、それはこちらにとって都合が良い。
杏は普通の初心者とは全く異なる。
神が授けたとしか思えない彼女の性格にあったEXスキルが火を噴く。
「………足を前に出して半身。……相手の利き足は右。……右を大きく空けて」
「考えを口に出し過ぎですよ。これじゃあ、予測するまでもない」
杏が思考を張り巡らせているうちに、秋風はドリブルを仕掛ける。
技術よりもスピードを意識した単純なフェイント。
大胆に開いた右のスペースに誘い出された振りをして、自信のある利き足を使って左へ切り込む。
「……初動が右なら、本命は……左ッ!」
「惜しいですね、その観察力! もう少し技術があれば、……!?」
杏の言葉を聞いて右へシフトチェンジした秋風だったが、何かを察知して寸前で抜き去るのをやめて後退する。
「最初から右に誘導する為の罠でしたか」
口では左と言っていながら、全く揺さぶれる様子が見えない。
それどころか強引な左の突破という選択肢を排除して、徹底して右を意識したままだった。
これ程までの知恵と演技力、誰に教わったのか言わずとも頭にチラつく。
ボールは奪えなかったが、時間を稼げたのは大きい。
背後からは凛が距離を詰めて、完全に逃げ場を失っている。
ただし、相手はまだ過集中が切れていない。
そこだけが唯一の懸念点と言える。
息を整えた秋風が再度、杏に向けて走り出す。
足下のボールがふわっと宙に上がった。
奇妙なのは杏の頭上を超える高さではないことだ。
肩ぐらいの高さ。杏と秋風の丁度間くらいに放り出されている。
(何か仕掛けてくる……。でも、こっちの方が先に触れれば)
肩下にボールを当てて、地面にボールを落とす。
たったそれだけの動作を秋風は見逃さなかった。
ボールを受けたようとしていた1秒もない時間、杏の身体は向かえる体勢になって硬直していた。
意識も秋風からボールへと移っている。
ボールに触れて、前を向いた時には既に超至近距離。
杏が感じているのは身震いする程の威圧感だろう。
ボールが地面に着くよりも前に秋風が爪先で触れる。
背後を振り向こうにも体勢が悪い。
下手に動けば、転ぶリスクもある。
そうなれば、時間のロスは大きい。
「来年が楽しみですね、貴方は」
杏のフォローは良かった。ただ相手が悪い。
秋風の言う通りもっと時間があれば、対等に渡り合えたのかもな。
でも、役割としては十分だ。
「さっきは出番を貰ったので、次は活躍してくださいね星さん!」
鋭いパスが放たれた。
「やっぱ、最後はそこなんだね」
そこにはちゃんと俺がいる。
毒島にボールは届くことなく、シャットアウト。
杏が時間を稼いでくれていたおかげで、存在感を完全に消せたからこそ成し得た。
だから、無駄なんかじゃなかった。無駄なんかにはさせなかった。
俺達の攻撃はまだ終わらせる訳にはいかないんだよ。
「可能性なんてもんじゃなかったですね、これは。現在進行形の進化してますよ、雅野さんは」
そのまま一気に駆け上がる。
相手の意表を突いた速攻。
杏とのワンツーを挟みながら、勢いそのままに斬り込む。
前半31分。俺、朝花 春陽による同点弾。
圧倒的に不利な展開ではありながら、未だ振り放されず食らいつく。
雅野の意地を見せたゴールとなった。
「ナイスアシスト、杏! なんとか同点に持って行けたよ」
「……いえ、私は特に何も」
ゴール直後、真っ先に杏の下へ。
影の功労者に向けて賛辞を送らなければと思ったからだ。
本人は首を振って、否定している。
勉強してきたディフェンスが秋風に通用せず、少し落ち込んでいるのだろう。
色々と褒めてはみるが心ここに在らず。
さっきの反省を繰り返しているように見えた。
「そんなことないわ。アンタはアンタの仕事をした。アレはアタシが……」
「凛さん……、あの気持ちは嬉しいですけど」
「ナイスゴール! って、あれ? なんか落ち込んでる?」
最後にやってきた英里奈が重たい空気を察する。
「まーたそうやって! いちいち、落ち込んでたらキリないよ。ほら、ちゃんと前向いて」
英里奈が敵陣に向けて指を指す。
自分達のことでいっぱいだった俺達は、そこでようやく立海山の方を見た。
秋風と毒島を中心に作戦を立てているようだ。
目付きは最初の舐めていた時と全く違う。
ギラギラと強い獲物を狩る目。
そしてきっと、俺達も同じ目をしている。
「あの様子、絶対こっちの対策を立ててる。つまりさ、脅威に感じてるってことじゃんか。それなのに、まだ落ち込むつもりなのみんな?」
「別に落ち込んでないわ。ただの……フィードバックよ。そうでしょ、杏」
「えっ!? あ、はい! そうです、フィールドバックです」
「なら、よろしい。そして、はるっち」
俺にもなんかあるのか。
びっくりして背筋を正す。
これじゃあ、まるで母親に怒られる子供みたいだ。
「ナイスゴール!」
「……うん、ありがとう」
そう、忘れてはならない。
俺達は同点にまで追い付いたんだ。
それと同時に勝てる可能性を示した。
前半の残り時間、その可能性を現実にしてみせる。
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