34.通信の魔道具で連絡します
デーモンウルフとの死闘? から一夜明けた。
グレンデルの町は厳戒態勢に入っている。デーモンウルフが出現した街道は封鎖され、森へ立ち入ることは禁止された。
師匠と私はこの騒動が落ち着くまで、しばらくグレンデルの街に滞在することになった。
宿の窓から外を覗くと、警備兵が忙しなく動き回っている。
「ユリアン、少し休め。昨日から一睡もしていないだろう?」
「師匠も同じではないですか」
昨日遭遇したデーモンウルフを師匠と二人で森の奥へと誘い出し、穢れた魔力を浄化することにした。
だが、神聖力を使って浄化をするには、町の近くでは不都合だ。魔物が出現したという報告があれば、警備兵が駆けつける。そうすれば、私が神聖力を使っているところを見られてしまうかもしれない。だから、森の奥へとデーモンウルフを誘導したのだ。
デーモンウルフから穢れを浄化すると、黒い毛並みは銀灰色に紫黒色の目は青い瞳へと変わった。
初めて見る神聖力を目の当たりにして、師匠は感心していた。
『いやあ。神聖力ってのはすごいものだな』と……。
これだけの神聖力が使えるのに、なぜ聖女にならなかったのかとは師匠は問わなかった。
だが、その後もデーモンウルフが次々と現れて、浄化するのに一晩かかってしまったのだ。
「私はラインハルトに連絡してから休む。お前は先に休んでいろ」
ぽんと頭を軽く小突かれた。
「そういえば、とっておきの連絡方法があると言っていましたね。どうやってラインハルト様に連絡をするのですか?」
「ああ。これだ」
師匠はかけていた丸メガネを外すと、つるの先端についていた飾りを手のひらに乗せる。
金細工で円環の中に青い玉がはまった飾りだ。つると飾りは鎖で繋がっているので、ちょうどイヤリングのように見える。
「メガネ飾りだったのですね。イヤリングかと思っていました」
「ただの飾りじゃない。これは魔道具だ」
「魔道具なのですか?」
魔道具はいろいろな形があるが、この小さな魔道具でどうやってラインハルト様に連絡をするのだろう?
興味津々で魔道具を見ている私に師匠はふっと微笑む。
「まあ、見ていろ」
飾りの青い玉が淡く光る。あの青い玉は魔鉱石のようだ。魔鉱石は魔力を込めると光るのだ。
「ラインハルト、聞こえるか? 聞こえたら返事をしろ」
しばらくすると、青い玉から聞き慣れた低い声が響く。
『ラルフか? どうした?』
「えっ! ラインハルト様の声?」
私は驚いて思わず大きな声をあげてしまった。
「ん? ユリアンもいるのか?」
「はい! います!」
返事をしながら手をあげると、師匠がぷっと吹き出す。
『そうか』
まだくくくと笑っている師匠は放っておいて、ラインハルト様の声に耳を傾ける。
『お前たちは今グレンデルにいるのだったな。何かあったのか?』
「昨日、デーモンウルフと遭遇した」
笑いはおさまったようだが、師匠の糸目の端に笑い涙が溜まっている。
『デーモンウルフだと!? グレンデルには魔物はいないはずだが?』
ラインハルト様の声の調子が変わる。
「……それがいたんだよ」
師匠は昨日の出来事を掻いつまんで説明する。ただし、私の神聖力でデーモンウルフを浄化したことは黙っていた。きっとラインハルト様の周辺にいると思われる臣下に聞かせないためだろう。
『何か事情がありそうだな。よし。調査のために騎士を派遣しよう。俺も行く』
ひととおり師匠の話を聞き終えると、何かを察したらしいラインハルト様はグレンデルに来るという。
こんな非常時なのに、ラインハルト様に会えると思うと嬉しい。
「分かった。待っている」
『ラルフ。俺が行くまでユリアンを頼む』
「別にお前が来なくてもユリアンは守るさ。私の大切な弟子だからな」
『本当にお前は一言余計だな。ラルフ』
いつもの憎まれ口合戦が始まり、私は安心する。
『ユリアン、無茶はするなよ』
「はい、ラインハルト様」
宿の位置を師匠がラインハルト様に告げると、通信が切れたのか青い玉の光は収まる。
「その魔道具便利ですね」
どうやらメガネ飾りの形をした魔道具は、通信する目的で使うもののようだ。
「興味があるか?」
「はい」
「薬草よりも?」
私は少し考えてから答える。
「……薬草より優先度は低いですが、少し興味があります」
「素直でよろしい」
ふっと師匠は柔らかく笑った。




