013話 無言の狼
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血相を変えて獅子王先輩が近寄って来た。
制服の胸倉を掴み上げて、キスをするのではないかと思うくらいの至近距離で睨み付ける。
瞳に映る俺は、それでもやっぱり表情が変わらない。
やると決めたら最後まで徹底的に。
これが俺のモットーだから。
「お前、発言には気を付けろよ。誰が軽々しくそんなこと口にして良いって言ったよ」
ここは他の生徒もいる廊下。当然、視線も集まる。
先生を呼んできた方が良いかなという声もチラホラ聞こえてきた。
騒ぎになるのはまずいと思い、獅子王先輩の腕を掴み、振り解く。
「どんなことをされても気持ちは変わりません。でも、獅子王先輩にその気持ちがないのも十分理解しています。なので、私はこの辺で失礼します」
「待て! 話は終わってねぇーぞ!」
一度も振り返らずに自分のクラスへと戻っていく。
待ってあげるのだけが優しさじゃない。
時には全力疾走で追い抜いて、立ち止まった先輩達の先へ行く必要だってある。
今までの雅野には、それが足りていなかった。
だから、俺がその新たな風になってやろう。
ホームルーム終了と同時に、勢い良く席を立つ。
既にまとめ終えていた荷物を豪快に背負いながら、同じサッカー部員でありクラスメイトでもある杏の席へ急ぐ。
「杏、今から他の3人を練習へ誘いに行くんだけど、付いて来てくれない?」
トントンと机を使って教科書を綺麗にまとめていた杏に誘いを掛ける。
用事があるかもしれないと思い、念の為確認を取ることにしたが、何で当たり前のことを聞いているんだ?という顔でこちらを見ていた。
「用事は無いですから、勿論ご一緒させてもらいますよ。それとも、昼休みみたいに私抜きで行くつもりだったんですか?」
おっと、痛いところを突かれた。
思わぬ角度からパンチにノックアウト寸前。
もしかすると昼休みに1人で行ったこと怒っているのか。
結果的には、あまり気分の良いものでは無かったし、来なくて正解だったと思うんだけど。
これを伝えてしまうと分かってないなと、呆れられてしまいそうなので、グッと堪えて苦笑いで誤魔化す。
「別に怒ってる訳じゃないんですよ?……でも、ちょっとだけ寂しいなと思って」
はぁ?可愛くね?
しかも、ちょっと頬赤らめてね?
今まで女子同士の可愛いって馴れ合いでしかないと思ってたけど、すげぇー気持ち分かった。
普通に可愛い、本心から可愛い。
良かったぁー、女の子で。
この表情見るの合法なんでしょ?
「可愛いなぁー、杏は」
「なんですかいきなり! ……恥ずかしいです」
どうやら口から漏れていたみたいだ。
ちょっと気が緩んでしまっていたかもな。
いくら本音とは言えど、節度を持って接しないと。
「こ、こほん。話を戻しますが、鷹津さんは練習に参加してくれますかね? それと犬飼さんも会ったことないから未知数ですよ」
「鷹津さんねぇー、どうだろうか。多分、英理奈ちゃんが説得はしてくれてるだろうけど、怪しいよね。だったら、犬飼さんの方から攻めてみるか」
「そうですね、その方が良いと思います」
教室を出てD組を目指しながら、犬飼について考えていた。
英理奈の情報では、中学時代サッカー部に所属していたのは間違いないらしいが、杏は犬飼という選手を知らないようだ。
県内の中学サッカーにも詳しい杏が知らないとなると、県外から引っ越して来たのだろうか。
それとも公式の試合に出れない何かしらの理由が。
気になる点は多いけれど、本人の口からゆっくりと聞けば良い。
その方が交友関係の構築にも繋がるからな。
D組のクラスに着くと、人はまだ大勢いる。
大半が雑談で盛り上がっていて、俺達が目立つ事は無かった。
他クラスの生徒なので変に注目を集めたらどうしようかと思っていたけど、案外考え過ぎだったみたいだ。
「あのー、犬飼 奏さんっている?」
「犬飼さん? 犬飼さんならあそこの席で寝てるけど」
扉に1番近い生徒に犬飼がまだ残っているか尋ねると、窓側の席で顔を伏せて寝ている紺色の髪を指差す。
「もしかして、知り合いとか?」
「同じ部活なんだけど、練習へ誘いに」
「あぁ、サッカー部なんだ君達。犬飼さんと誘うの大変だと思うけど頑張ってね」
もう放課後なのに寝ているとは、変わった奴だなと思いながらも、貴重な人員として声を掛けるしかない。
ツンツンと寝ている犬飼の肩をつつくと、急に電源が入ったみたいにパチリと目を開ける。
そして、ふわっと起き上がると目を擦りながら状況を把握しようと辺りを見渡し始めた。
左、右と向く度に、ウルフカットの襟足が尻尾のように揺れる。
理解が追い付いてくると、黙ってこちらを見つめ始めた。
言葉にはしていないけど、用があるならどうぞと言いたげだ。
「犬飼 奏さんであってるよね?」
返事をする代わりに、彼女は一度だけ頷いた。
「私達、サッカー部の新入生なんだけど、犬飼さんもサッカー部入ったんだよね?」
またしても言葉は無く、力無い頷きだけが残る。
「顧問の刈谷崎先生から聞いたか分からないけど、どうやら先輩が練習してないみたいでさ。1年生だけでも、一緒に練習しないかなと思って来たんだけど、……どうかな?」
今度は頷きすらしない。何かを訴えた眼差しでこちらをじっと観察している。
目を合わせているのが気まずくて目線を逸らすが、視界の端でまだ見つめているのが分かる。
否定も肯定もされない現状。
投げたボールは相手が持っているはずなのに、まだこちらが持っているのかと疑いたくなる。
人には人の会話のペースがあるものだ。
もう少し待ってみるか。
「春陽さん、ここは一旦引いた方が良くないですか?」
耳元でこそこそと杏が囁く。
しばらくしても、一向に進まない話に痺れを切らしたみたいだ。
どうしても犬飼には練習へ参加してもらいたいけれど、杏の助言は正しい。
初対面でいきなり距離を詰められたら、誰だって戸惑う。
日を改めて、少しずつ関係を構築していくのがセオリーか。
「いきなりごめんね、犬飼さん。でも、参加したくなったらいつでも言ってね。大歓迎だから」
「私も待ってますので、是非気が向いたら」
最後にダメ元で念押ししてみた。
それでも、彼女は一言も言葉を発さない。
少し口を開いたので何か言うかとも思ったけど、息を吸う音だけが小さく聞こえる。
伝えることは伝えたので、これ以上の長居は無意味と判断。
犬飼も追い掛けてくる様子はなく、最初から徹底した静かさで俺達の背中を見送った。
これがもう1人の同期である犬飼 奏。
俺達4人にも引けを取らない個性的な選手。
ただでさえ、壊滅的なサッカー部で1年生までこれなら頭を悩ませるばかりだ。
でも、私生活でなんて関係ない。
選手として生きる者は、フィールドの上が全て。
今は彼女のプレーを楽しみにしておくことにした。
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