010話 この顧問、無知につき
誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。
面白いと思っていただけたら評価やコメントお待ちしております!
放課後になると入部届を持って職員室へ直行。
職員室ってあんまり良いイメージないけど、今ばかりは行きたくて仕方なかった。
場所は校舎棟1階の最奥に位置する。
学校という子供だらけの世界で唯一大人の集まる異質な空間。
教室とは少し違う扉の先では、カタカタとパソコンを打つ音だけが響き渡っている。
コンコンコンとノックを3回。
2回だったか、3回だったかいつも忘れてしまうけど、今回はきちんと思い出せた。
「1年A組の朝花 春陽です」
「同じくA組の藤村 杏です」
「サッカー部顧問の刈谷崎先生に用があってきました。刈谷崎先生、いらっしゃいますでしょうか」
事前に担任から確認しておいた顧問の名前で呼び掛けた。
俺の記憶が正しければ、雅野の監督の名前とは違うような気がするが、監督は外部から雇っているのだろうか。
もしもそうなのだとしたら、もっとやる気のある監督を雇った方が良い。
あれでは勝てるものも勝てない。
「はいはーい、刈谷崎は私ですぅー。どうぞぉー」
山積みのプリントが置かれた机で、メガネを曇らせながら呑気にコーヒーを飲んでいる女性教師が返事をした。
間延びした喋り方に一抹の不安を覚えるが、形式上顧問になっているだけならば関わる事も少ないだろう。
失礼しますと言って職員室の中へ入り、刈谷崎先生の近くへ行くと、コーヒーの香ばしく酸味のある匂いがふわっと香る。
テーブルの上には缶コーヒーも置いてあった。
コーヒーが好きなのか、カフェインを求めているのか。
彼女の常に微睡んだ表情を見ていると分からない。
「もしかして、サッカー部入部希望ですかぁ?」
手に持った入部届で察してたらしく、刈谷崎先生の方から尋ねてきた。
「そうです、2人とも入部希望です」
「はい、じゃあ入部届は預かりますねぇ。それにしても、5人も入部するなんて驚きですぅ。今年は誰も入部しなくて、人数が足りなくなって廃部なんて噂もありましたからぁ」
「え? そんなはずは……。3年と2年だけで11人以上いますよね?」
「んんー? そんなにはいないですよぉ。去年はいたみたいですけどねぇ。今は7人しかいないですよぉ?」
何かがおかしいとここで気付く。
俺はとんでもない勘違いをしていたのではないだろうか。
前提が全て崩れてしまう程、致命的な勘違い。
監督の名前が違うのも、部員の人数が少ないのも偶然なんかではない。
声を震わせながら、隣にいた杏に重要な問い掛けをした。
「杏……、去年のヴァルキリーカップってどこが優勝したんだっけ?」
「いきなりどうしたんですか? 去年の優勝は忘れもしない天ノ宮ですけど」
「先生、サッカー詳しくないから分からんないけどぉ、それがどうかしたのぉ?」
この世界は……ストーリーの続きなのか。
だとすると、持ちうる情報が役に立つのかどうか怪しい。
特に、他校の1年については未知数だ。
主人公クラスの化け物がいないとも限らない。
そうなれば、いくらステータスを伸ばそうと俺1人の力で優勝の可能性は低い。
でも、優勝出来ないとは言わない。
俺を誰だと思ってんだ?
99年連続優勝に導いた天才監督だぞ。
雅野高校という最弱の手札でも、ヴァルキリーカップを荒らすジョーカーに生まれ変わらせることが出来る。
これくらいのことが不可能ならとっくに連勝記録は途絶えてるっての。
「いや、今年の優勝は私達、雅野がもらいます。先生はそんな凄い世代の顧問になる覚悟をしててくださいね」
「え!? ヴァルキリーカップ優勝ですか!?」
「わぁー、多分凄いこと言ってるのよねぇ? 先生、ワクワクしちゃうなぁー!」
何度も俺を見ながら慌てふためく杏と、ふんすと鼻息を出して両手を強く握り込む刈谷崎先生。
「早速練習参加したいんですけど、どこでやってるんですか? 来る途中にグラウンドは見たんですけど、そこではなさそうで」
「そうだねぇ、グラウンドではやってないねぇ。というよりぃー、そもそもサッカー部は練習してないからねぇ」
……あはは、こんな至近距離なのに聞き間違えるなんて、俺もドジっ子だな。
「そうなんですね。で、どこでやってるんでしたっけ、練習」
「うん、だからねぇー、練習はしてないよぉ?」
「……はい? サッカー部はあるんですよね? なのに練習してないって、なんかの引っ掛けクイズですか?」
「だってだってぇー。先生、サッカーのことはよく分かんないしぃー。キャプテンの真宮ちゃんに任せたら、個人練習さえしていれば十分って言うからぁ。その方が先生も助かっちゃうし、そうしてるのぉー」
この顧問、完全に騙されている。
個人練習だけして勝てるサッカーはどこにもない。
全体練習で連携力の強化を図るのは、どこのチームも当たり前にしていることだ。
特に学生サッカーは、学業との兼ね合いもあり練習時間が限られている。
ヴァルキリーカップまで残り2ヶ月ぐらいしかないのに、この状況はまずい。
いち早く、キャプテンの真宮に話を聞かないと。
幸い、真宮は去年雅野のスタメンでプレーしていたキャラの1人だ。
顔も名前もしっかりと把握しているので、探すのは苦労しないだろう。
「ありがとうございました。これからよろしくお願いします」
「はーい、よろしくねぇ。困ったら、力になれる範囲で助けるからねぇ」
「分かりました。先生には、やってもらわないといけないことがたーくさんあるので期待してます」
「……!!? 朝花ちゃーん? 待ってぇー!! そんな怖いこと吐き捨てて行かないでぇー! 先生、過労死しちゃうのは嫌よぉー!」
職員室に響き渡る断末魔。
出会ってからの会話で1番大きな声が出ている。
しかし、決して振り返らない。
刈谷崎先生には悪いけど、顧問の肩書きを背負っている以上は動いてもらわないといけない事も出てくる。
俺の目標であるヴァルキリーカップ優勝を果たす為に、とことん付き合ってもらわねば。
それより、この後をどうすべきか迷うな。
どうせ真宮、いや、真宮先輩は、直帰してるだろうから教室へ行ってもいないはず。
なら、出来る事は今後のプランの練り直しをしながら、杏と練習するのが丸いか。
翌日以降は、真宮先輩と話をした結果によって変動させる。
「よーし、練習しよっか! 杏!」
「は、はい! 不束者ですが、よろしくお願いします!」
そうと決まれば、考えるよりも実行だ。
不安を抱えながらも、練習をする為にグラウンドを目指して走り出す。
これが伝説の幕開けとなる1歩になると信じて。
ご覧いただきありがとうございました。
よければ評価、ブックマーク、いいねお願いいたします。めっちゃモチベーションに繋がりますのでどうか、どうか!!!




