閑話 刈谷崎千伊の苦難
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今年、1年目の新人教師・刈谷崎 千伊。
いつも職員室でコーヒーを飲みながら、パソコンをカタカタと打っている。
授業は選択教科の保育・家庭。
偶に授業はあるけれど、大半は書類作成の雑用などを押し付けられている。
頼まれたら断れない性格の刈谷崎。
新人ということもあって、舐められているのだと本人も自覚している。
仕方がないので、苦労も経験の内。
そう思うことで今までは何とか乗り切って来た。
話は新学期が始まる前の週まで遡る。
刈谷崎は教頭に呼び出されていた。
担当科目の話は前持って聞かされていたので、何の話だろうと疑問を持つ。
彼女も大人なので嫌な顔はしなかったけれど、嫌な予感がしてならない。
職員室の一角にデカデカと置かれた教頭机。
踏ん反り返って、席に座る教頭の横に姿勢を正して立たされる。
刈谷崎には一切顔を向けず、何かの資料に目を通しながら話し始めた。
「えーっと、刈谷崎くんね。今年から雅野高校でね、頑張ってもらうんだけど。んー、まぁ、そのいきなりで悪いんだけど。……、君、サッカー部の顧問ね」
「はいぃ? いきなり顧問ですかぁー? 私、まだ1年目なんですけどぉ」
あまりにも無謀な決定事項に思わず不満が溢れる。
授業のことを考えるだけで手一杯の新人に、部活の顧問を任せるなんて不可能。
ましてや、世間で人気の高いと言われている女子サッカー部。
忙しいのは火を見るより明らかだ。
「あー、ごめんね。元々、顧問をしていた親原さんが今年から育休入るからさ。サッカー部の顧問誰かがやらないといけなくて。まぁー、他の人は手空いてないから刈谷崎くんに頼むしかないんだよね」
口では謝罪しているものの態度は太々しい。
決まったことだから仕方ないだろと言わんばかり。
刈谷崎も馬鹿ではないので、どう足掻いても事実は覆らないと分かっていた。
溜め息混じりに力無く了承する。
「気持ちは分かるよ? 部活って、サービス残業だし。君も分からないことだらけだろうから」
「そうですねぇー。ちょっと不安ですよぉ」
「その辺は多分、大丈夫だよ。前の顧問も特別何かしてた訳じゃないしさ。名前だけ貸してくれたら問題ないから」
教頭は軽く言って見せるが、実際のところそんな甘い話はないだろう。
大会や遠征、練習試合の処理など。
想像するだけで今から憂鬱になる刈谷崎。
「んんー、でもぉー、外部からコーチ?みたいなのを雇うとかはしないんですかぁ?」
「あはははっ! する訳ないでしょ! ウチのサッカー部は強くないからね!」
話を聞いている内に自分の気苦労よりも、サッカー部員への憐れみの方が強くなる。
顧問が転々とする環境、実質的に顧問不在と変わらない現状、そして何より期待されていないという事実。
こんなにも可哀想な部活があるだろうか。
教頭からの話が終わり、授業等の諸々の引き継ぎを受けて帰宅となった。
家までは徒歩での移動。
1本電車を乗り換えて、ようやく最寄りの駅に着く。
基本的には混んでいて、ぎゅうぎゅうに詰められた人を掻き分けようやく乗れる。
だが、今の時間は帰宅ラッシュよりやや早く、座席に座れこそしないが立っていても苦にはならないくらいの空き状況。
とは言え、最寄りまではまだまだ先。
鞄に入れてある携帯を取り出して、ぼーっとネットサーフィンをする。
最近のSNSは食べ物の写真ばかり出て来て、自分の求めるているのが食しかないのかと嫌気がさす。
昔はもっと運動や友達、旅行とか、青春っぽいこともしていたが、大人になるに連れて彼女も疲労が勝り、アクティブさを失っていった。
それがSNSに現れている。
「そう言えばぁー。私、サッカー部の顧問かぁ」
サッカーの知識がない刈谷崎は、慣れた手付きでサッカーのルールを検索。
検索欄の1番上にまとめられたAIの情報は、既に知り尽くしたものばかりを出してくる。
いくらサッカーを知らないとは言えど、国民的スポーツ。
そのくらいの基礎情報は分かっている。
「もっと……こう。うーん、……」
文句を言おうとした刈谷崎だったが、続きの言葉は出てこなかった。
気付いていたからだ。
自分が求めているのは、詳しいサッカーの知識などではないと。
この先、上手くやっていける保障なのだと。
だから、いくら検索しても出てこない。
いくら知識を付けようとしても満たされない。
元よりそれを分かっていて検索に手を掛けた。
画面を操作しないまま30秒が経過。
自動的に画面が暗くなり、やがてスリープモードに入る。
黒い液晶に映る刈谷崎の顔。
ニコニコとした穏やかな笑顔がトレードマークと自負していたはずなのに、口角は不機嫌そうに下を向いていた。
無理矢理、押し戻しても自然とまた下へ。
「上手く……行くと良いんだけどなぁ」
────
Prrr……Prrr……、
「うぅ、朝花ちゃーん。本当に大丈夫何だよね。繋がらないよ?」
「大丈夫ですって刈谷崎先生。受話器から耳離さないで」
ガチャ……。
「あっ、えっとぉ。私、雅野高校サッカー部顧問の刈谷崎 千伊と申しますがぁ。えぇ、えぇ、はい。そうですぅ。はい、お願いしますぅ。そうですねぇ、お任せしますぅ。はい、それでは失礼しますぅ」
「ねっ、大丈夫だったでしょ?」
「うん、そ、そうねぇ。決まっちゃった、立海山との練習試合」
朝花の言葉通り、立海山に電話して、適当に相槌を打つだけで、上手くことが進んでいった。
刈谷崎自身も何があったのか理解するのに苦しむ。
サッカーについて無知な彼女でさえも、最近覚えた強豪校の立海山。
それが雅野と練習試合を組んでくれるなんて。
しかも、これは全て朝花が準備したこと。
その行動力に驚きを隠せない。
チラッと朝花を横目で見る。
最初の頃に抱いて不安が、好奇心に変わっているのを感じた。
この部活がどこまで行くのか。
顧問としてではなく、一個人として面白そうだと。
視線を机の上に戻すと、身だしなみチェックの為に置いてあった鏡に目が移る。
そこにいた自分は、いつも通り口角を上げて笑っていた。
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