31.薬草の仕入れにいきます
薬草の仕入れをするために師匠と小旅行をすることになった。
行く先はライゼンシュタイン皇国の北西部にある山間の町グレンデルだ。
エルフェリア王国との国境付近にある町で、標高が高く昼夜の寒暖差が激しいらしい。
「先ほどから顔が緩んでいるな。そんなに楽しみなのか?」
「だって、薬草の仕入れですよ。どんな薬草があるのか楽しみです」
馬車に揺られながら、頭の中で想像を膨らませる。
「これから行くグレンデルの町には、珍しい薬草を扱う商人がいる。店では手に入りにくいものがたくさんあるだろう」
特殊な環境でしか育たない薬草を数多く扱っているというので、楽しみで仕方がない。
「たくさん買いましょうね!」
「おいおい。予算というものを考えてくれよ」
「……ではほどほどに」
「今の間は何だ?」
店の仕入れはほどほどにして、個人的にも購入したいと思っている。と言ったら師匠は呆れるだろうか?
「何でもありません」
ごまかすように笑って、窓の外に顔を向ける。
皇都から出発したのは昨日だ。途中の町で宿に泊まってから、さらに半日馬車を走らせている。
「あとどれくらいで到着しますか?」
「夕方には着くだろう」
薬草の仕入れは明日になるが、薬膳料理が食べられる店があるらしいので、師匠と食べに行く予定だ。それも楽しみの一つである。
もうすぐでグレンデルの町に到着するというところで、突然馬車が止まる。
「どうしたのでしょう?」
「ちょっと見てくる。ユリアンは中で待っていろ」
馬車の調子が悪いのだろうかと首を傾げていると、外から話し声が聞こえてくる。
「最近、この先の森で魔物が目撃されております」
「魔物だと?」
「はい。街道には出てこないと思いますが、お気をつけください」
「分かった」
師匠は話を終えると、馬車の中に戻ってきた。何やら難しい顔をしている。
馬車がゆっくりと走り出したので、外の様子を伺うと武装をした男性が数人見えた。
「師匠、あの方たちは?」
「ああ。グレンデルの警備兵だ」
「魔物が出ると聞こえましたが?」
「そのようだな。しかし妙だな」
師匠は考え込むように腕を組み、眉を顰めた。
「何がですか?」
「この辺りには魔物はほとんど出ないはずなんだ」
「そうなのですか?」
「グレンデルはエルフェリア王国と近い。山を越えると、ベルクレアという町がある」
その地名を聞いて、私ははっとする。
「もしかして天啓の塔の恩恵があるのですか?」
ベルクレアには天啓の塔がある。国は違えど、大地は繋がっているのだ。聖脈がここを通っている可能性が考えられる。
「さすがに知っているか。エルフェリア王国に聖脈があるように、ライゼンシュタイン皇国には龍脈というのが通っている。だが、この辺りはどういうわけか龍脈が通っていない。しかし、ベルクレアの天啓の塔のおかげで、神聖力の恩恵がこの地にもある」
国境付近の町では珍しいことではない。エルフェリア王国と隣接している国の国境付近には、そういった恩恵があるのだ。
恩恵に関しては、国同士の条約で「自然発生する恩恵については関知しない」という条項で結ばれている。
「聖女の神聖力は強力だ。今までこの辺りは魔物が出ない安全な地だったはずなんだ」
「それなのに、魔物が出るようになったのですね」
「そういうことになるな」
天啓の塔の恩恵を受けている土地に魔物が出るということは、神聖力が十分に塔へ行き渡っていないということになる。
(ソフィアが神聖力を塔へ送るのをサボっているのかしら?)
私は聖女候補の判定式で見たソフィアの神聖力を思い出す。あれは確かに神聖力だった。定期的に天啓の塔に送っていれば問題はないはずだ。
しかし、同時にソフィアの服の袖口から漏れていた紫色の光のことも思い出す。あの時、私は関わり合いたくなくて、そのことに触れることはなかった。
あれはやはり魔道具の光だったのだろうか?
(でも、神聖力を生み出す魔道具なんてあったかしら? 増幅させる魔道具ならありそうだけれど、禁術の類だろうし……)
魔道具のことはあまり詳しくないが、調べてみたほうがいいのだろうか?
魔物が出現するという森を見ながら、私は考え事に没頭する。
森は不気味なほど静かだった。




