この施設の罪深さ
ケース1 事故
死体ってのは柔らかいなあ、というのが印象的だった。最初の医療事故現場に立ち会った時のことだ。遺体を担架に乗せる折りに移乗介助を担当したのだが、吃驚するほどぐにゃぐにゃだった。それまでは筋肉拘縮でガチガチだったのに。
(拘縮とは。皆さんはプールでウォータースライダーに乗ったことはあるだろうか。足を交差させ、腕も胸の前で交差させる姿勢で滑る遊具なのだが、拘縮もあの姿勢になる。そして無理に動かそうとすれば最悪、骨折する。)
ケース2 隠匿
「これで我々も共犯ですね」と、ハザワさんが言った。
共犯、というのは家族への緘口令が敷かれたときのことだ。足先がチアノーゼを通り越して壊死しているにも関わらず、それを家族に対して秘匿しろという命令が看護部長から出された。ハザワさんは良識のある介護士なのでこの決定には否定的だった。
この方は数日後に亡くなった。死因は書類で誤魔化された。
院長と看護部長がグルなのだ。だから刑事事件に発展しない。
ケース3 放置
夜勤中。僕は三階を担当していたのだが、当直のコハラさんがすっ飛んできて、
「今すぐ来てくれ、二階で人が倒れた」と言った。
行ってみると入居されている男性がうつぶせに倒れていて、頭部付近に血だまりが出来ている。その周りを夜勤者のおばさん方がアタフタしている。
とりあえずベッドへ移乗して傷口と意識の確認。傷口は右眉に沿って三センチほどの裂傷。出血は止まっている。頭部を打ったと思われるが意識は割とはっきりしている。
が、この傷だとすぐに消毒して縫合しなければ化膿等を起こす危険性がある。オバチャンたちに看護部長へ連絡させたところ、「様子観察」の指示が出たという。
阿呆が、と思った。バイタルチェックを行うが血圧が低い。いますぐ救急車を呼ばないと、最悪、明日まで持たねえぞ。と思った。「老人ホームに入らなければいけないほど何かしらの障害を抱えている老人が頭部を打ちつけて出血までしている」のがどういうことなのか理解できないのか?
なんとか翌朝まで持ったそうですぐに病院へ行った。当然、入居者の家族には何の説明もしていないだろう。「頭を打って血が出ていたけどほったらかしていました」などと説明できるわけがない。
救急車を呼ばないのには実は理由がある。この施設には理事長のコネで入所する方が少なくない。そんな施設から「救急車を呼ばなければならないほどの事態」が起こってはマズイのだ。だから救急車を呼ばずに事故など「なかったことにする」。
通常の介護施設では考えられない措置だが、これが当施設の現実だ。




