042話 残された最終兵器
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杏は状況を飲み込めていなかった。
最初に聞いていたフォーメーションとは全く異なる戦術。
しかも、彼女はデフェンスを中心に練習をしている。
今更、攻撃に参加しろと言われてもどうすれば良いのか分からないのだろう。
「わ、私、大丈夫なんですかね? 前にいて」
「大丈夫だってあーちゃん! もしも、ボールを奪われた時にすぐカバーするのがあーちゃんの役目だからさ」
「……不安だけど、みんながいたら大丈夫な気がして来ました」
英理奈がすかさずメンタルケアに入った。
本来であれば、俺達からも何か一言声を掛けてあげるべきなんだろう。
でも、俺も凛もかなりの神経を研ぎ澄ませているから、たった一言さえも喉より上には出て来ない。
細かいフォローの出来る英理奈には本当に感謝することばかりだ。
「おい、1年坊共。こいつは一体どういうつもりだ?」
獅子王先輩が背後から声を掛けて来た。
この問いに返答すべきか、一瞬迷う。
話したところで彼女は関係のない人間だ。
攻撃に参加する訳でもないし、部員を説得する訳でもない。
そんな人に割く時間があるだろうか。
「仮にも俺は先輩だぞ。無視すんじゃねーよ」
「その先輩がわざわざ理由を尋ねるなんて、ご苦労なことね。どうせ協力するつもりがないなら黙って見てれば良いのに」
「あぁ? 試合棄てるような真似してるから、どういう意味だって聞こうとしてるじゃねーか」
薄々勘付いてはいたが、凛と獅子王先輩は水と油の関係にある。
どちらも発言を曲げて相手に合わせるようなタイプではない。
だからこそ、こうやって試合中にも関わらずぶつかり合う。
「ふっ……。そう見えるのはアンタが負けることばかり考えてるからでしょ」
「さっきから口の聞き方がなってねぇな! 俺は先輩───」
「先輩だから、何? 敬ったら心入れ替えて、真面目にプレーするの? この際、ハッキリと言わせてもらうけど、最初から負けるつもりでここに立っているアンタは、先輩でもなんでもない、ただの置き物だから。こっちは命張ってやってんの、邪魔しないでよ」
「俺は……クソッ。お前に……何が……。もう良い、好きにしろ」
獅子王先輩が悔しそうに立ち去っていく。
そっちの言い分があるのも理解はしている。
だけど、今はその感傷に寄り添える余裕はない。
「アンタは余計なこと考えなくて良いから、春陽」
「分かってるよ。今はゴールだけ見えれば良い」
何回目かのキックオフ。4人全員で飛び出した。
凛と英理奈の見事な連携が生み出す無駄のないテンポ。
そこに俺と杏がどうにか食い付いてサポートに回る。
たったそれだけの付け焼き刃。
種も仕掛けも芸もない力技。
だけど、相手は混乱中なのが追い風になっている。
秋風によって崩された3つ目のハンデ。
それを継続するべきなのか、否か。
まともに話し合えていなかったのだろう。
動きに躊躇いが見える。
きっとこのワンプレーが終われば、すぐに修正される些細な弱点。
でも、このワンプレーあれば十分だ。
絶対に得点してみせる。
「今度は4人で! 中々に面白いですね!」
やはり立ちはだかるのは秋風。
満面の笑みで凛へプレスを掛ける。
相手は俺と同じく過集中状態。
攻撃だけでなく、守備も一級品レベルのはずだ。
凛もそれを肌で感じている。
オフェンスには定評のある凛が、周囲を見渡していた。
多分、英里奈の場所を探しているんだろうな。
「倉鷹コンビ、私でも知ってるくらい有名ですよ! だから、……封じちゃいました」
封じる方法は至ってシンプル。
毒島が英里奈をマンマークしていた。
本来であれば、それしきのマークで止まるほど容易い連携ではない。
……本来であればの話だ。
あのマークは、あくまでもパスコースを絞るために配置された駒。
振り切られさえしなければ、ディフェンスの上手い下手は関係ない。
選択肢さえ絞れたら、英里奈に届くよりもずっと前にボールは奪い取られる。
未来を予測した秋風によって。
「あそこの10番さんにボール回さないんですか?」
「……おしゃべりが過ぎるんじゃない?」
「フィールドに立つと興奮しちゃってつい。あぁ、でも、話逸らさないでくださいよ。折角、貴方が10番さんにボールを渡すよう仕向けたのに」
「……まるでフィールドを支配しているような口振りね」
凛が仕掛ける。
秋風に何を吹き込まれたのか。
俺がフリーだったから、パスをすると思って待っていたのに。
「無茶だ、凛!」
「無茶かどうかはアタシが決める」
彼女の得意とするシザースで相手を惑わす。
左へ右へと揺さぶりながら、時には少し前へ前進してみる。
しかし、全く食い付いては来ない。
全てを見透かしたような目で凛をじっと観察していた。
ならばとスピードを上げて勝負に出た。
秋風は涼しい顔をしてながら、凛を追い掛ける。
どんどん加速して最高速度に達した時、凛の力を発揮された。
緩やか減速で相手の注意を引く。
如何にも今から何かしますよと言いたげな動作だ。
左の足裏を器用に使い、素早くボールを引き込む。
体を右に寄せて、視線で進路を確認。
一気に方向転換する素振りを見せる。
「引き戻したボールをノールックで、同じ進路へ再度蹴り出す。やはりそれが正解だったみたいですね」
ズバリ言い当てた、秋風。
凛の足下にあったボールが奪われる。
今、1番厄介な人間によって。
あそこでパスを選択していれば、こんなピンチは訪れなかった。
仲は深まっているけれど、彼女の中にはまだ拭えない何かがあるのだろう。
それを否定はしない。凛なりに譲歩しているのを理解しているからだ。
でも、この現状は変わらない。
秋風からどうやってボールを奪い返せば……。
「わ、私だって! 活躍してみせます!」
「……!? 面白い! これは最高のイレギュラーです!」
この危機的状況から救いの手を差し伸べたのは、いつだって無限の可能性を見せてくれる雅野の秘密兵器、藤村 杏だった。
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