29.彼女を守りたい(SIDE:ラインハルト)
翌日、午前の会議が終わった後、ラインハルトはこっそりと皇宮を抜け出し、ラルフの店に向かった。
店に入るが、ラルフとユリアンの姿はない。おそらく休憩中なのだろうと、応接室に向かう。
話し声がするので、扉をノックしようとして手が止まる。
「その……今は立派な皇帝でいらっしゃるので、子供の頃から聡明だったのかな? ……と思いまして」
ユリアンがラインハルトの子供の頃のことをラルフに尋ねているところだった。
盗み聞きをするつもりではなかったが、ユリアンがラインハルトのことを立派な皇帝だと褒めてくれたことが嬉しく、ノックをする手を止めてしまったのだ。
「う~ん。賢いやつではあったが、悪ガキだったな」
ラルフの答えに反論しようと、つい反射的にノックなしで扉を開けてしまった。
「誰が悪ガキだ?」
確かにラルフやオリバーと一緒になって、側仕えの者たちをからかって遊んではいた。だが、ラインハルトたちと一緒になっていたラルフも同罪だ。
そして、ラルフがまだユリアンにフルネームを名乗っていないことにも驚く。
二人は気が合うので(主に薬草のことでだが)、とっくに名乗っていると思ったのだ。
『実は私と君ははとこ同士なんだ。だから薬草好きなところは似ているな』などと話していたのではないかと、ラインハルトは勝手に想像していた。
実際ユリアンはラルフがオーベルシュタイン大公家の出身だと知って、物凄く驚いていた。
ラルフは特に聞かれなかったので、名乗らなかったと言う。
(そういえば、ラルフは大雑把だからな。薬草のことだけは妙に細かいところがあるが……)
その後、自分を無視して二人で盛り上がっていたので、ラインハルトは面白くなかった。だから、わざと話を途中で遮るように咳払いをしたのだ。
休憩が終わったので、三人で店に戻るとユリアンは早速ラインハルトに尋ねる。
「ラインハルト様はどういった薬草をお求めなのですか?」
「最近、寝つきが悪くてな。寝つきが良くなる薬草はないだろうか?」
ユリアンはラインハルトに症状を聞きながら、カルテに書き込んでいく。薬草を調合する時に作るカルテは、ユリアンが自分の勉強用に始めたものだが、ラルフもそのやり方を気に入って店に導入しているという。
「だったら永遠に眠れる薬を調合してやるぞ」
にやにや笑いながら、ラインハルトをからかうラルフを射殺す勢いで睨む。
「その時はお前も道連れだ」
「おお、怖っ!」と言いつつも、ラルフは全く怖がっていない。他の者がラインハルトに睨まれれば、震えあがるか気絶しているところだ。
「それでは薬草を調合してまいります。一週間分くらいお作りしますか?」
「いや。三日分で構わない。それでもまだ寝つきが悪いようであれば、また来る」
薬草が欲しいのもあるが、口実を作ってまたユリアンに会いにくるのがラインハルトの狙いだ。
◇◇◇
三日後、ラインハルトは再びラルフの店を訪れた。
ユリアンに調合してもらった薬草は驚くほどよく効いた。寝つきが良くなったのもあるが、良質な睡眠をとれたおかげで、翌日すっきりと目覚めることができたのだ。
(これからユリアンに調合してもらった薬草を常用しようか?)
そんなことを考えながら店に入ると、ラルフが客の対応をしていた。
客と話しながらもラルフはユリアンは薬草畑にいるというように、裏へ続く扉をさりげなく指差した。
そこでユリアンが魔力を使うところをラインハルトは目撃してしまう。
ユリアンは慌てたように取り繕ったが、ラインハルトはユリアンがなぜ神聖力が使えることを隠そうとしたのか理解したのだ。
エルフェリア王国では聖女が魔力を使うことを禁忌としている。聖なる乙女である聖女は、神聖力のみを持って生まれてくると信じられているからだ。
ラルフも何となくユリアンが魔力持ちだと気づいていたようだ。
ユリアンもまた、竜の血をひくライゼンシュタイン皇家の分家であるオーベルシュタイン大公家の血縁者なのだ。魔力持ちである可能性は高い。
そしてユリアンは神聖力が使えることをさりげなく打ち明けてくれた。ラインハルトはユリアンが自分を信じてくれたことを嬉しく思った。
ユリアンが帰った後、ラインハルトはラルフに釘を刺しておくことにした。
「ラルフ。ユリアンが神聖力を持っていることは他言無用だ」
「お前に言われなくとも分かっている。私はユリアンが気に入っているからな」
何となくラルフの言い方は気に入らなかったが、ユリアンがこの国にいる限り全力で守ろうとラインハルトは心の中で誓った。




