37.龍脈を見つけました
沈黙が流れる。
「……分かった」
静かに目を伏せていたラインハルト様が頷く。拍子抜けするほど、静かな言葉だった。
「怒らないのですか?」
「なぜ怒る必要がある?」
ラインハルト様は微笑みながら首を傾げる。
「神聖力が使えることを隠していました」
「それには理由があったのだろう?」
「……はい」
「ならば、それで良い」
胸の奥で張り詰めていたものが、少しだけ緩んだ気がした。
「しかし、本当に良いのか?」
隠していた力を使うことを、ということだ。
「グレンデルを見捨てることはできません」
穢れた大地にあふれた魔物の中で怯えて暮らす人々の姿を私は知っている。
「私にはこの地を救う力があります。グレンデルの人々を救いたいのです」
本当は怖い。怖くて堪らない。
でも、誰かに命じられてではないのだ。私自身の意思でこの力を使う。
「そうか」
その一言には、私の言葉を受けとめるような静かな響きがあった。
「ユリアンがそれほどの覚悟をしているのであれば、止めることはしない。ただ、一つだけ約束してほしい」
「何でしょうか?」
「無理をしないことだ」
私は思わず目を瞬いた。
天啓の塔を立てるのは初めてではない。前世で経験があるので、多少の自信はあるが絶対成功するとは言い切れないのだ。ある程度無理をすることも覚悟していたが、まるでそれをラインハルト様に見透かされているようだった。
「でも……」
「グレンデルを救いたいというユリアンの気持ちは分かる」
穏やな声でラインハルト様は続ける。
「だが、そのために其方が傷つく必要はない。塔を立てるのはユリアンだが、全てを背負わなくともよいのだ。俺たちも協力する」
目頭が熱くなったので、慌てて俯いた。このままでは泣いてしまいそうだ。
「そうだ、ユリアン。お前は一人じゃない」
いつもように師匠が頭を優しく撫でてくれる。
「無茶はするなよ。もう無理だと思ったらちゃんと言え。分かったな」
「はい」
俯いたままでいたら、大粒の涙が床に滴る。
ラインハルト様と師匠はなぜか交互に私の頭を撫でる。
私が落ち着くまでそうしていてくれたが、髪がくしゃくしゃになってしまった。
◇◇◇
夜は魔物が活発になるため危険だということで、翌朝から行動に移すことに決めた。
私たちは夜明けとともにグレンデルの町を出る。
目指すのは町から少し離れた山間部だ。
天啓の塔を立てるためには、龍脈の位置を正確に把握する必要がある。
時々出現する魔物を退けながら、馬で進んだ。
私は一応乗馬ができるのだが、いざという時に守れないという理由でラインハルト様の馬に同乗した。
「ユリアン、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!」
あまり大丈夫ではない。ラインハルト様との距離が近すぎて、心臓の鼓動が速く鳴りっぱなしだ。
(師匠の馬に乗せてもらえばよかった!)
師匠は男性だが、異性として意識したことはない。やはりはとこ同士だからだろうか?
しばらくすると、前方に開けた場所が見えてきた。
「この辺りに龍脈があるはずだ」
ラインハルト様の手を借りて、馬を降りる。
青々とした木々に囲まれたその場所は、神聖力と似た感じの力の流れを感じとることができた。
だが、神聖力とは少し違う。もっと自然に近い力だ。
「何て不思議な……」
私はその場にしゃがみ込み、そっと地面に手を触れた。
目を閉じて意識を集中すると、大地の奥深くに何かがゆっくり流れているのを感じる。まるで光の川のような感じだ。
「これが……龍脈?」
「そうだ」
ラインハルト様はしゃがんでいる私の隣に立っている。
「龍脈の正確な位置が分かったところで、一気にグレンデルまで戻るぞ」
「一気にですか?」
ラインハルト様は転移魔法を使えることができる。転移魔法を使ってグレンデルまで戻るのだろうか?
だが、ラインハルト様がグレンデルに来てから、転移魔法陣を設置している素振りはなかった。
「ユリアン、少し離れていろ」
首を傾げながら、ラインハルト様の言うとおり、少し離れた師匠のもとへ移動する。
「ラインハルト様は何をする気なのでしょうか?」
「そういえば、ユリアンは初めて見ることになるのか?」
師匠の言葉の意味が分からず、さらに首を傾げていると突然強い風が吹き抜けた。
「きゃあ!」
「おっと!」
飛ばされそうになった私を師匠が支えてくれた。
木々が大きく揺れて、木の葉が舞い上がり、空気が震える。
風の中心にいるラインハルト様の姿が光に包まれて、その姿を変えていく。
「これはいったい!?」
光が弾けると、黒い大きな影が現れた。




