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人を埋めて殺した

中学で会ったチカマサはその冗談みたいな名前のせいでその頃は同級生から弄られていたし、知らねーけどたぶん小学校でも弄られていた。でも高校では弄られなかった。頭の配線がキレたチカマサは平気で人を殴れるようになった。想えば彼が壊れた原因は周りの環境にあったと思う。世の中は残酷だ。

今は工事現場で設計図みたいなものを持って指で指示するような仕事をしている。それが具体的にどういう仕事なのか知らないが、要するにヤクザの下請けみたいな仕事であるそうだ。



チカマサ家は混沌を呈している。先般にチカマサの弟のタケシが帰って来た。三年前に突如として行方をくらませたタケシ。チカマサが問うと新宿歌舞伎町二丁目のゲイバーで給仕として働いていたという。チカマサはタケシを死ぬ寸前まで痛めつけた上にそれを写メで撮影して僕にLINEで画像を送信してきた。その後に電話が掛かって来た。

「もう駄目だわ、俺こいつ殺す」「そうか、目出度いなあ」「手伝え」「具体的にどういうこと?」「埋める。おまえ臼井さんとこに頼めねえ?」「頼める訳ねえだろ、臼井さん暇じゃねーし」臼井さんは僕が少し懇意にして頂いているヤクザの一人だった。以前、僕は金が欲しかったので臼井さんに頼み込んで人を埋めるバイトをしたことがあった。「お前、電話だからいいけどLINEとかメールとか、残る形で言い触らすなや。お巡りさんもバカじゃねえらしいんでな、LINEとか調べるツールあるらしいわ」「何だよ使えねーな」「殺すぞ。お前いまどこでやってる?」「朝霞台の小学校」「そこに埋めりゃ良くね?」「んー………まあいいや、車だすわ。大泉学園駅まで来てもらっていい?」「今から?」「今から」「一時間で何どうにかするわ」

着替えて歯を磨いて髪を整えてジム・ビームを呑んで大泉学園にチャリを飛ばすとチカマサの車がもう来ていた。「とりあえずトランク詰めたわ」「まんま?」「いや、仕事で使ってるでけえ袋に入れてる」「弟想いだねえ」

我々は朝霞台の、竣工中という現場まで車を走らせた。到着してトランクを開けるとでかくて白地が汚れた袋に人間が入っているのが何となく分る。僕が脚、チカマサが頭の方を持って小学校へヨイショと運んだ。「こいつ全然動かねえんだけど、これもう死んでるん?」「たぶん生きてるよ」

チカマサの案内で体育館が建つ予定の場所へ来た。都合よく、何の目的でそうなっているのか僕には分からない穴が地面に大きく空いている。「ここに埋めりゃいい。あとブルーシートで包んで、上から土をかぶせりゃ、まあ大丈夫だろ」「マジ面倒臭いわー」

チカマサが袋の紐を少し解いてタケシの頭を出して云う。「お前マジで殺すから」

「つーかマジ生きてんのコレ? 何もリアクション無いんですけど」まじまじ見るとタケシは未だギリギリで生きていたが生気を感じなかった。顔は腫れ上がって目は濁っていた。「タケシ君よお、これから死ぬのに何の反応も無いの? 俺らも別に冗談でやってる訳じゃないんだけど」しかしタケシ沈黙で無反応。タケシは昔から意味不明な奴だった。高校卒業後はニートしていたタケシ。いきなり新興宗教に入信してバイトして貯めた金で仏壇を購入したタケシ。行方不明になった挙句ゲイバーでカマ掘られたタケシ。自分の兄に殴られまくって殺されようとしているタケシ。俺はこいつに何を云えば良いのか分らなかったし、タケシも何だか戸惑っているような表情を少し浮かべた。


こういう時に何を云えばいいんだろう? 気の利いた言葉は出てこない。


結局、俺は何も云わなかった。

僕とチカマサは袋を穴に落としてブルーシートを被せて上から土を掛けた。工事現場だからと云ってシャベルがある訳ではないようで、チカマサが持参したヤツで埋めた。スーツ着て来なくて良かった。僕は多汗症だし肉体労働には向いていないのだ。しかしどうにもこのやり方は現実的でない。僕は云った。「つーかこれ全然土足んなくねえ?」「向こうに土、溜めてあるから」三輪のリヤカーを見つけてそれに土を積んで穴まで運んでそこへ放る。穴がだいたい埋まった。「こんくらいで良い?」「まあ大丈夫だろ………」

我々は石神井公園まで車を走らせてバーで祝杯をあげた。チカマサはスクリュードライバー、僕はレッド・アイを頼んだ。「相変わらずキモイの呑んでるな」「バッカお前レッド・アイは躰に良いんだよ、そろそろ健康に気を付ける歳だぞ俺ら」「ふーん」「つーかここお前の奢りな。タダで人埋めるとかねーから」「まあいいか」「ほら来たぜ。じゃあ乾杯」



数年前の話である。小学校は竣工した。体育館の下ではタケシが沈黙を守っている。俺も黙っている。俺たちはあの日、タケシと一緒に云うべきだった言葉を埋葬したのだ。

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