039話 犬飼奏はまだ孤独
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俺は、この世界に来て最強になれると思っていた。
ゲーム上での仕組みを理解し、自分なりの攻略法がある。
そして何より、エンジェルイレブンを愛していたから。
でも、そんな甘い話ではないと1試合目にして分からされる。
体はゲームのように自由に動かない。
選手はプログラムでなく、感情で動く。
唯一の武器が知識だったけど、俺の知らない情報も沢山。
挙げればキリのない想像と現実の解離に、頭がキリキリと痛む。
イージーモードな人生を楽しめるはずだろ。
もっと余裕があったはずだろ。
なんでこんなにも、苦戦しているんだ。
なんでこんなにも、悔しくなっているんだ。
考えれば考える程、この劣勢が嫌に目立つ。
でも、1つだけ言えることがあるとすれば、この逆境の中でも負けたくないと思う自分がいる。
諦めて投げ出すとか、面倒になって逃げ出すとか。
そんなダサい選択肢は浮かんでこない。
俺はまだ戦える。
それが分かっているだけで十分だ。
だって、俺がそうなら他の4人もそうだから。
「犬飼、ちょっとキツイかも知れないけど、ガンガン使っていくから」
「……問題ない。それが私の役目」
「気合い入ってんじゃん」
この試合、2人でセンターサークルに立つのは、これで最後だろうな。
ワンプレーが終われば、どんな状況であっても彼女を後ろに下げる。
いつもみたいに大丈夫だからと言うだろうけど、残りの試合時間を考えればフォワード続行は不可能。
だからこそ、ここは犬飼で得点したい。
ユニフォームの袖で垂れてきた汗を拭う。
気温はそろそろ20度前半を越してきた頃合い。
運動量が多いこともあって、地肌が汗ばむ。
俺の体力もじわじわと奪われていた。
これがまだ80分強続くと思うと、本職がサッカー選手の人を素直に尊敬する。
ホイッスルが鳴った。もう聞き慣れた音。
研ぎ澄まされた反射神経を使って、素早いスタートを切る。
どんな守備をしてくるのか未知数ではあるけれど、犬飼なら大体の相手は突破出来るはず。
「11番、警戒! 全員、定位置忘れないで!」
毒島の掛け声で、一斉に立海山が動き出した。
犬飼の方には、フォワードの1人が迫っている。
強引に突破することも出来るだろうけど、一度俺にボールを戻す様に要求した。
相手は犬飼を警戒している。
1人抜いたところで、2人、3人と来てしまったら確実にゴールまで持たない。
本人だって、体力の残量は自覚しているはずだ。
だから、素直に戻すと思った。
俺が知らないのは敵だけではない。
数日で仲良くなった弊害として、味方のことまで把握し切れていないようだ。
犬飼 奏は孤独に慣れ過ぎている。
「犬飼、こっちに! 相手来てる!」
完全に聞く耳がない。
彼女の目に映るのは、視界の奥にあるゴールだけ。
1人でボールを運ぼうとしている。
「……!? どういうこと?」
犬飼が1人目を抜き去ろうと速度を速めて、ボールを蹴り出したタイミングでそれは起こった。
ボールを奪う為に詰めてきたと思っていたフォワードが、一切犬飼に触れる事なく素通りして前線へ。
雅野のメンバーは全員呆気に取られていた。
これをサッカーと呼ぶにはあまりにも奇妙だ。
「よそ見してたらダメでしょ」
混乱に乗じて、1人の選手がボールを奪いに来る。
犬飼は直立不動のまま。
立海山のボールになるのも、秒読みかと誰もが思った。
隣にいた俺を囮に使ったパスフェイント。
相手は釣られて一歩足を踏み出す。
大きく開いた股下へ、鋭く速いボールを通した。
「まだまだ! もう1回チャレンジすれば!」
フェイントに引っかかりこそしたが、相手の選手も反応が速い。
負けじとボールを追いかけて、どちらが先に触れるか全く分からない緊迫した状況。
「町田ッ! 周りよく見て! 範囲外!」
いきなり聞こえる毒島の怒声。
その声を聞いた途端、焦りを見せながら相手の動きが止まる。
キョロキョロ周りを見渡しながら、両手を腰に当てて立ち往生。
それ以上の深追いはしてこない。
一見、意味不明の行動。
何がしたいのか分からない。
だけど、ここで毒島の言葉を思い出す。
『実はもう1つハンデがある』
1点を先取、1年だけの編成。それに加わるハンデ。
仕切りに気にしている前後左右。
始まる前に確認していたフィールドの寸法。
毒島がすぐに攻撃を仕掛けなかった訳。
犬飼が無視され、ドリブルで抜いた後に追いかけてこない。
「随分、舐めたハンデじゃねーかよ。クソッタレが」
1人1人が決められたエリアでプレーするってか。
どれだけ格下だと思えば、そんな発想になるんだ。
顧問の指示か、自発的な提案か。
まぁ、毒島がいることを考えれば後者だろうな。
どちらにせよ、こちらとしては好都合。
犬飼の勢いは止まること知らず、たった1人で5人抜きを成功させた。
ゴールは目前。あの距離で犬飼が外すとは到底思えない。
ここで追加得点をすることで、お前らにはハンデなんてあげている余裕はないと思い知らせてやれ。
「……あ、れ?」
(……おかしい。息が続か…ない。ゴールしなきゃいけないのに)
「犬飼? おい、犬飼!」
やはり、俺は味方のことを、犬飼のことを何も知らない。
犬飼はとっくに限界が来ていた。
視界に映る犬飼は、ふらつきながら残った力を振り絞ってボールを蹴ろうしている姿。
そして、自分の体重を支える体力さえ尽きてしまい、硬い地面へ向かって無抵抗に倒れ込んだ。
大丈夫、彼女は口癖のように呟くあの言葉。
鵜呑みにしてしまった俺を内心で責め立てた。
試合中断のホイッスルが鳴る前に、身体は勝手に動く。
どうか無事であってくれと祈りながら。
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