040話 それが仲間だから
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「……ゴールしなきゃ」
「動かないでねぇー。今から担架持ってくるから安静だよぉ?」
「でも、先生。私……」
「大丈夫、大丈夫だからねぇ」
救護に心得のない俺は、刈谷崎先生に全てを任せて黙ってみているしかなかった。
ただただ悔いるように握る手。
疲れ切った犬飼が、弱々しくも握り返す。
「ほら、朝花ちゃんもそんな顔しないのぉー。死ぬ訳じゃないからねぇ。ただ疲れただけだよぉ」
「……先生の言う通り。少し休めば、動ける」
犬飼は、またそうやって嘘を付く。
どうしてそこまで背負い込むのか。
このタイミングでは聞こうにも聞けない。
「はーい、嘘つかないぃ。今日のところは、犬飼ちゃん帰ってもらうからねぇ?」
「でも、まだ試合が」
「でもも、だってもないよぉ。親御さん呼ぶから待っててぇ」
「ダメッ!」
初めて聞く犬飼の大声は、強い否定から来るものだった。
「ダメって言われてもぉ……。これ以上は参加させられないし、迎えに来てもらって家で安静にするのが1番良いと思うんだけどぉ」
「……日陰で休めば、すぐ良くなります」
「……分かったぁ。本人がそういうならそうしましょうかぁ。でも、前半が終わるまでの間は保健室のベッドで寝ててもらうからねぇ? 後半からはベンチで見学ってことでぇ」
「先生、私……」
刈谷崎先生の判断は、犬飼に寄り添った最大限の配慮だった。
前半もベンチで休めば、肉体は回復しても、精神的疲弊は拭えない。
いや、確実に悪化する。
俺が同じ立場なら、自分だけがフィールドの外にいて、仲間がプレーしている状況を眺めるのは辛い。
ましてや、自分が抜けたことで10人になってアウェイの環境。
絶対に負けられない戦いなこともあって、自責の念に駆られてしまう。
だからこそ、試合の動きが見えない場所で回復に専念する必要がある。
「……ごめん、朝花。ごめん、みんな」
「何謝ってんの。本当に気に食わないわね」
「ちょっとちょっと、たかりん! この状況でそれはまずいって」
後ろから凛、英理奈、杏の3人が合流して来た。
「アンタが1人で背負って勝とうとしてる、その態度が気に食わないって言ってんの。目の前にいるアタシ達は何? 仲間じゃない訳?」
「……仲間」
「バカね。だったら、アンタはアタシ達を信頼して任せれば良いのよ。……奏が戻ってくる頃には、点差付けて勝っといてあげるわ」
凛の言葉にみんなが頷く。
犬飼に、いや、ここまで来たら俺も奏と呼ぶべきか。奏に頼られて迷惑だと思う人間はこの場に1人もいない。
それどころか、仲間としての関係性を少しでも深められる気がする。
「めっちゃ良いこと言うじゃん! 見直したよ、たかりん!」
「ふんっ、別にそんなのじゃないわよ」
「またまたー! 照れちゃって」
「丁度、アタシもイライラしてきたところだったのよ。あの薄ら笑いの裏表激しそうな勘違い女に」
カッコいい事言ったと思えば、かなり私的な理由が含まれていた。
こめかみに血管をピクピクと浮き上がらせながら、怒る形相はまさに般若そのもの。
シリアスな空気も一変。
いつもみたいに凛を宥めるお約束の展開。
それを見ていた奏がクスッと笑う。
初めて見る奏の笑顔。
この笑顔をもう一度見るために、俺達は絶対に立海山からリードを奪わないといけない。
「じゃあ、後は任せました。刈谷崎先生」
「はい、任されましたぁ!」
立海山のサブコーチによって担架に乗せられて、奏は一時離脱。
10人になってしまったフィールド。
人数の不利が広がっていく。
だけど、怖くない。
奏の気持ちも俺達が背負っている。
だから、大丈夫だ。
立海山がボールを拾った状態で笛がなったので、再開は立海山から。
ここでも俺の役割は変わらない。
毒島にボールを渡さないよう、マークに付く。
一度負けたからといって、フリーにしてしまったらそれこそ得点の機会を増やす。
「1人、倒れちゃったんだ」
「だから、何? 全然問題ないけど?」
今は毒島の嫌味を聞いている場合じゃない。
もっとプレーに集中したいのに、お構いなしに話し掛けてくる。
「あの子、大丈夫だったの?」
「いや、普通に休んでれば大丈夫だってウチの顧問が」
「ふーん、そうなんだ」
なんだ、この普通の会話は。
もっと奏が倒れた事に漬け込んで、感情を揺さぶりに来ると思ったんだけど。
ある程度の線引きが自分の中であるのか?
そうだったとしても、嫌な奴には変わりないんだけど。
立海山の攻撃が始まった。
雅野の1年は全員、自陣寄りの配置なこともあり、一気に攻め込まれる。
相手もそろそろ先輩達が、ただの置き物だって気付き始めているのだろう。
全く警戒する素振りを見せないどころか、敢えて先輩達の方向へ進んで行き、楽にボールを運んでいるよう思える。
「本当、世話の焼ける奴らばっかりなんだから!」
凛がボール所持者の進路に入って、相手とのデュエルが始まる。
この場面、本来であれば好ましくない。
凛をもっと積極的に攻撃へ参加させる環境が1番望ましい。
なのに、ここまで守備を徹底させてしまっているのが情けない。
激しい攻防。どちらも譲らず。
パスで逃げないように、毒島のマークを解いてパスコースを塞ぎに入る。
狙いに気付いた毒島が、近寄ってパスを貰いに行く。
ただ迂闊にはパスを出せない。
ボールを持っていた子に焦りが生じた。
味方の声、敵からのプレッシャー、絶たれた退路。
残された選択肢は己で道をこじ開けるのみ。
スピードを乗りながら、左右への揺さぶり。
広いスペースの空いている中へ行くと見せかけて、敢えて狭い外へ逃げようとする。
「よしっ! 突破した!」
「……馬鹿ね」
「実は1対2だったりして」
逃げた先に待ち構えていたのは英理奈だった。
ただでさえ人数の少ない雅野が、2人掛かりで止めに行く。
相手の虚をついた1発限りの完璧な連携。
これで相手の攻撃を完全に凌いだと……思った。
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