6.命の恩人(SIDE:ラインハルト)
ライゼンシュタイン皇国の中心に位置する皇城では、慌ただしく近衛騎士たちが駆け回っていた。
昼頃から行方不明になっていた皇帝が帰ってきたからだ。
「皇帝陛下がご帰還されました!」
玉座のある広間の扉が開き、一人の青年が姿を現す。
長身の青年は玉座に向かってつかつかと歩いていく。
漆黒の髪に黄金色の瞳の端正な顔立ちをした青年は威厳を漂わせている。年の頃は二十代半ばといったところだ。
青年がどかっと玉座に腰を下ろすと、近衛騎士団長が駆け寄ってくる。
「陛下、ご無事で何よりでございます! お怪我などはございませんか?」
この青年こそ、ライゼンシュタイン皇国の皇帝ラインハルトである。
「怪我をしたが、もう治った」
ラインハルトは肩を軽く回し、口元に不敵な笑みを浮かべる。
「は? 治ったとは?」
「森で怪我をして動けぬところをとある少女に助けられた」
「少女……ですか?」
「ああ」
ラインハルトは己の腕と左足に視線を向ける。
(あれは……神聖力だったな。ということは聖女か聖女候補か。しかし、なぜあの森にいたのか)
「面白い娘だったぞ」
別れ際、自分に微笑みかけた少女の姿を脳裏に浮かべた。
紫がかった珍しい色合いの銀髪に大きな青い瞳をした少女は、まだあどけなさを残していた。おそらく成人前だろうと推測できる。
もう少し成長をすれば、美しい女性となるだろう。
そういえば、彼女は侍女らしき女性と一緒にいた。その女性は少女をこう呼んでいた。
「……ユリアン」
自然とその名前が口に出ていた。
近衛騎士団長は驚いたように目を瞬かせた。
皇帝が女性の名前を口にするなど、極めて珍しいことだからだ。
◇◇◇
ラインハルトが執務室に入室すると、侍従であるオリバーが仁王立ちしていた。
「陛下! 今までどこに行っていたのですか!?」
「オリバー。そう睨むな。目つきが悪いと女にもてないぞ」
侍従であるオリバーはラインハルトと同じ年だが、幼馴染でもある彼は若くして皇帝の侍従という地位に就いた優秀な男だ。
「目つきが悪くもなります。それにいまだに独身の陛下に言われたくはないです」
ラインハルトは整った容姿をしているし、若くして皇帝という地位にあるので数々の縁談話がある。だが、二十代半ばになっても身を固める気がないのだ。
「……気になる女性を見つけた」
皇帝から意外な言葉を聞いたオリバーは目を見開く。
「ついに身を固める決心がつきましたか! それで気になる女性というのはどこのご令嬢ですか?」
「分からん」
「は? 分からないとはどういうことですか?」
喜んだのもつかの間、女性の身元が分からないという皇帝にオリバーの眉間に皺が寄る。
「だが、手がかりはある」
「それはどういった手がかりですか?」
ますます眉間に皺を寄せるオリバーにラインハルトは苦笑する。
「オリバー。ユリアンという名の聖女か聖女候補を探してくれ」
「は?」
ぽんと肩を叩かれたオリバーはぽかんとした表情を浮かべた。




